ドクターにインタビュー

vol.21

[4]不育症のリスクファクターとその治療法

松林秀彦 先生(リプロダクションクリニック大阪院長)

松林秀彦

[4]不育症のリスクファクターとその治療法

細川)
不育症の原因と治療について教えてください。
Dr.)
妊娠初期の流産の原因のほとんどは、たまたま、受精卵に染色体異常があったというものです。ただし、繰り返し起こる場合には、流産を起こしやすくする「リスクファクター」が存在することがあります。
細川)
原因ではなく、リスクファクターだと。
Dr.)
そうです。検査に異常値がある場合でも、100%流産するわけではありませんので、「原因」ではなく、「リスクファクター」なのです。ですから、治療はリスクをできるだけ低くし、妊娠継続の確率を高めることになります。
細川)
なるほど。それではどのようなリスクファクターがあるのでしょうか。
Dr.)
日本における不育症のリスクファクターとして最も頻度が高いのは、第Ⅶ因子やプロテインS、プロテインCなど血液凝固因子異常によって血栓を引き起こしやすくなるというもので3割弱あります。
細川)
最も多いリスクファクターは血液凝固因子異常なのですね。
Dr.)
そうです。その次に多いのは抗リン脂質抗体全般で、抗リン脂質抗体というのは免疫のバランスが崩れてつくられる自己抗体のひとつです。これも胎盤に血栓ができやすくなることで流産のリスクを高めると考えられていて、約2割弱あるとされています。
細川)
血液凝固因子の異常も、抗リン脂質抗体も、いずれも血栓ができやすくなり、胎盤の血流を悪くし、胎児に酸素や栄養が行かなくなることによるもので、リスクファクターのだいたい半分を占めるわけですね。
Dr.)
そうです。いずれも治療は低用量アスピリンの内服です。症状の度合いによってはヘパリン皮下注射を併用する場合もあります。
細川)
はい。
Dr.)
そして、子宮形態異常や夫婦のどちらかの染色体異常、甲状腺機能の亢進や低下、糖尿病などの内分泌異常などがあります。子宮形態異常は、その程度によっては手術が必要になることもありますが、治療なしで妊娠、出産できることも少なくありません。
細川)
染色体異常と診断されると、治療しようがなく、とても重い印象を受けますが、実際に出産に至る確率をみると、それほど悲観することもないようです。
Dr.)
そうなのです。私は染色体の「異常」というよりも「転座」と言っています。日常生活には何ら問題ないのですが、妊娠を目指した時だけある一定の確率で胎児染色体異常が起きるだけです。
細川)
なるほど。
Dr.)
ロバートソン転座の場合、出産に至る確率は正常な場合とほとんど遜色ありません。
細川)
そうですね。
Dr.)
甲状腺は、機能低下でも亢進でもどちらも流産を引き起こしますので、お薬でコントロールします。糖尿病の場合でも食事療法やお薬で血糖値を管理し、妊娠を目指します。
細川)
はい。
Dr.)
心理的な要因も関与しています。不安や抑うつで子宮内の血管が収縮し、血流が低下することで流産のリスクを高めるのではないかと考えられています。
細川)
なるほど。
Dr.)
そのため精神的なケアがとても重要です。流産を繰り返す女性には神経質でなにごとにも完璧を求める性分の方が少なくないように思います。そのためリスクファクターや治療法、出産率などについて正確な情報を伝えることが大切です。それだけでもずいぶん安心されます。もしも、異常がなければ、たまたま、偶発的な流産が繰り返し起こったということで、前を向けるようになれると思います。
細川)
なるほど。それぞれの患者さんのリスクファクターをできるだけ正確に評価することが大切ですね。
Dr.)
あと、あくまで、リスクファクターですから、気の進まない治療であれば受けなくてもよいのです。
細川)
なぜでしょうか?
Dr.)
もしも、原因であれば、気が進まなくても、痛くても、決められた治療を受ける必要があります。
細川)
はい。
Dr.)
ところが、リスクファクターの治療は流産を完全に予防するものではなく、リスクを下げること、すなわち、流産になる確率をできるだけ下げようとすることが目的ですから、嫌な治療を無理して行なって、かえってストレスになるようであれば、その治療がデメリットになる可能性があります。たとえば、ヘパリン注射は1日2回とされていますが、どうしても1回しかできないという方には1回でもやむを得ないと思いますし、妊娠してから始めたいとおっしゃる方にはそれで構いません。
細川)
患者さんの希望を優先させることが大切だと。
Dr.)
不育症治療はサプリメントのようなものだと言われる専門医もいらっしゃいます。
細川)
出産へのサポートだと。
Dr.)
そうです。補完するということですね。
細川)
なるほど、よくわかりました。

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