ドクターにインタビュー
vol.25
精索静脈瘤と男性不妊 〜精子の質を高めてパートナーの治療成績の改善を図る
菅藤 哲 先生(かんとうクリニック院長)
【2】精索静脈瘤と男性不妊 〜 どのように男性不妊を引き起こすのか
- 細川)
- それでは、精索静脈瘤はどのように男性不妊の原因になるのか教えてください。
- Dr.)
- 精索静脈瘤が男性不妊の原因に至るメカニズムは、決して単純なものではなく、完全にわかっているわけではありません。
- 細川)
- 精索静脈瘤の影響は複雑で、よくわかっていないところもあるのですね。
- Dr.)
- そうです。ただ、精索静脈瘤ができると精巣温度が上昇したり、血流障害を起こしたりして、精巣の働きがダメージを受けてしまいます。
- 細川)
- はい。
- Dr.)
- そうなると精子がうまくつくられにくくなり、精子の数が減ったり、運動率が低くなったりして、妊娠させる力が低下するのではないかと考えられています。
- 細川)
- 精巣温度の上昇や血流の悪化によって精液所見が悪くなるのですね。
- Dr.)
- そうですね。また、精索静脈瘤による酸化ストレスは精子の質の低下、すなわち、精子DNAの損傷を招きます。
- 細川)
- 精索静脈瘤は活性酸素を増やし、そのダメージで精子DNAの二重螺旋がちぎれてしまい、損傷を受けてしまうと。精子の質を低下させてしまうわけですね。
- Dr.)
- 精子DNA損傷率が高くなると自然妊娠が困難になると言われていますし、人工授精や体外受精、顕微授精の治療成績の低下も招いてしまいます。
- 細川)
- なるほど。卵子だけでなく、精子も質が大切なのですね。
- Dr.)
- そういうことです。
- 細川)
- 男性不妊の原因になり得ること以外に男性の健康にどのような影響があるのでしょうか。
- Dr.)
- 2つ挙げられます。1つはメンタルへの影響です。
- 細川)
- 精神面にも影響するのですか?
- Dr.)
- ルネッサンス時代の医学書には、既に精索静脈瘤についての記載があり、メランコリックに血液がうっ帯していると書かれています。要するに憂うつになるということでしょう。実際に静脈瘤の患者さんに聞いてみると気になるという方が少なくありません。
- 細川)
- なるほど。
- Dr.)
- 実際には、なんらかの違和感があるようです。ただ、手術した後、それがなくなると皆さん、スッキリされるみたいで、それが表情に現れる人もいるし、気質が変わるという人、仕事や学業のパフォーマンスが上がることもあるようです。
- 細川)
- それは意外でしたが、なんとなくわかるような気もします。
- Dr.)
- そうですよね。もう1つ、精索静脈瘤は精巣萎縮の原因にもなります。精巣が萎縮すると男性ホルモンの分泌が低下するので更年期障害を起こしやすくなるということがあります。
- 細川)
- なるほど。精索静脈瘤は、単に妊娠、出産のためというだけでなく、ご本人のQOLや長期に渡る健康という問題にもなり得るということですね。
- Dr.)
- そうです。たいていの不妊治療は対症療法(原因はそのままで症状のみ取り除く治療)ですが、精索静脈瘤の手術は根治療法(症状を引き起こしている原因を特定して取り除く治療)ですからね。
ドクターに訊く
ドクターにインタビュー
- 第25回 精索静脈瘤と男性不妊 〜精子の質を高めてパートナーの治療成績の改善を図る
- 第24回 子宮内膜症と不妊治療
- 第23回 納得のいく選択や決断のための“情報共有”について考える
- 第22回 老化促進物質AGEをターゲットにした不妊治療
- 第21回 不育症を正しく理解する~不妊症と不育症はひと続き
- 第20回 栄養と妊娠力
- 第19回 40代の不妊治療について考える
- 第18回 不妊治療の終結について考える
- 第17回 栄養と生殖機能の関連研究の第一人者に聞く
- 第15回 オーダーメイドの不妊治療とは?~あるべき不妊治療を考える
- 第14回 30代後半、40代からの不妊治療
- 第13回 不妊治療には、なぜ、“対話と物語”が大切なのか?
- 第12回 妊娠前からの食生活が子どもの一生の体質をつくる
- 第11回 妊娠しやすい思考ってあるのでしょうか?
- 第10回 クラミジア感染症と不妊 ~検査と治療についての正しい知識
- 第09回 ストレスフリーの不妊治療を目指して
- 第08回 体が本来持っている妊娠する力を取り戻す
- 第07回 酸化ストレスと男性不妊
- 第06回 質のよい卵を育むための生活習慣
- 第05回 不妊治療でなかなかよい結果が得られないとき
- 第04回 体外受精の後悔しない病院選びについて
- 第03回 ちゃんと知っておきたい薬のこと
- 第02回 妊娠しやすい夫婦生活とは?
- 第01回 不妊予防という考え方