ドクターにインタビュー

vol.22

[6]インスリン感受性を高める生活習慣が鍵

神野正雄 先生(ウィメンズクリニック神野院長)

神野正雄

[6]インスリン感受性を高める生活習慣が鍵

細川)
先生は生活習慣の改善も積極的に推奨していらっしゃいます。
Dr.)
インスリン感受性をよくすることが鍵になります。遺伝的素因と加齢、そして、悪い生活習慣によって、老化が促進されることは既にお話した通りですが、この内、唯一私たちがコントロールできるのは生活習慣だけですからね。
細川)
そうですね。具体的に教えてください。
Dr.)
それでは、生活習慣の7つのポイントを説明します。

【歩く】毎日、太陽の光を浴びながら、45〜60分以上の連続した歩行
まずは、歩くこと。それも、毎日、45分以上連続して歩くこと。細切れだと代謝が変わらないからです。 また、朝に太陽の光を浴びながら歩くこと。 なぜなら、光を浴びると16時間後に、 入眠を司るホルモンである、メラトニンが分泌され、質のよい睡眠につながります。 睡眠不良は翌日のインスリン抵抗性を招くからです。体力に余力のある方は、45分歩行の最中に、3分間の早歩きを5回挿入すると、より効果的です。

【体重の適正化】適正な体重を維持
BMI「体重(kg)/身長(m)2」を19~25の範囲に。肥満はインスリン抵抗性をおこします。 一方、やせ過ぎも妊娠しづらくなります。 これまでの経験では18.5以下だと子どもができにくくなります。たとえ体外受精をしても妊娠率は不良です。

【楽しく】ストレスを避けるだけでなく、楽しくハッピーに過ごす
ストレスを避けることが大切なことは誰でも知っていますが、 それだけだと、単にマイナスがなくなってゼロになるだけです。インスリン感受性に対しプラスにするには、笑うことが重要です。 インスリン感受性とストレスの関係を調べた研究があって、 怖い映像を観た後はインスリン抵抗性がおこり、楽しい映像を観た後はインスリン感受性が増加することが示されています。 ストレスを避けるだけでなく、楽しく幸せに過ごすことが大切なのです。

このことは、健康で、仲のよい幸せなカップルのところに 子どもができるということに他なりません。 実に当たり前で、本当は誰でも知っていることですが、多くのひとがすっかり忘れているのです。 子どもができないからといって悩んだり、くよくよしたりしていると 余計に出来にくくなってしまうのです。 私は、患者さんに、毎朝、鏡をみて自分に笑いかけなさいと言っています。楽しく幸せになるためには、そうなろうと思うことがまず重要で、初めはポーズでもだんだん本当に楽しく生きるようになります。精神面は極めて重要です。

【よく寝る】11時前には就寝し、7~8時間眠る。
睡眠は長さだけでなく、いつ寝るのかも大切です。具体的には午後10~11時に寝て、朝は6時頃に起きましょう。たとえば、夜勤をする人は心筋梗塞の発生率が高く、 長生きしないことが多いです。 人間は昼活動し、夜に寝る動物で、 夜に身体を修復するホルモンが分泌されるようにできています。 道路の修理を夜中の車の通らないときにするのと同じです。 ところが、もしも、それに逆らって、夜に活動すると、 身体は効率よく修復されなくなってしまい、 病気にかかるリスクが高くなったり、 妊娠のことで言えば、卵の生成や子宮内膜の調整もうまくいなかくなったりするのです。 適切な時間に、適切な長さの睡眠をとることです。

【飲酒の間隔をあける】1日飲んだら、3~5日飲まない
もちろん、大量の飲酒は控えるべきです。しかし、たとえ少量でも連続して飲むとインスリン抵抗性が起きます。 1日飲んだら、3~5日は一滴も飲まないことが大切です。

【禁煙】タバコは1本も吸ってはいけない
女性がタバコを吸うと、卵発育、着床、児の脳に障害をもたらすことが報告されていますが、 男性だけが喫煙した場合でも、精子のDNAが傷つき、 児の5歳未満での悪性脳腫瘍とリンパ性白血病の発生率が 5倍に増えることが分かっています。 夫婦ともに、減煙ではなく、禁煙しなければいけません。

【よい食事】新鮮な食材を調理して3食バランスよく食べる
食事は、新鮮な食材を調理して、バランスよく、3食食べることです。インスタント食品やファストフード、レトルト食品ばかり食べていてはダメです。 あと、ゆっくり食べること。また、白米やうどんを食べるときは繊維分と一緒に食べて、 血糖値の急上昇を避けることを勧めています。 白米を玄米にするとなおよいですね。 また、清涼飲料水やキャンディー、チョコレートなどの甘いものも控えるべきです。

以上の7つのポイントを、普段、患者さんに指導しています。 7項目は互いに影響を及ぼしあうため、1つの項目も手を抜くことはできません。全てを実行するときに、最大の効果が期待できます。そして、軽症の不妊症であれば、これだけで妊娠に至りますし、 重症例でも体外受精を含めた全ての不妊治療の妊娠率が上がります。
細川)
インスリンの感受性をよくすることはいつまでも若々しく過ごすための生活法でもあるわけですね。
Dr.)
健康的な生活習慣を実践して、よい卵子、よい精子を育みましょう。ただ、皆さん、忙しい日常を送る中で生活習慣を改善するというのは決して簡単なことではないと思います。
細川)
そうですね。
Dr.)
成功の秘訣は、まず、心の底から悟ることです。どういうことかと言うと、それぞれの意味、すなわち、なぜすべきなのか、そのことでどんな効果があるのかについて、十分に理解するということです。中途半端な理解では続かないからです。
細川)
取り組む意味を完全に理解する。
Dr.)
また、楽しみながら取り組むことも大切です。あと、毎日すること、測定し、記録することです。
細川)
はい。
Dr.)
人によっては、何かをあきらめることが必要になることもあります。例えば、仕事から夜10時に帰る人が11時に寝ることは無理です。早く寝るためには、2~3時間早く(7~8時に)家に帰らなければ、継続できません。しかし早く仕事を終えると、時には会社からの冷遇を招くこともあるでしょう。会社での出世や昇給をあきらめて、換わりに、健康や子供を得るという覚悟が必要となるのです。
細川)
それぞれ意味することはとても深いですね。

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