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妊娠しやすいカラダづくり No.1135 2025/3/30
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今週の内容__________________________________________________________
・最新ニュース解説: 妊娠の成立には子宮内膜の亜鉛が重要
・編集後記
最新ニュース解説 Mar. 2025_________________________________________
妊娠の成立には子宮内膜の亜鉛が重要
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胚の子宮内膜への着床には、子宮内膜細胞への亜鉛の取り込みが必須であることが麻布大学獣医学部の研究グループの研究(1)で明らかになりました。
これまで子宮内膜に亜鉛が不足し、銅が過剰になると子宮内膜の着床能が低下することが知られていましたが、亜鉛がどのような役割を担っているのかはわかっていませんでした。
今回、麻布大学の研究で世界で初めて明らかにされました。
亜鉛は妊娠、出産に重要なミネラルです。
◎どんな研究だったのか?
子宮の細胞に亜鉛を取り込む役目を持つ亜鉛輸送体ZIP10に着目し、子宮内膜細胞でZIP10を欠損したマウスと正常なマウスの妊孕性や女性ホルモンに対する応答性について比較しました。
◎どんな結果だったのか?
子宮内膜細胞で亜鉛輸送体ZIP10遺伝子を欠損したマウスでは、胚が子宮内膜に浸潤できない着床不全となり、不妊になりました。
また、子宮の細胞で亜鉛の取り込みが障害され、妊娠維持に重要なプロゲステロンのシグナル伝達を行えないこともわかりました。
さらに、培養細胞を用いた研究から、マウスだけでなくヒトにおいても子宮内膜細胞内の亜鉛イオンがホルモン応答に重要なことが明らかになりました。
このことから、胚着床には、子宮内膜細胞への亜鉛の取り込みが必須であることが明らかになりました。
◎亜鉛と妊娠率との関係
これまでも亜鉛とART成績、自然妊娠の妊娠率、亜鉛と銅の関係についての研究報告がなされています。
まずは、北京大学人民病院や山東省の病院でART治療を受けた女性患者の治療開始前日に亜鉛濃度を測定し、治療成績の関係を調べた研究があります(2)。
その結果、北京では妊娠に至った女性と至らなかった女性の間で亜鉛濃度に差はありませんでしたが、山東省では妊娠に至った女性に比べて至らなかった女性のほうが亜鉛濃度は低いことがわかりました。
その結果、亜鉛濃度は地域差があり、平均血清亜鉛濃度は北京では811.1ng/ml、山東省では778.5ng/mlでした。
そして、被験者の亜鉛濃度で4つのグループにわけたところ、北京では亜鉛濃度が最も高いグループに比べて最も低いグループの妊娠率は変わりませんでしたが、山東省では最も高いグループに比べて最も低いグループは妊娠率が低かったことがわかりました。
亜鉛が治療成績に及ぼす影響に地域差があることは興味深いところで、亜鉛以外の要素が関係しているのかもしれません。
また、妊娠初期の血中のセレンや銅、亜鉛濃度と妊娠までにかかった期間との関係を調べた研究(3)があります。
亜鉛濃度が低レベル(51μg/L未満)の女性は中レベル(51〜80μg/L)の女性に比べて妊娠まで長くかかり、血清セレン濃度でも低レベル(0.95μmol/L未満)の女性は高レベル(0.95μmol/L以上)の女性に比べて妊娠まで長くかかったとのことです。
具体的には、それぞれ、半月に相当する差だったようです。
一方、セレン濃度が低レベルの女性は高レベルの女性に比べて妊娠まで1年以上かかる割合が46%高かったとのこと。
妊娠前のセレンや亜鉛濃度は妊娠するための力に影響するようです。
さらに、原因不明不妊症の女性と健康な女性の血中の銅と亜鉛濃度を比較したところ、不妊症女性の亜鉛濃度はそうでない女性に比べて低く、反対に銅濃度は有意に高かったという研究報告もなされています(3)。
銅/亜鉛濃度は不妊症群で有意に高く、銅/亜鉛比の上昇は原因不明不妊のリスク因子となり得るようです。
ART患者を対象にした亜鉛と銅濃度との関係についての研究報告(4)もなされています。
ART女性患者の血中の銅と亜鉛濃度と妊娠率(着床率)の関係について、40歳未満の胚移植後に妊娠至ったグループと妊娠に至らなかったグループを比較しています。
その結果、妊娠に至らなかったグループの銅濃度は妊娠群に比べて有意に高いことがわかりました。
このように血中銅濃度が高いことは着床率低下に関連し、銅と拮抗作用にある亜鉛を補充し、銅濃度を低下させることで妊娠率の改善に寄与する可能性があることが示されました。
◎亜鉛は妊娠、出産に重要なミネラル
亜鉛は細胞分裂増殖をはじめ、タンパク質合成、卵子や 胚の防御機能に関与し、ベーシックで多岐に渡る代謝に必須のミネラルです。
これまで亜鉛が不足すると妊娠率が低下することがわかっていましが、今回の麻布大学の研究で子宮内膜の着床能に必須であるメカニズムが明らかにされました。
実際、直接的にも間接的にも生殖機能に関与していることから、妊娠希望のカップルは亜鉛が不足しないように予防することが大切です。
文献)
1)PNAS Nexus. 2025 Feb 10;4(2):pgaf047. doi: 10.1093/pnasnexus/pgaf047. eCollection 2025 Feb.
2)Sci Total Environ 2021; 792: 148405
3)Nutrients 2019; 11: 1609.
4)AJPS 2005; 2: 72.
5)BMC Res Notes 2017; 10: 387.
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編集後記____________________________________________________________
亜鉛は男女の生殖機能になくてはならない役割を担っています。
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妊娠しやすいカラダづくり[毎週末発行] VOL.1135
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編 集:細川忠宏(日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー)
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