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妊娠しやすいカラダづくり No.500 2013/1/13
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今週の内容__________________________________________________________
・ドクターに訊く:妊娠前からの食生活が子どもの一生の体質をつくる
・編集後記
ドクターに訊く Jan.2013_____________________________________________
妊娠前からの食生活が子どもの一生の体質をつくる
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ドクターに訊く、今回のテーマは、妊娠前からの栄養や食生活が子どもの心
身の健康に及ぼす影響についてです。
妊娠前と妊娠中の母親の栄養状態が、赤ちゃんの胎内の発育状態だけでなく、
生まれてからの心身の健康、さらには、成人後の体質まで決めることをご存
知でしょうか?
ダイエットなどで栄養不足のまま妊娠したり、食生活の乱れなどで妊娠中に
十分な栄養を摂っていなかったりすると、胎児の胎内での発育に影響を及ぼ
すだけでなく、遺伝子の働きを調節するメカニズムが変化して、子が生活習
慣病にかかりやすくなる体質になることが、これまでの研究でわかってきま
した。
これを「成人病(生活習慣病)胎児期発症起源説」といいます。
つまり、母親となる女性の食生活が子どもの一生の体質を決めてしまうので
す。
これから妊娠・出産を目指す女性にとっては、まさにいま食生活に気をつけ
ることで、それを防ぐことができます。
健康な赤ちゃんを妊娠、出産するために、ぜひ知っておいて欲しいこと、い
や、知っておくべきことを皆さんに伝えたいと強く思い、産婦人科医であり、
この分野の第一人者でいらっしゃる、早稲田大学総合研究機構研究院教授の
福岡秀興先生にお話を伺いました。
インタビューの内容
【1】妊娠前の栄養状態が赤ちゃんの発育に及ぼす影響とは?
【2】「生活習慣病胎児期発症説」とは?
【3】遺伝子の発現にも影響する妊娠前、妊娠中の栄養素
【4】すこやかな新しい命を育み、紡ぐために知っておくべきこと
━ 妊娠前の栄養状態が赤ちゃんの発育に及ぼす影響とは?
細川)福岡先生は、妊娠を望む女性のやせ傾向に警鐘を鳴らしていらっしゃ
いますが、その理由を教えてください。
福岡先生)現在の日本では、妊娠する可能性のある年齢の女性の4〜5人に
1人がやせています。食生活の乱れで栄養が偏ったり、ダイエットで食事を
抜く人も少なくありません。そのため、必要な栄養が十分に摂れておらず、
妊娠のための体づくりができていなかったり、妊娠しても少ない栄養で赤ちゃ
んが発育していくという事態になっているのです。
細川)やせた状態で妊娠すると、どういう問題が起こるのでしょうか?
福岡先生)まず、妊婦さんが栄養不足になると、赤ちゃんがおなかの中で十
分に成長できなくて、小さく生まれてきます。生まれたときの体重が2500グ
ラム未満の赤ちゃんを「低出生体重児」といいますが、日本ではその割合が
1980年には5.2%、20年後の2000年には8.6%、2006年には9.6%と増加して、
いまでは10人に1人が低出生体重児です。また、母体が高年齢だと出生体重
が小さくなる傾向がありますので、近年の晩婚化、晩産化もこれに影響して
いる可能性があります。
細川)母体への影響は?
福岡先生)やせた状態での妊娠は、早産や切迫早産を引き起こしやすいこと
がわかっています。また、低出生体重児と正常体重児では、低出生体重児の
ほうが帝王切開の確率が2倍高くなっています。
細川)赤ちゃんとお母さん、両方にとってリスクが高まる、ということです
ね。
福岡先生)それだけではありません。「生活習慣病(成人病)胎児期発症起
源説」といって、母体の栄養不足によって、おなかの赤ちゃんが生活習慣病
の素因を持って生まれるリスクがあることがわかってきました。
この仕組みは、栄養不足の状態が受精時に近ければ近いほど、世代を超えて
受け継がれる可能性があります。
細川)妊娠前から必要な栄養をちゃんと摂る食生活をしていないと、短期的・
長期的にさまざまなリスクを抱えることになるのですね。
━ 「生活習慣病胎児期発症説」とは?
細川)お母さんのお腹の中にいるときに、胎児に生活習慣病の素因が形成さ
れるというのはどういうことでしょうか?
福岡先生)糖尿病や高血圧症などは、生活習慣が招く病として「生活習慣病」
といわれていますが、遺伝子に原因があって発症するのは30%ほどであるこ
とがわかってきました。残りの70%の原因は、胎児期の栄養不足によるもの
ではないかといわれはじめています。
この「生活習慣病(成人病)胎児期発症起源説」は、英国・サウザンプトン
大学医学部教授のデイヴィッド・バーカー教授が1980年代に提唱したもので
す。出生体重と生まれた子どもの疾病リスクの関係について詳細な調査が行
われた結果、「小さく生まれた赤ちゃんは、大人になって心筋梗塞や心臓病
のリスクが高い」ことがわかったのです。
細川)「小さく産んで大きく育てる」というのは誤りなのですか?
福岡先生)ええ、正しくはない考えです。低出生体重児は、虚血性心疾患、
高血圧症、糖尿病、メタボリックシンドロームといった生活習慣病を発症す
るリスクが高いのです。出生体重の低下は、胎児期、つまり、子宮内の低栄
養環境で発育したことで起こるのです。
細川)「低栄養なのに生活習慣病?」と不思議な気もしますが・・・。
福岡先生)妊娠中に低栄養状態だと、胎児は「少ない栄養でも生きていける」
体になって発育します。また、血液の老廃物を濾過する腎臓の糸球体という
組織の数を調べたところ、2600gで生まれた赤ちゃんは、3200gで生まれた赤
ちゃんより約30%も少なかったのです。腎臓糸球体が少ないと腎機能障害が
起こりやすく、高血圧症になりやすいと考えられます。この腎臓糸球体の数
は胎児期に決まり、出生後は増えません。このように、低栄養で胎児が発育
すると、さまざまな変化が起こります。
細川)おなかの中にいるときに「低栄養でも生きていける」という体質がで
きてしまうのですね。その体質で生まれてくると・・・。
福岡先生)生まれた後も、発育した子宮内と同じような栄養状態が続けば問
題ないのですが、栄養豊富な現代では、普通に食事をしていても、その体に
は必要以上の栄養を摂ることとなり、肥満につながっていきます。現在、高
血圧症や糖尿病を発症する子どもが増えているのも、そんな背景があるとい
われています。
細川)同じような食生活や生活環境でも、太りやすい人と太りにくい人がい
たり、やせていても生活習慣病になる人もいます。それが、生まれる前の体
質だったと考えれば、うなずけます。
━ 遺伝子の発現にも影響する妊娠前、妊娠中の栄養素
細川)妊娠前の食生活が、子どもの一生の体質に影響を及ぼすのは、どのよ
うなメカニズムなのでしょうか?
福岡先生)妊婦さんが低栄養であれば、たとえば、赤ちゃんのエネルギー代
謝は、「低栄養状態でも生きていける」ようにプログラミングされます。D
NAの配列(遺伝情報)はそのままであっても、遺伝子の働きを調節する仕
組みの変化が、母体の低栄養によって起こるのです。この遺伝子の働きを調
節する仕組みを「エピジェネティックス」といい、現在、大いに注目されて
います。
細川)遺伝子の働きを調節する仕組みの度合いが変わることで、胎児の体質
が決定されるのですね。
福岡先生)このエピジェネティックスは、受精した時点に近く生じた変化で
あればあるほど、変化しにくくなり、その変化は世代を超えて続き、時には
3代続くといわれています。
細川)体質がお孫さん、ひ孫さんまで引き継がれるのですか・・・。
福岡先生)身体ができあがってからは、低栄養などの環境の変化により生ず
るエピジェネティクスの変化は、栄養状態が改善されれば元に戻る、すなわ
ち、環境の変化に応じて変化します。しかし、胎児期の低栄養により生じた
エピジェネティックスの変化は、変化しにくいのです。
細川)このエピジェネティックスの変化に、ビタミンやミネラルがかかわっ
ているそうですが・・・。
福岡先生)それは、エピジェネティクスの修飾メカニズムのひとつに、葉酸
をはじめとするビタミンB群やアミノ酸などの栄養素が深く関わっている
「メチル化」という現象があるからです。そのため、葉酸やビタミンB6、ビ
タミンB12 、さらには、ある種のアミノ酸が不足したり、過剰になったりす
ると、遺伝子発現の度合いが変化するのです。
細川)どれかひとつの栄養素ではなく、ビタミン・ミネラルを含む、さまざ
まな栄養素が、新しい命を育むためには必須だということですね。中でも葉
酸については、妊娠前・妊娠中の摂取が特に推奨されていますね。
福岡先生)葉酸が不足すると、脊椎二分症や無脳症などの神経管がうまく形
成されない先天異常が発症するリスクが高くなるために、厚生労働省も妊娠
前から葉酸のサプリメント摂取を推奨しています。更に、葉酸の不足はそれ
だけに留まらず、子どもの健全な生育において多岐にわたる影響を及ぼしま
す。
細川)葉酸不足が、将来にわたって深刻な事態を引き起こす可能性があると。
福岡先生)はい。そして、葉酸は不足してはいけませんが、逆に過剰になっ
てもいけません。妊娠中期に葉酸を過剰に摂取すると、お子さんにぜんそく
などのアレルギーが発症しやすくなるという論文がいくつか出ています。摂
り過ぎるのも問題なのです。厚労省が推奨しているように、全妊娠期間を通
じて1日に葉酸サプリメント400μgを摂ることがすすめられています。
━ すこやかな新しい命を育み、紡ぐために知っておくべきこと
細川)お子さんを望むカップルが気をつけるべきことはどのようなことでしょ
うか?
福岡先生)妊娠前、妊娠中はやせないようにしてください。BMI(*)を
目安に、自分の適正体重を知っておくといいでしょう。
細川)そのためにも食生活が重要になりますね。
福岡先生)基本はバランスのとれた1日3食の食事です。ご飯やパン、麺な
どの主食、野菜やきのこ、いも、海藻などの副菜、肉や魚、卵、大豆などの
主菜、乳製品、果物などをバランスよくとるといいですね。胎児の細胞分裂
にかかわる葉酸は、食事だけでは不足しがちなので、食事に加えサプリメン
トを利用して下さい。
細川)つまり、ビタミン・ミネラルを含む5大栄養素を取り入れた、毎日の
当たり前の食生活が、とても大切だということですね。
福岡先生)その通りです。妊娠前に栄養環境をととのえることは、まず母親
になる自分の健康を保つことであり、受精の瞬間から始まる正しい遺伝子の
発現、つまり"命"を育み、そして、紡ぐために、とても重要です。積極的
に妊娠を望む方は、妊娠に気づく前から取り組んでいただきたいと思います。
それはさまざまなリスクを回避することにもつながります。ぜひ、食生活の
見直しをしてみてください。
細川)次世代のためにも、社会的にもっと注目されてもいい情報ですね。
福岡先生)こうしたことは本来、社会全体で取り組むべきですが、残念なが
ら日本はこの分野で遅れているため、母親になる皆さんが正しい知識を身に
つけて、子どもに伝えていくことが大切になります。お子さんが生まれたら、
食育にもぜひ気を配ってください。それが世代を超えて、すこやかな命を紡
いでいくことにつながります。産婦人科医として、一人の人間として、次世
代の子どもたちに健康に育ってほしいというのが、私の願いです。
(*)BMI(=Body Mass Index)とは?
BMIは、体重(キログラム)を身長(メートル)の二乗で割って算出。B
MIが20以下はやせ、20〜25は適正、25以上は肥満。「22」のときに最も病
気にかかりにくくなることから、BMIが22となる体重を標準体重としてい
る。
細川)本日は大変貴重なお話しをいただきましてありがとうございました。
[福岡先生プロフィール]
早稲田大学総合研究機構研究院教授。
東京大学医学部卒。東京大学助手(医学部産婦人科学教室)、香川医科大学
助手、講師、米国ワシントン大学医学部薬理学教室 Research Associate
Rockefeller 財団生殖生理学特別研究生、東京大学大学院助教授を経て、平
成19年より早稲田大学胎生期エピジェネティック制御研究所客員教授。平成
23年より現職。
厚生労働省第6次、第7次「栄養所要量」、「妊婦のための食生活指針」策
定委員等。産婦人科生殖内分泌学の視点から、妊娠中や思春期の食の問題に
取り組む。日本の成人病胎児発症説研究の第一人者。
『胎内で成人病は始まっている』(デイヴィッド・バーカー著)を監修・解
説。日本DOHaD 研究会代表幹事。
▼日本DOHaD研究会
http://square.umin.ac.jp/Jp-DOHaD/index.html
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編集後記____________________________________________________________
私たちが、サイトやメルマガによる情報発信やサプリメントの企画開発、販
売を通して、「何を実現しようとするのか」について、大きな影響を受けた
本があります。
「胎内で成人病は始まっている」という、生活習慣病(成人病)胎児期発症
起源説の提唱者であるデイヴィッド・バーカー教授が書かれた本です。
お子さんを望む女性にとって、妊娠前からの食生活が、妊娠、出産にはもち
ろんのこと、出生後のお子さんの健康状態さらには、成人後の体質にまで影
響を及ぼすということを知った衝撃は今でも続いています。
それ以来、いつかは、その本の監修者で、解説をされていた福岡秀興先生に
お目にかかり、私たちが関心をもったことについて、教えを請いたいと願っ
てきました。
そして、500回目の配信という記念すべき節目に、先生のインタビュー記
事をご紹介することが出来て、とても嬉しく思っています。
産婦人科医であり、生活習慣病(成人病)胎児期発症起源説の研究における
日本の第一人者でいらっしゃる先生は、厚生労働省の第6次、第7次「栄養
所要量」や「妊婦のための食生活指針」の策定委員もつとめていらっしゃい
ます。
さて、2003年9月6日に配信をはじめて、今回で500回目になりました。
9年半、続けてこられたのは、毎週、読んでくれる方がいるからです。そう
いう意味で、本当に感謝しております。ありがとうございました。
これまでの経験を活かして、これまで以上にお役に立てるような情報発信を
今後も続けていきたいと思います。
皆さんからのご感想やご意見をお待ちしています。
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妊娠しやすいカラダづくり[毎週末発行] VOL.500
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不妊に悩むカップルが、悩みを克服するために、二人で話し合い、考えを整
理して、自分たちに最適な答えを出すためのヒントになるような情報を、出
来る限り客観的な視点で、お届けしています。
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発 行:株式会社パートナーズ
編 集:細川忠宏(日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー)
サイト:http://p.tl/fZx7
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・まぐまぐ: 4,690部
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