ドクターにインタビュー
vol.25
精索静脈瘤と男性不妊 〜精子の質を高めてパートナーの治療成績の改善を図る
菅藤 哲 先生(かんとうクリニック院長)
【4】精索静脈瘤の治療 〜 経験豊富な医師による顕微鏡下低位結紮術
- 細川)
- どのように治療するのでしょうか?
- Dr.)
- 手術で精巣に行く静脈を遮断します。
- 細川)
- 手術なのですね。手術を受けるべきかどうかは、やはり、グレードによるものなのでしょうか?
- Dr.)
- そうですね。精索静脈瘤の程度はもちろんのこと、それまでの経緯や精液所見、男性の年齢、パートナーの女性の情報を含めて総合的に判断して手術適応を決定します。
- 細川)
- なるほど。
- Dr.)
- 静脈瘤が軽度であり、その他の状況により、SOサポートのような抗酸化サプリメントで精索静脈瘤による精子の質の低下を改善し、妊娠を目指す場合もあります。
- 細川)
- 軽度の場合は抗酸化サプリメントで改善を目指す。
- Dr.)
- 軽度の静脈瘤患者への抗酸化療法の有効性についてはいくつもの論文が出ています。実際に、ART治療を5回受けても妊娠に至らなかったケースで、静脈瘤が軽かったので、SOサポートを継続して飲んでもらって、その後、1回の人工授精で妊娠に至りました。
- 細川)
- ステップダウンできたということですね。男性側に目を向けることは本当に大切なのですね。
- Dr.)
- 不妊治療の費用もずいぶん低く抑えられます。
- 細川)
- そうですね。それでは、手術適応となった場合はどのような手術になるのでしょうか?
- Dr.)
- 精索静脈瘤の手術には大きく高位結紮術(こういけっさつじゅつ)と低位結紮術(ていいけっさつじゅつ)に分けられます。高位結紮術は開腹手術と腹腔鏡手術にわけられます。それぞれ、手術操作部位が異なり、高位はお腹の中、低位はお腹の外での手術で、高位結紮術のうち開腹手術は腹膜外手術で、腹腔鏡手術は腹腔内手術ということになります。
- 細川)
- 3つの術式があるということですね。
- Dr.)
- 腹腔鏡手術は身体への負担が大きく、全身麻酔で入院管理が必要です。また、高位結紮術は開腹手術にしろ、腹腔鏡手術にしろ、動脈やリンパ管の温存は困難で、再発や合併症のリスクは比較的高くなります。ただし、保険診療が受けられます。
- 細川)
- はい。
- Dr.)
- その一方で、顕微鏡下低位結紮術は熟練した術者が執刀すれば、ほぼ100%動脈とリンパ管を温存でき、再発リスクも合併症発生率も極めて低くなります。手術時間はトータルで1時間程度です。局所麻酔で痛みも少なく、日帰り手術も可能で、術後はすぐに日常生活に復帰できます。
- 細川)
- 顕微鏡下低位結紮術は動脈やリンパ管が温存でき、再発や合併症のリスクも低いと。
- Dr.)
- そうです。ただし、十分なトレーニングや経験の不足から細い動脈を1本でも残すと、いずれ発達して精索静脈瘤が再発することになってしまいます。
- 細川)
- はい。
- Dr.)
- 特に精巣動脈に癒着した細静脈や動脈壁内に発達した細静脈などの処理を、動脈損傷を起こさないで確実に行う技術は相当な経験を積まないと習得できません。もしも、再発してしまった場合は癒着のため再手術は極めて困難になります。
- 細川)
- 十分な経験を積んだドクターを選ぶことが大切だということですね。
- Dr.)
- ところが、年間数例程度の経験で不完全な手術が行われ、再発してしまうケースが少なくありません。
- 細川)
- どれくらいの実績を目安にすればいいでしょうか。
- Dr.)
- 年間100例以上が望ましいでしょう。
- 細川)
- 顕微鏡下低位結紮術は健康保険適応がないとのことですがどれくらいの費用がかかるのでしょうか?
- Dr.)
- 大変高価な手術用顕微鏡を使用することと高度な技術習得にトレーニングが必要であることから、米国やシンガポールなどの先進国では手術費用として100万円ほどかかりますが、国内では手術費用と〜20万円から50万円程度で行われています。体外受精と異なり、一部の自治体を除いて助成金の支給対象とはなっていません。
- 細川)
- 総額20万円から50万円。
- Dr.)
- 精索静脈瘤の手術で精子の質を改善することによって女性に対するART治療が半分の周期数で妊娠に至るという研究報告があります。そう考えると精索静脈瘤の治療のコストパフォーマンスはとても高いと言えると思います。
- 細川)
- そうですね。
ドクターに訊く
ドクターにインタビュー
- 第25回 精索静脈瘤と男性不妊 〜精子の質を高めてパートナーの治療成績の改善を図る
- 第24回 子宮内膜症と不妊治療
- 第23回 納得のいく選択や決断のための“情報共有”について考える
- 第22回 老化促進物質AGEをターゲットにした不妊治療
- 第21回 不育症を正しく理解する~不妊症と不育症はひと続き
- 第20回 栄養と妊娠力
- 第19回 40代の不妊治療について考える
- 第18回 不妊治療の終結について考える
- 第17回 栄養と生殖機能の関連研究の第一人者に聞く
- 第15回 オーダーメイドの不妊治療とは?~あるべき不妊治療を考える
- 第14回 30代後半、40代からの不妊治療
- 第13回 不妊治療には、なぜ、“対話と物語”が大切なのか?
- 第12回 妊娠前からの食生活が子どもの一生の体質をつくる
- 第11回 妊娠しやすい思考ってあるのでしょうか?
- 第10回 クラミジア感染症と不妊 ~検査と治療についての正しい知識
- 第09回 ストレスフリーの不妊治療を目指して
- 第08回 体が本来持っている妊娠する力を取り戻す
- 第07回 酸化ストレスと男性不妊
- 第06回 質のよい卵を育むための生活習慣
- 第05回 不妊治療でなかなかよい結果が得られないとき
- 第04回 体外受精の後悔しない病院選びについて
- 第03回 ちゃんと知っておきたい薬のこと
- 第02回 妊娠しやすい夫婦生活とは?
- 第01回 不妊予防という考え方