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妊娠しやすいカラダづくり No.617 2015/4/12
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今週の内容__________________________________________________________
・更新情報
・ドクターに訊く:不育症を正しく理解する ~不妊症と不育症はひと続き
・私たちが運営するサイト
・編集後記
更新情報____________________________________________________________
サイト版「妊娠しやすいカラダづくり」の更新情報です。
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2015年4月10日 最新ニュース
精子DNA断片化率の卵巣予備能別ART治療成績への影響
http://www.akanbou.com/news/news.2015041001.html
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2015年4月6日 曇り時々雨、のち晴れますように
治療を考える40代
http://u111u.info/jRKj
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2015年4月6日 編集長コラム
ふたりの生活はふたりがつくる
http://u111u.info/jRKo
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記事についてのご質問は下記のアドレス宛お寄せ下さい。
info@akanbou.com
ドクターに訊く Apr.2015_____________________________________________
栄養と妊娠力
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ドクターに訊く、今回のテーマは「栄養と妊娠力」です。
今回のテーマは、「不育症を正しく理解する」です。
不育症とは「2回以上の流産がある場合」と定義されています。ただし、
「化学流産」は含めないとされていますが、含めるべきとする専門医の意見
もあります。また、不育症検査や治療においても施設によって検査項目や基
準値、治療方針や内容が異なることが珍しくありません。さらに、そもそも、
不育症専門医が少ないため適切な検査や治療の機会が限られているのが現状
です。
そのため、化学流産や流産を繰り返しているにもかかわらず、適切な対策が
講じられることがないまま、漫然と体外受精が繰り返されているケース、反
対に、たまたま、流産が続いているだけであるにもかかわらず、過剰な治療
が施されているケース、さらには、ただでさえストレスフルなところに、不
育症のわかりにくさやあいまいさが、さらなるストレスになっているケース
も、よくあるように思えてなりません。
ところが、この領域の医学の進歩は著しく、30年前は不育症のほとんどは原
因不明とされていましたが、現在では不育症の約7割になんらかのリスク因
子が突き止められ、適切な治療を受けることで高い確率でお子さんを授かる
ことができるようになっています。
そこで、不育症について正しい理解を深めるべく、リプロダクションクリニッ
ク大阪院長の松林秀彦先生にお話しをお伺いしました。
不育症は、特有のわかりにくさから多くの産婦人科医や不妊治療医にとって
むつかしい疾患とされていますが、松林先生は不妊症と不育症の両方をご専
門にされ、豊富な臨床経験から、「不妊症と不育症はひと続きの疾患であり、
同時に治療されるべき」とのお考えのもとで診療に携わっておられるからで
す。
現時点では不育症の検査や治療の環境は整っているとは言い難い状況です。
そのため、正しい情報に接して、自らその環境を求めることがとても大切な
ことだと思います。
多くのカップルの「納得のいく治療機会」のためにお役に立つことが出来れ
ば嬉しいです。
インタビューの内容
【1】どこまでが不妊症でどこからが不育症?
【2】良好胚移植を繰り返しても妊娠しなければ・・・
【3】不育症検査の真実
【4】不育症のリスクファクターとその治療法
【5】不妊症と不育症は同時に治療されるべき
【6】サポーティングファティリティ
【1】どこまでが不妊症でどこからが不育症?
細川)不育症と聞くと、どうもわかりづらいという印象があります。たとえ
ば、その定義からして、化学流産は含めないとされていながら、含めるべき
だという意見も少なくないようですね。
松林先生)そうですね。どこまでが不妊症で、どこからが不育症なのか、す
なわち、不妊症と不育症の境界という観点で考えてみるとどうでしょうか。
この図をご覧ください。一週間ごとに赤い線が引かれています。まず、排卵
があって、もしくは、採卵ですね。着床があり、そして、妊娠判定、その後、
赤ちゃんの袋である胎嚢がみえるようになります。
http://akanbou.com/news/images/drmatsubayashi_img1.jpg" target="_blank">*図「不育と不妊の境界は?(1)」
細川)はい。
松林先生)この流れの中で、胎嚢が確認できた後で赤ちゃんが育たなくなっ
た場合は「流産」といい、また、妊娠反応が出た後で赤ちゃんの袋がみえる
べきときに見えなくなったら「化学流産」とされています。
細川)そうですね。
松林先生)現在、この2つが広義の意味で不育症ということになっていて、
これらが2回以上続いた場合に不育症であるとされています。
細川)化学流産を含めるかどうかは議論のあるところですからね。
松林先生)そのような状況になってはじめて不育症の検査を受け、治療しま
しょうということになっています。そして、これはどの時点で妊娠を判定す
るかという違いによるものです。
細川)そもそも、妊娠のスタートについての定義はありませんね。
松林先生)そうなのです。ただ、よくよく考えてみると、着床すると赤ちゃ
んと母体との血液の交換が行われるようになり、赤ちゃんは母体から酸素や
栄養をもらって、老廃物を排泄するようになるわけですね。そのため、本来
は、着床から妊娠が始まったと考えたいのです。
細川)そう言われると全くそうですね。
松林先生)そうすると、着床の前までは不妊症、着床後が不育症ということ
になります。
細川)要は、現在はhCG陽性反応が出る前までが不妊症で、陽性反応が出た
後が不育症とされているけれども、本来的な妊娠のはじまりということから
考えると、着床までが不妊症で、着床後が不育症とされるべきであると。
松林先生)そういうことです。そうすると、着床後妊娠判定前の「化学流産」、
すなわち、着床したけれども妊娠判定までに終わってしまったという「潜在
的な化学流産」が顕在化することになります。
http://akanbou.com/news/images/drmatsubayashi_img2.jpg" target="_blank">*図「不育と不妊の境界は?(2)」
細川)あー、なるほど!
松林先生)ところが、悲しいかな、現時点では、着床時に出てくる物質がわ
かっていないので、着床したかどうかを知るすべがないのですね。
細川)全くのブラックボックスだと。
松林先生)そうです。胚移植後に妊娠反応が出なかった患者さんに、着床し
なかったのですかと、よく尋ねられるのですが、それはわからないのです。
細川)はい。
松林先生)ただし、将来、それがわかるようになる時がやってくるはずです。
そうなると、着床の日に妊娠判定が出来るようになります。
細川)そうですね。
松林先生)そうすると、着床しなかったのか(着床障害)、着床後に育たな
かったのか(潜在的化学流産)の区別がつくようになります。
細川)はい。
松林先生)現時点で不妊症の方に不育症検査を行うのはこのような意味があ
るのです。そして、着床後、胚を育たなくなるような異常がみつければ、適
切な治療で、「潜在的な化学流産」や従来の化学流産、そして、流産のリス
クも低下し、妊娠、出産できる確率を高めることができるのです。
細川)よくわかりました。不育と不妊の本来の境界を明確にすることでスッ
キリと理解出来ました。
【2】良好胚移植を繰り返しても妊娠しなければ・・・
細川)不育と不妊の境界という観点で言えば、実際、着床障害があいまいな
ものに思えてきます。
松林先生)そうですね。本当に着床障害があるかどうかを把握するのは困難
です。着床障害の診断のためには、着床前診断を行った上で染色体異常がな
い受精卵を移植する、また、着床時に出てくる物質がわかっているという前
提があって初めてわかるからです。
細川)要するに、現在の医学では着床障害の確定的な診断は出来ないので、
あくまで、「疑い」の域を出ないということになりますね。
松林先生)そういうことです。よく不育症の検査を着床障害の検査だと思っ
ている先生(あるいは患者さん)がいらっしゃいますが、不育症の検査はあ
くまで不育症の検査であって着床障害の検査ではありません。
細川)なるほど。着床しない、できないのが着床障害であって、着床するけ
れどもその後うまく育たないのが不育症だということですね。
松林先生)そうです。
細川)実際に胚移植して妊娠反応がでなかったというケースの中で、「潜在
的な化学流産」、すなわち、着床したけれども母体側に問題があって妊娠判
定まで育たなかったというケースはどれくらいあるのでしょうか?
松林先生)おおよそ30%とされています。
細川)30%もあるのですか!ほとんどは卵子に問題があるのではと漠然と
思っていました。
松林先生)コンピューター解析による研究で、あくまで、シミュレーション
によるものです。都合よく解釈しているのかもしれません。
細川)はい。
松林先生)それによると、不育症が約30%、受精卵の異常によるものが約
50%、着床障害と考えられるのが約20%という割合です。
細川)それくらい高頻度に、いわゆる、「潜在的な化学流産」が起こってい
る可能性があるということですね。
松林先生)はい。ただ、胚移植後に妊娠反応がでなかった方の本当の原因を
知ることは出来ません。だからと言って、目の前で困っている患者さんがい
らっしゃるわけですから、それが可能になる将来まで手をこまねいているわ
けにもいきません。
細川)よくわかります。であれば、もっと前の段階での不育症検査が行う必
要があると。
松林先生)そうです。私たちが不妊症の方に不育症検査を行う理由がそこに
あるのです。
細川)実際にはどの段階でお勧めになるのでしょうか。
松林先生)良好胚を、少なくとも2回移植しても妊娠に至らない場合という
ことになるでしょうか。もしも、4AAの胚盤胞を2回移植しても妊娠に至ら
ないとなると、着床障害、もしくは、「潜在的な化学流産」を疑うのが自然
ではないでしょうか。
細川)なるほど。
松林先生)ただし、移植胚を得ることにも苦労するような、あとがない、い
わゆる、一発勝負を余儀なくされるようなケースでは、初めからお話しする
ことがあります。
細川)なるほど。
松林先生)実際に、そのような不育症検査で異常がみつかり、治療を行い、
次回の胚移植で妊娠、出産に至る患者さんも少なくありません。
細川)そうなのですね。
松林先生)もしも、異常がみつからなかった場合でも、不育症ではないとい
うことがはっきりするわけですから、治療としては一歩前進ということにな
ります。
細川)はい。それこそ、着床障害の可能性が高くなりますね。
松林先生)そうです。もちろん、現時点ではこの段階で不育症検査を行うこ
とについてドクターの間でコンセンサスが得られているわけではありません
ので、あくまで、患者さんが納得され、同意されてはじめて行うべきもので
あるのは言うまでもありません。
細川)よくわかりました。
【3】不育症検査の真実
細川)それでは、不育症検査について教えてください。
松林先生)不育症の検査では、血液検査によって、血栓や流産を引き起こし
やすくなる抗リン脂質抗体や血液凝固に関わる物質、また、甲状腺ホルモン
の異常や糖尿病の有無、そして、夫婦で染色体異常がないかどうかを調べま
す。
細川)はい。
松林先生)その他、画像診断で子宮の形態を調べる検査や不安や抑うつなど
の心理機能の検査などもあります。
細川)検査を通して不育症のリスクファクターの有無や程度を評価するわけ
ですね。
松林先生)そうです。不育症検査の特徴として、医学的な進歩が著しい分野
であることから検査項目が、年々、変わっていくということがあります。
細川)なるほど。
松林先生)因みに20年前に行われていた不育症検査の項目で現在も行われて
いるのは半数以下に過ぎません。
細川)半分以上は入れ替わっているのですか。
松林先生)そうです。ですから、アップデートは必須なのです。ところが、
依然として10年前、5年前のままで不育症検査が行われていることが珍しく
ないのですよ。
細川)そうなんですか!
松林先生)さらに、また、同じ検査でも内科で実施する検査と不育症検査と
では正常とされる値が異なるのですが、これは産婦人科医でもご存知の方が
ほとんどおられません。不育の基準値は妊娠を維持できるかどうかの基準値
で、不育の臨床経験や論文のデータから決めているため、日々の経験と新し
い知識が必要不可欠になります。
細川)なるほど。
松林先生)それだけでなく基準値が変更されていることもあります。
細川)そうなのですね。
松林先生)そのため、患者さんが過去に受けた不育症の検査の結果のデータ
を持参してもらうことがありますが、異常なしと診断されている場合でも異
常があることが少なくありません。
細川)もはや衝撃的です。
松林先生)それだけ臨床経験が豊富で、最新の論文を常にチェックしている
不育症の専門医が少ないということだと思います。
細川)なるほど。不育症の診断や治療の環境にはあまり期待し過ぎないほう
が賢明なのかもしれませんね。不育症の検査には保険がきかないものが多い
ことを考えると慎重に施設やドクターを選ぶことが大切ですね。
松林先生)そう思います。
【4】不育症のリスクファクターとその治療法
細川)不育症の原因と治療について教えてください。
松林先生)妊娠初期の流産の原因のほとんどは、たまたま、受精卵に染色体
異常があったというものです。ただし、繰り返し起こる場合には、流産を起
こしやすくする「リスクファクター」が存在することがあります。
細川)原因ではなく、リスクファクターだと。
松林先生)そうです。検査に異常値がある場合でも、100%流産するわけで
はありませんので、「原因」ではなく、「リスクファクター」なのです。で
すから、治療はリスクをできるだけ低くし、妊娠継続の確率を高めることに
なります。
細川)なるほど。それではどのようなリスクファクターがあるのでしょうか。
松林先生)日本における不育症のリスクファクターとして最も頻度が高いの
は、第7因子やプロテインS、プロテインCなど血液凝固因子異常によって血
栓を引き起こしやすくなるというもので3割弱あります。
細川)最も多いリスクファクターは血液凝固因子異常なのですね。
松林先生)そうです。その次に多いのは抗リン脂質抗体全般で、抗リン脂質
抗体というのは免疫のバランスが崩れてつくられる自己抗体のひとつです。
これも胎盤に血栓ができやすくなることで流産のリスクを高めると考えられ
ていて、約2割弱あるとされています。
細川)血液凝固因子の異常も、抗リン脂質抗体も、いずれも血栓ができやす
くなり、胎盤の血流を悪くし、胎児に酸素や栄養が行かなくなることによる
もので、リスクファクターのだいたい半分を占めるわけですね。
松林先生)そうです。いずれも治療は低用量アスピリンの内服です。症状の
度合いによってはヘパリン皮下注射を併用する場合もあります。
細川)はい。
松林先生)そして、子宮形態異常や夫婦のどちらかの染色体異常、甲状腺機
能の亢進や低下、糖尿病などの内分泌異常などがあります。子宮形態異常は、
その程度によっては手術が必要になることもありますが、治療なしで妊娠、
出産できることも少なくありません。
細川)染色体異常と診断されると、治療しようがなく、とても重い印象を受
けますが、実際に出産に至る確率をみると、それほど悲観することもないよ
うです。
松林先生)そうなのです。私は染色体の「異常」というよりも「転座」と言っ
ています。日常生活には何ら問題ないのですが、妊娠を目指した時だけある
一定の確率で胎児染色体異常が起きるだけです。
細川)なるほど。
松林先生)ロバートソン転座の場合、出産に至る確率は正常な場合とほとん
ど遜色ありません。
細川)そうですね。
松林先生)甲状腺は、機能低下でも亢進でもどちらも流産を引き起こします
ので、お薬でコントロールします。糖尿病の場合でも食事療法やお薬で血糖
値を管理し、妊娠を目指します。
細川)はい。
松林先生)心理的な要因も関与しています。不安や抑うつで子宮内の血管が
収縮し、血流が低下することで流産のリスクを高めるのではないかと考えら
れています。
細川)なるほど。
松林先生)そのため精神的なケアがとても重要です。流産を繰り返す女性に
は神経質でなにごとにも完璧を求める性分の方が少なくないように思います。
そのためリスクファクターや治療法、出産率などについて正確な情報を伝え
ることが大切です。それだけでもずいぶん安心されます。もしも、異常がな
ければ、たまたま、偶発的な流産が繰り返し起こったということで、前を向
けるようになれると思います。
細川)なるほど。それぞれの患者さんのリスクファクターをできるだけ正確
に評価することが大切ですね。
松林先生)あと、あくまで、リスクファクターですから、気の進まない治療
であれば受けなくてもよいのです。
細川)なぜでしょうか?
松林先生)もしも、原因であれば、気が進まなくても、痛くても、決められ
た治療を受ける必要があります。
細川)はい。
松林先生)ところが、リスクファクターの治療は流産を完全に予防するもの
ではなく、リスクを下げること、すなわち、流産になる確率をできるだけ下
げようとすることが目的ですから、嫌な治療を無理して行なって、かえって
ストレスになるようであれば、その治療がデメリットになる可能性がありま
す。たとえば、ヘパリン注射は1日2回とされていますが、どうしても1回
しかできないという方には1回でもやむを得ないと思いますし、妊娠してか
ら始めたいとおっしゃる方にはそれで構いません。
細川)患者さんの希望を優先させることが大切だと。
松林先生)不育症治療はサプリメントのようなものだと言われる専門医もい
らっしゃいます。
細川)出産へのサポートだと。
松林先生)そうです。補完するということですね。
細川)なるほど、よくわかりました。
【5】不妊症と不育症は同時に治療されるべき
細川)これまでのお話で私自身の認識が相当あらたまりました。
松林先生)患者さんもそうですが、不妊症と不育症の境界、すなわち、本来
的な妊娠のはじまりということを説明すれば、たいていは理解してもらえま
す。
細川)なるほど。私たちも、良好胚の移植を繰り返しても妊娠に至らない、
あるいは、体外受精で化学流産を繰り返しているというケースをよく見聞き
しますが、真の不育症という観点で言えば、すくなくとも検査は受けておく
べきですね。
松林先生)はい。漫然と同じ治療を繰り返すだけというのはよくないですね。
細川)ただし、現実の問題として、患者さんのほうで不育症検査の必要性を
感じ、希望されたとしても、たいていの不妊症の先生は不育症に対する理解
が乏しいのが現実だと思います。
松林先生)そうですね。また、体外受精で流産が続いた場合も、不妊症の先
生は不育症のことがよくわからないので、普通は不育症の専門医にかかるこ
とを勧められることになると思います。
細川)であれば、化学流産、ましてや、着床後妊娠判定までの「潜在的化学
流産」の疑いという段階では、患者さんが希望される場合は、自らが動いて、
不育症外来を受診する必要がありますね。
松林先生)そうせざるを得ないですね。その上、たとえ、不育症の専門医に
診てもらっても、不育症の先生は不妊症のことはよくわからないので、不妊
治療は、また、不妊症専門クリニックに戻って治療を受けなければなりませ
ん。
細川)それが現実ですね。
松林先生)ただ、2つの医療機関にかかるという煩わしさ云々よりも、本来、
不妊症と不育症はつながっている疾患であるわけですから、連動した治療、
すなわち、不妊症と不育症の治療は同時に受けるのが望ましいわけです。
細川)ただ、現実にはそれが可能な施設はリプロダクションクリニック大阪
しかありませんね。
松林先生)そういうことになります。当院では不育症だけの患者さんも受け
入れています。それまで治療を受けていた不妊専門クリニックで凍結胚があ
るので、当院で不育症治療だけを受けておられるというケースです。凍結胚
がなくなってしまった場合には、当院で不妊治療と不育治療を同時にお受け
るようになる予定のようです。
細川)そうなのですね。松林先生のように不妊症の専門家であり、不育症の
専門家でもあるという先生がいらっしゃらないということですね。
松林先生)ドクターにとって両方のトレーニングを受ける環境がありません
からね。
細川)松林先生は慶応義塾大学の不育症チームにいらっしゃいましたからね。
松林先生)慶応義塾大学は日本で初の不育症外来を開設しました。そこで、
不育症の研究や臨床に携わりました。当時、不育症の年間の新患が1000名
くらいこられていました。
細川)当時はそこしななかったということですね。
松林先生)そこから、出張先の東京歯科大学市川病院では、早くから体外受
精を学ぶことになり、ラッキーにも凍結胚移植の日本で初の出産に立ち会う
ことができました。
細川)はい。
松林先生)そして、アメリカの留学先がIndiana州 Methodist病院の生
殖移植免疫センターで、帰国後は東海大学医学部産婦人科で不妊症チームに
いました。このように私は大学卒業後25年間を通じ一貫して、不妊症・不育
症の診療・研究に携わってきました。
細川)そもそも、リプロダクションクリニック大阪は、男性不妊と女性不妊
が同時に診療できる生殖医療専門クリニックですが、不妊症と不育症が同時
に診療できるクリニックでもあるわけですね。
松林先生)その通りです。男性不妊と女性不妊では、男性と女性の違いがあ
りますが、不妊症と不育症は同じ女性においてつながっている疾患ですから、
同時に診療できることの意味合いは大きいと思います。
細川)よくわかります。
松林先生)さらに、当院では着床障害を専門とするドクターもいます。
細川)男性と女性、そして、女性における一連の生殖医療が全てカバーされ
ているということですね。
【6】サポーティングファティリティ
細川)リプロダクションクリニック大阪では、「不妊治療」ではなく、「妊
娠治療」と言われている意味がよくわかりました。男性不妊と女性不妊が同
時に診療できるだけでなく、女性におけるひとつながりの診療、すなわち、
不妊症、着床障害、不育症と、全てカバーし、妊娠、出産を目指しましょう
ということなのですね。
松林先生)その通りです。不妊症でこられた患者さんに不育症検査で異常が
みつかると、「私は不妊症だけでなく、不育症もあるのですね。」と落胆さ
れることがありますが、決して、別々の疾患があるわけではなく、健康な赤
ちゃんの出産に至るひとつづきの流れの中で、途中で障害になり得る要因が
みつかったということでしょう。
細川)そうですね。
松林先生)妊娠、出産できるか、できないかは、男性側、女性側のさまざま
な条件や要因によります。100組のご夫婦がいれば、100組とも、要因やそ
の程度が異なるのが普通です。
細川)そうですね。それらの要因の内容や程度によって、妊娠できるかどう
か、そして、妊娠がどこまで続くかどうかが、決まってくるというわけです
ね。
松林先生)そうです。そして、悩ましいのは、最先端の医学でも、まだまだ、
わからないことだらけだということです。
細川)はい。
松林先生)ですから、それぞれのご夫婦の考えられ得る要因はすべて潰して
いくしかないわけです。
細川)なるほど!
松林先生)そんな中で、私たちを信頼して、頼ってこられるご夫婦に、1日
も早く、確実に妊娠、出産してもらうには、女性しか診療できませんとか、
あるいは、不妊のことしかわかりませんとか、不育のことしかわかりません
とは言えないわけです。
細川)はい。
松林先生)もっと言えば、私たちが心がけているのは、一つの方法、一つの
ことに固執しないということです。もしも、その方法がふさわしい患者さん
であれば妊娠、出産できますが、あわない患者さんは、いくらチャレンジし
ても救えないからです。
細川)そうですね。
松林先生)たとえば、自然周期しかやらないとか、刺激しかやらない、全て
胚盤胞まで培養するとなると、救える患者さんと救えない患者さんが出てき
ます。
細川)はい。
松林先生)よくエビデンスがあるからと言われますが、それは特定の条件の
もとで統計学的に最も確率が高いという意味であって、決して、一人一人の
患者さんにとっての最適な治療であるとは限りません。
細川)はい。
松林先生)また、それらの要因には肥満や喫煙、栄養素の欠乏などの生活習
慣も含まれますから、医療提供者側の努力だけでなく、ご夫婦の努力や互い
の協力も大切です。
細川)先生が最新の情報をブログで発信されていらっしゃるのもそのためな
のですね。
松林先生)そうです。ただし、患者さんにも、われわれ、生殖医療に携わる
者にも、できることは限られています。卵子や精子をよくしたり、つくりだ
したりすることができないからです。
細川)はい。
松林先生)であればこそ、取り出した大切な卵子と精子を最大限有効に使っ
て、一番良い状態で一緒に妊娠を目指していきたいと考えています。
細川)それが、考えられ得るすべてのリスクに対応するということでうね。
松林先生)「サポーティングファティリティ」は当院のキャッチコピーです
が、私たち医療者には「妊娠へのお手伝い」しかできないのです。だからこ
そ、医療者とご夫婦が全員で協力していくことが大切になります。
細川)よくわかりました。本日は、貴重なお話をお伺いできて本当によかっ
たです。ありがとうございました。
---[松林秀彦先生プロフィール]----------------------------
リプロダクションクリニック大阪院長。医学博士。
1988年慶應義塾大学医学部卒業。アメリカインディアナ州メソジスト病院
生殖移植免疫センター研究員、東海大学医学部産婦人科准教授などを歴任。
一貫して、不妊症・不育症の診療・研究に携わる。2013年に「男性と女
性を同時に診療する」コンセプトで設立した不妊センター、リプロダクショ
ンクリニック大阪院長に就任。現在に至る。
日本産科婦人科学会産婦人科専門医、日本生殖医学会生殖医療専門医、日本
生殖免疫学会評議員、日本血栓止血学会学術標準化委員会抗リン脂質抗体部
会副部会長。
*リプロダクションクリニック大阪
http://www.reposaka.jp/
*松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ
http://ameblo.jp/matsubooon/
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編集後記____________________________________________________________
今回のドクターに訊くは、リプロダクションクリニック大阪の松林院長にお
話しをお伺いしました。
私は、不妊や不育の悩みは「よくわからない」ことからくるものが少なから
ずあると思います。
現実には、この領域では最先端の医学でも、まだまだ、わからないことだら
け、なのです。
ただ、ここまではわかっているけれども、ここからはわかっていないことが
わかるだけでも、ずいぶん、違うように思います。
また、単にわからないで終わってしまうにではなく、わからないけれども、
こう考えればいいのではないかというアドバイスも貴重です。
大切なことは、「わかること」ではなく、「納得すること」であり、「自分
たちはどうすればいいのかをみつけること」、そして、「前を向く」ことだ
と思うからです。
不育症については、あいまいなこと、わかりにくいことが多いように思って
いましたが、松林先生にお話しをお伺いした感想の一つです。
とにかく、不育症でない方にも、読んでいただきたいと思います。
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理して、自分たちに最適な答えを出すためのヒントになるような情報を、出
来る限り客観的な視点で、お届けしています。
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発 行:株式会社パートナーズ
編 集:細川忠宏(日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー)
サイト:http://www.akanbou.com/
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