ドクターにインタビュー

vol.21

[2]良好胚移植を繰り返しても妊娠しなければ・・・

松林秀彦 先生(リプロダクションクリニック大阪院長)

松林秀彦

[2]良好胚移植を繰り返しても妊娠しなければ・・・

細川)
不育と不妊の境界という観点で言えば、実際、着床障害があいまいなものに思えてきます。
Dr.)
そうですね。本当に着床障害があるかどうかを把握するのは困難です。着床障害の診断のためには、着床前診断を行った上で染色体異常がない受精卵を移植する、また、着床時に出てくる物質がわかっているという前提があって初めてわかるからです。
細川)
要するに、現在の医学では着床障害の確定的な診断は出来ないので、あくまで、「疑い」の域を出ないということになりますね。
Dr.)
そういうことです。よく不育症の検査を着床障害の検査だと思っている先生(あるいは患者さん)がいらっしゃいますが、不育症の検査はあくまで不育症の検査であって着床障害の検査ではありません。
細川)
なるほど。着床しない、できないのが着床障害であって、着床するけれどもその後うまく育たないのが不育症だということですね。
Dr.)
そうです。
細川)
実際に胚移植して妊娠反応がでなかったというケースの中で、「潜在的な化学流産」、すなわち、着床したけれども母体側に問題があって妊娠判定まで育たなかったというケースはどれくらいあるのでしょうか?
Dr.)
おおよそ30%とされています。
細川)
30%もあるのですか!ほとんどは卵子に問題があるのではと漠然と思っていました。
Dr.)
コンピューター解析による研究で、あくまで、シミュレーションによるものです。都合よく解釈しているのかもしれません。
細川)
はい。
Dr.)
それによると、不育症が約30%、受精卵の異常によるものが約50%、そして、着床障害と考えられるのが約20%という割合です。
細川)
それくらい高頻度に、いわゆる、「潜在的な化学流産」が起こっている可能性があるということですね。
Dr.)
はい。ただ、胚移植後に妊娠反応がでなかった方の本当の原因を知ることは出来ません。だからと言って、目の前で困っている患者さんがいらっしゃるわけですから、それが可能になる将来まで手をこまねいているわけにもいきません。
細川)
よくわかります。であれば、もっと前の段階での不育症検査が行う必要があると。
Dr.)
そうです。私たちが不妊症の方に不育症検査を行う理由がそこにあるのです。
細川)
実際にはどの段階でお勧めになるのでしょうか。
Dr.)
良好胚を、少なくとも2回移植しても妊娠に至らない場合ということになるでしょうか。もしも、4AAの胚盤胞を2回移植しても妊娠に至らないとなると、着床障害、もしくは、「潜在的な化学流産」を疑うのが自然ではないでしょうか。
細川)
なるほど。
Dr.)
ただし、移植胚を得ることにも苦労するような、あとがない、いわゆる、一発勝負を余儀なくされるようなケースでは、初めからお話しすることがあります。
細川)
なるほど。
Dr.)
実際に、そのような不育症検査で異常がみつかり、治療を行い、次回の胚移植で妊娠、出産に至る患者さんも少なくありません。
細川)
そうなのですね。
Dr.)
もしも、異常がみつからなかった場合でも、不育症ではないということがはっきりするわけですから、治療としては一歩前進ということになります。
細川)
はい。それこそ、着床障害の可能性が高くなりますね。
Dr.)
そうです。もちろん、現時点ではこの段階で不育症検査を行うことについてドクターの間でコンセンサスが得られているわけではありませんので、あくまで、患者さんが納得され、同意されてはじめて行うべきものであるのは言うまでもありません。
細川)
よくわかりました。

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