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VOL.596 40代の不妊治療について考える

2014年11月16日

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 妊娠しやすいカラダづくり No.596 2014/11/16
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今週の内容__________________________________________________________

・更新情報
・ドクターに訊く:40代の不妊治療について考える
・私たちが運営するサイト
・編集後記


更新情報____________________________________________________________

サイト版「妊娠しやすいカラダづくり」の更新情報です。
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2014年11月15日 最新ニュース
脂肪酸の摂取と精子無力症の関係
http://www.akanbou.com/news/news.2014111501.html
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記事についてのご質問は下記のアドレス宛お寄せ下さい。
info@akanbou.com


ドクターに訊く Nov.2014_____________________________________________

 40代の不妊治療について考える
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ドクターに訊く、今回のテーマは「40代の不妊治療について考える」です。

晩婚化の影響で、不妊治療をはじめる女性の年齢が、年々、高くなっていま
す。そのことの一番の問題は女性の年齢が高くなればなるほど妊娠しづらく
なるということです。卵子も一緒に老化するからです。そして、たとえ、体
外受精や顕微授精などの高度生殖補助医療(ART)といえども、卵子の老
化による妊娠率の低下に対しては有効な手だてにはなり得ていません。

つまり、現在、最も有効な治療法であるとされているART(高度生殖補助
医療)でさえ、高齢女性では1回あたりの治療で妊娠できる確率は低く、そ
の結果、治療期間が長くなり、最終的に結果を出せない可能性も高くなって
しまうという現実があるということです。

であれば、高齢女性の不妊治療では、ひたすら、ARTを繰り返すしか、最
終的に妊娠に至る確率を高める方法はないのでしょうか?もしも、そうだと
すると、大きな肉体的、経済的、そして、精神的な負担に耐えることを覚悟
しておかなければなりません。

いずれにしても、高度な生殖医療技術による効果がさほど期待出来ない中で、
高齢で、特に40代から不妊治療に臨むにあたって、どのように治療に臨め
ばいいのかを考えるためには、従来の不妊治療に関する情報だけでは不十分
であるように思えてなりません。

そこで、梅ヶ丘産婦人科院長の辰巳賢一先生にお話をお伺いすることにしま
した。梅ヶ丘産婦人科では最先端のARTを含めてほとんどの不妊治療を実
施しているにもかかわらず、40歳代の妊娠症例の約半分がタイミング法に
よる自然妊娠や人工授精という、一瞬、耳を疑うような結果を出されている
からです。

私たちは、40代で不妊治療に臨もうとされているカップル、或は、既に、
長期間の治療で卵子の老化と闘っているカップルだけでなく、全てのカップ
ルにその秘訣をお伝えしたい、お伝えしなければならないと強く感じ、先生
にご協力をお願いしました。

皆さんの後悔のない不妊治療のきっかけになればと思います。

インタビューの内容
【1】妊娠率の低速低下期と急速低下期における不妊治療について
【2】数少ない染色体正常卵子をいかにして妊娠に結びつけるか
【3】40歳以上だからといって必ずしも体外受精が必要というわけではない
【4】人工授精は回数を重ねることで有効な治療法になり得る
【5】高齢でもAMHが高ければARTの治療効果が高くなる
【6】高齢だからこそ、毎周期妊娠のチャンスを持つことが最重要
【7】さまざまな選択肢を視野に入れながら・・・


【1】妊娠率の低速低下期と急速低下期における不妊治療について

細川)辰巳先生は、女性は年齢とともに妊娠しづらくなることから、不妊治
療の進め方は女性の年齢によって全く違ったものになるということを強調さ
れています。

辰巳先生)当院の女性の患者さんの初診時年齢と妊娠率、出産率の関係をみ
てみますと、20代前半をピークに、年齢とともにゆるやかに下降します。
ところが、36歳あたりを分岐点として下がり方が急になります。私は36
歳頃までのおだやかに下がる時期を妊娠率の「低速低下期」、そして、36
歳を境に急激に下がる時期を「急速低下期」と呼んでいます。

細川)妊娠率の低下は、初診時年齢が36歳まではゆっくり進むけれども、
36歳以降は急速に進むようになるということですね。

辰巳先生)そうです。このことは、低速低下期では不妊治療の開始が1年遅
れても最終的な妊娠率はそれほど低下しないけれども、急速低下期になると
開始が1年遅れると最終的な妊娠率は大きく下がってしまうということを意
味します。

細川)36歳を過ぎると治療の開始は早ければ早いほうが有利だと。

辰巳先生)そうです。次に、日本産婦人科学会による体外受精をはじめとす
るARTの総治療周期あたりの生産率[*]を見てみると、35歳までの生
産率はそれほど低下しませんが、36歳以降、急激に低下することがわかり
ます。ここでも、先ほどと同じように36歳を境に低速低下期から急速低下
期に移行するという傾向が見られます。

細川)いずれも、年齢的には35、36歳がキーになっているようです。

辰巳先生)このことは何を意味するかと言いますと、低速低下期では体外受
精に進む時期が遅れてもそれほど治療成績に影響しませんが、急速低下期に
おいては体外受精に進む時期が遅くなると、最終的に妊娠出産できる可能性
が大きく下がってしまうということです。

細川)なるほど。低速低下期ではタイミング指導や人工授精に十分な時間を
かけてからステップアップしてもその後の治療成績にそれほど影響しないけ
れども、急速低下期になると、早めに体外受精に移行するほうが得策である
ということですね。

辰巳先生)はい。このように患者さんの年齢が低速低下期にあるのか、それ
とも、急速低下期なのか、それによって、不妊治療の進め方は大きく異なっ
てくるというわけです。

細川)よくわかりました。

辰巳先生)実際に当院において35歳以下で治療を始めた患者さんは、1年
後には33%がタイミング指導などの一般不妊治療で、10%が人工授精、
そして、9%が体外受精で妊娠に至っています。

細川)35歳以下であれば1年後に半分弱の割合で人工授精までで妊娠出来
ているということですね。

辰巳先生)初診時年齢が35歳以下であれば、1年で43%の患者さんが人
工授精までの治療で妊娠に至っています。そして、低速低下期にあるわけで
すから体外受精へのステップアップを1年伸ばしても、その後の妊娠率はそ
れほど低下しませんので、タイミング指導や人工授精に時間をかけてよい時
期であると言えますね。

細川)そうですね。

辰巳先生)それに対して初診時年齢が36歳以上の患者さんの、今度は最終
的な成績ですが、17%がタイミング指導、10%が人工授精、すなわち、
人工授精までの治療で妊娠に至ったのは27%に留まっています。代わりに
22%が体外受精で妊娠に至っています。

細川)はい。

辰巳先生)この年齢になると、最終的に体外受精が必要な患者さんが多くなっ
てくることがわかります。そして、急速低下期にあたるので、体外受精への
移行を1年伸ばすと妊娠率の低下が大きくなるわけですから、この時期には
体外受精を積極的に考慮すべきであると言えます。ただし、そうは言っても
妊娠例の半数以上は人工授精までの治療で妊娠できているわけですから36
歳以上であってもある程度の期間はタイミング指導や人工授精を行う価値は
あると言えます。

細川)よくわかりました。

■この章のポイント
1)初診時の女性の年齢が35歳未満の場合はタイミング指導や人工授精に
ある程度の時間をかけてもよいが、35歳以上の場合は早めに体外受精に移
行することを検討すべきである。
2)35歳以上でもある程度の期間はタイミング指導や人工授精を行う価値
がある。

※用語解説
[1]生産率:出産にまで至った割合のこと


【2】数少ない染色体正常卵子をいかにして妊娠に結びつけるか

細川)40歳からの不妊治療についてお話をお伺いしたいと思います。

辰巳先生)まず、なぜ女性の年齢が高くなれば妊娠しづらくなるのかを考え
てみましょう。

細川)はい。

辰巳先生)体外受精の治療成績に影響を及ぼすのは、胚側の因子として、胚
の染色体異常や遺伝子異常、細胞質の異常が考えられます。また、子宮内膜
側の因子としては、子宮筋腫や子宮内膜ポリープなどの器質的な異常やホル
モンの分泌障害などの機能的な異常などがあります。

細川)赤ちゃんのほうの問題と子宮内膜の着床環境の問題があるということ
ですね。

辰巳先生)そうです。これらの因子の内、加齢によって決定的に増加するの
は、胚の染色体の数的異常です。つまり、年齢とともに妊娠しづらくなるの
は、主に、胚の染色体異常によるものと考えられるのです。

細川)卵子が老化すると染色体異常が増えると。

辰巳先生)そうです。卵子が老化することに伴って細胞質[2]内のミトコ
ンドリア[3]の機能が低下し、それによって卵細胞が減数分裂する際に染
色体が均等に分かれにくくなってしまいます。その結果、本来は23本であ
るべき染色体の数が、たとえば1本多い24本になったり、1本少ない22
本になったりし、その卵が受精すると染色体の数的異常が起こり、妊娠反応
が出る迄に胚の分裂が止まり、妊娠率が低下してしまいます。また、妊娠し
ても流産したり、さらに、出産に至っても先天異常を引き起こしたりしてし
まうことになります。

細川)年齢とともに卵の染色体の数的異常が増え、その結果、妊娠しにくく
なり、反対に流産しやすくなったり、先天異常のリスクが高くなったりして
しまうのですね。

辰巳先生)はい。体外受精で妊娠しないこと、流産すること、年齢が高くな
ると染色体異常が増えることは一連の流れなのです。どのくらいの割合で染
色体異常があるのかを調べた研究があります。それによりますと、35歳未
満では形態良好胚の56%に、形態不良胚では70%に、そして、41歳以
上になると形態良好胚でも79%、形態不良胚になると88%に染色体異常
がみられたとの報告があります。

細川)思った以上に染色体異常は多く発生しているのですね。

辰巳先生)そうですね。ですから41歳以上になると、たとえ、グレードの
よい胚が得られても8割近くは染色体異常があるということになります。

細川)年をとると妊娠しづらくなることの根本的な原因がここにあるという
わけですね。

辰巳先生)そうです。ですから、卵子のミトコンドリアの機能の低下を予防
したり、正常化したりすることが出来れば、胚の染色体異常も少なくなり、
年齢による妊娠率の低下もある程度は食い止めることが期待出来るというこ
とになります。

細川)そうですね。

辰巳先生)実際に卵子のミトコンドリアの機能を正常化させる研究が盛んに
行われています。たとえば、老化卵子に若い女性の卵子の細胞質を注入する
方法があります。ところが、出生児に異常がみられました。また、若い女性
の卵子から核(遺伝情報が格納されている)を取り出し、老化卵子の核と置
換する方法が研究されていますが、現段階では研究途上です。

細川)なるほど。

辰巳先生)要するに、現時点ではミトコンドリアの機能を正常化する、臨床
的に確立されている方法はないということです。そのため、卵子の老化によ
る胚の染色体異常を改善することは難しいというわけです。

細川)はい。

辰巳先生)であれば、40歳からの不妊治療で妊娠率を上げるためには、排
卵される数少ない染色体正常卵子をいかにして妊娠に結びつけるか、このこ
とに尽きるのです。

細川)数少ない機会をいかに確実に妊娠にもっていくかだと。

辰巳先生)そうです。根本的な治療や改善は難しいわけですから、10周期
に1回くらいしか排卵されてこないと考えられる、「妊娠する力が備わった
卵子」を、いかにして妊娠に結びつけるか、これが大切になってくるという
わけです。

細川)よくわかりました。


■この章のポイント
1)女性の年齢とともに妊娠しづらくなるのは、卵子のミトコンドリアの機
能が低下することによって卵細胞の染色体不分離が起こり、胚の染色体異常
が増えるためである。
2)卵子が老化することで起こる胚の染色体の数的異常を改善することは現
時点ではかなり難しい。
3)高齢女性の不妊治療で妊娠率を上げるためには、高齢女性から排卵され
る数少ない染色体正常卵子を、いかに妊娠に結びつけるかに尽きる。

■用語解説
[2]細胞質 細胞内の核以外の領域のこと
[3]ミトコンドリア 細胞質に存在する器官で、糖や脂質を燃料にしてエ
ネルギーを生産している。


【3】40歳以上だからといって必ずしも体外受精が必要というわけではない

細川)実際のところ、梅ヶ丘産婦人科では40歳以上の患者さんは、どれく
らいの確率で妊娠されていらっしゃるのでしょうか。

辰巳先生)平成3年から平成25年の間に19,758名の患者さんがこられまし
た。初診時年齢の内訳は、30歳未満が14%、30〜35歳未満が39%、
35〜40歳未満が35%、そして、40歳以上が12%です。

細川)35歳以上が半分弱で40歳以上の方が12%いらっしゃるのですね。

辰巳先生)初診時40歳以上の妊娠率、出産率をみてみますと、40歳では
最終的に35%が妊娠され、22%の方が出産されています。41歳では、
それぞれ、25%、15%、42歳になると出産された方が10%、43歳
になると8%になります。

細川)40歳以上の方でもそれ相応に妊娠、出産されていらっしゃるのです
ね。

辰巳先生)次に、40歳以上の妊娠例における妊娠方法ですが、タイミング
法などの一般不妊治療が30%、人工授精が21%、そして、ARTが49
%(新鮮胚移植25%、凍結胚移植24%)でした。ただし、凍結胚移植妊
娠は妊娠時ではなく、凍結時に40歳以上であったケースだけを対象として
います。

細川)40歳以上でも、タイミング指導で30%、人工授精で21%と、半
分以上は人工授精までで妊娠されているのには驚きました。

辰巳先生)この傾向は41歳以上でも、ほとんど変わらず自然妊娠が約30
%、人工授精が約20%、そして、約50%がARTによるものです。

細川)人工授精までの治療と体外受精とが半々ということになりますね。こ
れは世間で思われている印象とはずいぶん違うように思います。

辰巳先生)そうですね。40歳超えたので、体外受精でしか妊娠するのは難
しいだろうからと、多くの先生方から患者さんをご紹介いただくのですが、
40歳を超えたからといって、必ずしも体外受精でないと妊娠できないとい
うことはありません。

細川)これまでの認識が変わりました。

■この章のポイント
1)40歳以上だからといって必ずしも体外受精が必要であるというわけで
はない。


【4】人工授精は回数を重ねることで有効な治療法になり得る

辰巳先生)それでは、40歳以上の治療法別の治療成績をみることにしましょう。

細川)はい。

辰巳先生)まず、40歳の周期あたりの妊娠率は人工授精で4.4%、新鮮胚
移植で15.7%、そして、凍結胚移植で33.1%になっています。凍結胚移植
が高いのは胚盤胞まで培養できた胚のみを凍結していますのである程度の選
別を経ているからだと考えられます。41歳では人工授精が3.6%、新鮮胚
移植が13.7%、凍結胚移植で21.3%、42歳では順番に0.9%、11.7%、
18.5%、43歳では0.7%、4.9%、18.2%、44歳では0.4%、9.8%、
10.2%、45歳では0.8%、2.9%、6.3%となっています。

細川)やはり、周期あたりの妊娠率は、体外受精や顕微授精が人工授精に比
べて圧倒的に高いですね。

辰巳先生)そうですね。周期あたりの妊娠率でみるとそういうことになりま
す。ところが、最終的な妊娠数でみてみると様子が違ってきます。

細川)妊娠数では変わってくると。

辰巳先生)40歳で人工授精によって妊娠された方は53名、新鮮胚移植で
妊娠された方は33名、凍結胚移植で83名です。そして、41歳では順番
に36名、25名、38名、42歳では8名、18名、24名、43歳では
5名、7名、15名、44歳では2名、4名、6名、45歳では3名、1名、
1名という具合に人工授精がずいぶん善戦しているのですね。

細川)人工授精は周期あたりの妊娠率では低いのに、妊娠数になるとARTに
拮抗しています。なぜこのようなことが起こるのでしょうか?

辰巳先生)その理由は、なんと言っても、人工授精は多くの回数を行うこと
が出来るからです。確率だけで言えば、ARTを毎周期行うことが最も高くな
ると考えられます。ところが、そうなると、患者さんにとっては肉体的な負
担もさることながら、経済的な負担も相当大きくなり、現実的な方法として
なかなか難しいものがあります。せいぜい、年に3、4回と言ったところで
しょう。

細川)なるほど。それに比べて人工授精を毎周期行うことは、経済的な負担
という面からでも、十分可能ですね。ましてや、辰巳先生は自然周期の人工
授精を基本にしておられるとお聞きしていますので尚更のことと思います。

辰巳先生)人工授精一回あたりの妊娠率は、年齢が高くなると大変低いので
すが、回数を重ねることで累積妊娠率はそこそこのレベルになるというわけ
です。

細川)回数を実施することで有効な治療法になり得ることが、梅ヶ丘産婦人
科における長期間のデータの蓄積が物語っているというわけですね。

辰巳先生)たとえば、何回目の人工授精で妊娠に至ったのかをみてみると、
1回目で妊娠された方が最も多く、回数とともに次第に減っていき、5、6
回目以降はかなり少なくなってしまいます。

細川)体外受精に移行する目安の一つになるわけですね。

辰巳先生)そういうことです。ところが、これは体外受精に移行することに
よって、人工授精を受ける人、そのものが少なくなるからなのです。

細川)あー、なるほど。

辰巳先生)ですから、回数と妊娠数ではなく、回数と妊娠率をみてみると回
数を重ねてもそれほど低下しないことがわかります。実際のところ、10回
以上、14回くらいまではそれほど下がっていません。

細川)14回くらいまで妊娠率はそれほど落ちないというのが意外ですし、
驚きました。

辰巳先生)ところが、ARTでは回数を重ねる毎に妊娠率の低下傾向が明確に
あらわれます。

細川)そうなのですか。

辰巳先生)たとえば、初回採卵時に40〜41歳の場合、1回の採卵でどれ
くらいの妊娠率が得られるかをみてみますと1回目で15%、2回目で10
%、3回目で4%、以降は3%、1%になっています。

細川)ARTといえども年齢に対しては無力だと。

辰巳先生)このように40歳以上の周期あたりの妊娠率は、ARTによる凍結
胚移植が最も高く、続いて、新鮮胚移植、そして、人工授精が最も低くなり
ます。ところが、妊娠数からみるとそれほどの差はみられません。

細川)そうですね。

辰巳先生)実際、ARTに比べると、人工授精では回数を重ねる毎の妊娠率の
低下がそれほどではありません。そのため、40歳以上ではARTは最も有効
な治療法ではありますが、人工授精も回数を重ねることにより有効な治療法
となるというわけです。

細川)よくわかりました。

■この章のポイント
(1)周期あたりの妊娠率ではARTによる凍結胚移植が最も高く、次にART
による新鮮胚移植、人工授精が最も低い。
(2)最終的な妊娠数ではARTと人工授精ではそれほどの差はみられない。
(3)ARTは回数を重ねると妊娠率が低下していくのに対して、人工授精で
はそれほどの低下傾向が見らない。
(4)40歳以上ではARTは最も有効な治療法であるけれども、人工授精も
回数を重ねることにより有効な治療法となる。


【5】高齢でもAMHが高ければARTの治療効果が高くなる

細川)40歳以上の高齢女性でもARTを勧められるのはどのようなケースな
のでしょうか?

辰巳先生)もちろん、タイミング指導や人工授精でも妊娠できないような理
由がある場合です。たとえば、卵管に問題があるとか、重度の子宮内膜症が
ある場合。また、男性不妊でも高度の乏精子症や無精子症のような場合です。

細川)ARTでしか妊娠を望めないであろう原因あるカップルですね。

辰巳先生)そうです。そのようなケースでも、妊娠率は低くならざるを得な
いことは最初にきちんと説明しておくべくではあります。

細川)はい。

辰巳先生)また、高齢でもAMHが高値であったり、PCO(多嚢胞性卵巣)な
どで、多くの卵子が採卵できそうな場合です。

細川)多くの卵子が採卵できそうな場合。

辰巳先生)そうです。採卵で卵がたくさん採れれば採れるほど妊娠率、出産
率ともに高くなるからです。

細川)採卵個数と妊娠率や出産率は比例するということですね。

辰巳先生)はい。このことは40歳以上になっても同じで、採取卵数が多い
ほど妊娠率、出産率が高くなります・

細川)ARTを行う意義があると。

辰巳先生)高齢になると正常な卵子と出会える確率が低くなりますが、採取
卵数が多くなると正常な卵子を採取できる確率も高くなるので妊娠の確率も
高くなるのです。

細川)なるほど。

辰巳先生)そのため、高齢でもAMHが高い、あるいは、PCOなど多くの卵子
が採取できそうな場合には、積極的にARTを勧められると考えています。

■この章のポイント
高齢でもAMHが高い、あるいは、PCOなど多くの卵子が採取できそうな場合
には、積極的にARTを勧められる。


【6】高齢だからこそ、毎周期妊娠のチャンスを持つことが最重要

細川)これまでのお話で40代の女性の不妊治療に関しての認識がずいぶん
あらたまったように思います。

辰巳先生)高齢の妊娠、出産は最近になって増えているように思われている
かもしれませんが、実は1925年(大正14年)には45歳以上で2万人近い
赤ちゃんが生まれているのですね。全体の1%近くです。その時をピークに
1975年には319人で0.02%まで減っています。50分の1です。そこから
反転し、2010年は792人で0.07%に増えてはいます。

細川)この事実も驚きです。

辰巳先生)かつて、40代後半で出産していた人は、おそらく、多産の人が
多かったと考えられます。多産だと、排卵が抑制されていたり、子宮周囲や
卵巣の血流がよくなったりといったことがあったと思います。ただ、そうは
いうものの、ここまで減ってしまうのはなんらかの理由があるのかもしれま
せん。これを突き止めれば卵子の老化を防げるようになるかもしれません。

細川)近い将来になにかわかることを期待したいですね。

辰巳先生)あるいは、戦前に高齢妊娠が多かったのは、単に避妊をしない性
交回数が多かったことによるものだけかもしれません。

細川)現代はとにかく性交回数が少なくなっていると聞きます。

辰巳先生)これまでお話してきた通り、40歳代では正常な卵子が排卵する
のは数パーセントから20%にしか過ぎません。その時に妊娠の機会がなけ
れば妊娠は望めません。

細川)全くおっしゃる通りですね。

辰巳先生)正常な卵子が排卵される機会が少なくなっている高齢だからこそ、
毎周期妊娠のチャンスを持つことが最も重要です。

細川)はい。もしも、40歳以上になれば体外受精でしか妊娠できないとい
う誤った認識のもとに年に数回の体外受精だけで妊娠を目指すということに
なれば、ますます、妊娠から遠ざかってしまいかねないというわけですね。

辰巳先生)そうです。ですから、体外受精を受ける場合でも、体外受精を行
わない周期には、必ず、タイミング法や人工授精で妊娠の機会を持つべきな
のです。

細川)高齢女性で体外受精の合間に自然妊娠したという話しをよく聞きます
が、その周期にたまたま染色体の正常な卵子が排卵されたということなのか
もしれませんね。

辰巳先生)そうですね。高齢になると妊娠を左右する最も大きな要因は正常
な卵子が排卵されるかどうかです。そのため、人工授精は周期あたりの妊娠
率が低くても回数を重ねることで有効な治療になり得るのです。

細川)高齢になるほど、身体への負担がほとんどかからなくて、コストも低
く、回数を繰り返すことで体外受精に匹敵する妊娠、出産のチャンスが得ら
れる人工授精を見直すべきですね。

■この章のポイント
高齢で妊娠を希望する場合には毎周期妊娠のチャンスを持つことが最も重要。


【7】さまざまな選択肢を視野に入れながら・・・

細川)不妊治療の助成金は移行期間を経て、女性の年齢が43歳以上は助成
の対象外になることが決まりました。

辰巳先生)そうですね。加齢による妊娠率の低下、流産率の上昇が背景にあ
るわけですが、実際、43歳になると、妊娠するのは本当に難しくなります。

細川)そうですね。

辰巳先生)私は、赤ちゃんを望む方すべてに妊娠してほしいと思っています。
ところが、生殖能力には限界があります。いくらがんばっても妊娠できない
人もいます。そして、年齢が高くなれば妊娠できない人のほうが圧倒的に多
くなります。

細川)はい。

辰巳先生)そのため、43歳以上の患者さんには、むしろどこかで妊娠をあ
きらめて、子供のない人生を楽しんで頂いた方が良いとさえ思っています。

細川)はい。

辰巳先生)ですから、私は43歳以上で来院された方には体外受精は勧めま
せん。そして、これまでお話してきたように、自然妊娠の可能性があるのだ
から、毎周期チャンスを逃さない様にするよう指導しています。

細川)はい。

辰巳先生)それも、もし、運よくできれば嬉しいといった程度の期待度で妊
娠をトライして欲しいと思っています。

細川)過度に期待するのは禁物だと。

辰巳先生)そうです。もちろん、不妊治療の最終目的は妊娠だけではなく、
子供のいない人生に軟着陸して頂くことも含まれます。どうしても体外受精
まではチャレンジして納得したいと言う方には体外受精をしています。

細川)あくまで、カップルの納得感が大切だということですね。

辰巳先生)ラッキーにも、治療により最終的に妊娠出産できる人も5%程度
はいます。ただ、95%の方は妊娠できないわけで、高齢の方には、最も妊娠
の可能性のある治療を選択しながらも、どのようにして治療を終結してもら
おうかといつも考えています。

細川)40代からの不妊治療においては、授かればラッキーというくらいの
スタンスで、さまざまな選択肢を視野に入れつつ取り組むということですね。

辰巳先生)そうですね。

細川)多くのカップルに辰巳先生のメッセージが届くように心から願ってい
ます。本日は貴重なお話をお聞かせいただきまして本当にありがとうござい
ました。

■この章のポイント
40代からの不妊治療においては、授かればラッキーというくらいのスタン
スで、さまざまな選択肢を視野に入れつつ取り組むことが大切。


---[辰巳賢一先生プロフィール]----------------------------

梅ヶ丘産婦人科院長。医学博士。日本生殖医学会生殖医療専門医。
京都大学医学部卒業。京都大学病院、長浜市立病院、東京大学医科学研究所
(生殖免疫学)、京都大学病院(不妊外来、体外受精チーム)、神戸中央市
民病院副医長を経て、1991年より梅ヶ丘産婦人科。平成10年~12年には厚
生科学審議会先端医療技術評価部会生殖補助医療技術に関する専門委員をつ
とめ、一般不妊治療から体外受精などの生殖補助医療まで、不妊に関するす
べての分野での豊富な知識と経験を持つ。これまでに一万人以上の妊娠に成
功している。

▼著書「最新 不妊治療がよくわかる本」
http://urx.nu/ebzi

▼梅ヶ丘産婦人科
http://www.u-m-e.com/index.html

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私たちが運営しているサイト__________________________________________

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http://babyandme.jp/

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編集後記____________________________________________________________

この2、3年、「卵子の老化」については、ずいぶん、マスコミで取り上げ
られ、広く知られるようになりました。

その結果、多くの方々が、子づくりをはじめる時期を考えるうえでとても大
切な情報を得たことになったことと思います。

ところが、既に、妊娠しづらくなった年齢で、不妊治療を頑張っているカッ
プルにとっては、単に、卵子は老化する!という情報だけでは、片手落ちで
はないか!と、常々、思っていました。

体外受精や顕微授精などの高度生殖補助医療は、卵子の老化を治療すること
は出来ません。

それにもかかわらず、高齢で不妊治療を受けて妊娠を目指す場合、知ってお
くべきことについて、語られることがあまりにも少ないように思うからです。

それどころか、まるで卵子を若返らせることができるかのような、さまざま
な商品の宣伝広告が氾濫し、かえって、カップルを混乱させている現実を多
く目にしてきました。

そういう意味で、40代の不妊治療をテーマに、梅ヶ丘産婦人科の辰巳賢一
先生のインタビューをご紹介させていただくことは、私たちのかねてからの
念願でありました。

今回のドクターに訊くはボリュームがありますが、私としては皆さんに一気
に読んでいただきたかったので、分割せずに掲載することにしました。

皆さんの後悔のない不妊治療を受けることに役立てれば嬉しいです。

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妊娠しやすいカラダづくり[毎週末発行] VOL.596
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お子さんを望まれるカップルの"選択"や"意志決定"をサポートします
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不妊に悩むカップルが、悩みを克服するために、二人で話し合い、考えを整
理して、自分たちに最適な答えを出すためのヒントになるような情報を、出
来る限り客観的な視点で、お届けしています。
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発 行:株式会社パートナーズ
編 集:細川忠宏(日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー)
サイト:http://www.akanbou.com/
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◎発行部数
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