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妊娠しやすいカラダづくり No.740 2017/8/20
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今週の内容__________________________________________________________
・最新ニュース解説:ナイアシン(ビタミンB3)と流産や先天異常のリスク
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・編集後記
最新ニュース解説 Aug.2017__________________________________________
ナイアシン(ビタミンB3)と流産や先天異常のリスク
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妊娠中の女性で、エネルギー産生やDNAの修復に関与するNAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)という補酵素が体内でつくられにくくなり、NADが不足することで、流産や子どもの先天異常が引き起こされること、そして、NADの不足したマウスにビタミンB群の一種のナイアシンを飲ませることで子どもの先天異常が予防できることを確かめたという研究結果が発表されました(1)。
研究は、オーストラリアのVictor Chnag Cardiac Research Instituteの研究者らを中心とした研究グループによるもので、医学誌(ニューイングランドジャーナルオブメディスン)に掲載されています。
論文の筆者は、更なる研究が必要であるけれども、妊娠前からナイアシンのサプリメントを摂取することで、流産や子の先天異常のリスクを低減できる可能性があるとメディアの取材で話しています。
■どんな研究が行われたのか?
研究チームは、複数の先天異常のある子どもがいる4家族に遺伝子解析を実施し、先天奇形の原因となる遺伝的な要因を探しました。
その結果、アミノ酸の一種のトリプトファンからNADを合成する過程で働く2つの酵素(KYNUとHAAO)がうまくつくれない遺伝的な傾向が特定されました。
そのため、この遺伝的な傾向をもっているとKYNUとHAAOの酵素活性が著しく低下し、NADの合成能力も低下し、NADが不足しました。
さらに、マウスに同じような遺伝子傾向をもつように遺伝子編集を行い、NAD欠損マウスを作成し、妊娠させたところ、胚に被験者と同い異常が発生しました。
また、体内でNADになるビタミンB群の一種のナイアシンをNAD欠損マウスに摂取させたところ、妊娠後の胚の異常が回避され、先天異常が予防できることを確かめました。
このことから、ヒトやマウスでは遺伝的な要因でNADの合成が阻害され、NADが欠損し、子どもに先天異常が発症すること、NAD欠損マウスにナイアシンを摂取させることで先天異常が予防されることがわかりました。
■研究結果をどのように解釈さればいいのか?
ナイアシンは水溶性のビタミンB群の一種です。アミノ酸のトリプトファンからの合成と食事からの摂取で必要量をまかなっています。
ナイアシンからNADになりますので、トリプトファンからの合成経路で遺伝的な要因で補酵素の活性が低下し、ナイアシンやNADがうまくつくれなくなると、当然、食事からだけではまかないきれなくなるので、サプリメントによる補充が必要になるというわけです。
ただし、今回の研究で4家族(このうちの3家族は血縁関係)だけで流産や先天異常の遺伝的な原因が特定できたからといって、ナイアシンの補充が流産や先天異常のリスクの低減になるとの結論を導くことは早計です。
流産や先天異常の原因は複雑で多岐に渡る一方、今回特定された遺伝的な傾向が全体でどの程度存在するのか全くわからないからです。
また、NADがどの程度のレベルになれば流産や先天異常のリスクが上昇することになり、高リスクの女性にとってリスクの低減に有効なナイアシンの摂取量も不明です。
■健康な子どもを授かることを願って
そもそも、流産や先天異常を完全に予防することは不可能です。
ただ、これまでの研究で明らかになっているのは妊娠前から1日400μgの葉酸をサプリメントで補充すると二分脊椎症の発症リスクが大幅に低下するというものです。
また、最近、イギリス政府機関は、葉酸に加えて、1日に10μgのビタミンDをサプリメントで補充することも推奨するようになっています。
喫煙や大量の飲酒、特定の医薬品を避け、バランスのよい食事を心がけ、その上で、葉酸とビタミンDのサプリメントを妊娠前から摂取するのがエビデンスベースの推奨内容です。
もちろん、食事に不安がある場合は、適宜、適切な量が配合されたマルチビタミンミネラルで補充することが大切です。
大切なことは、必要な栄養素は不足や過剰を避け、不要なものは摂らないことです。
そういう意味では、ナイアシンはビタミンB群の一種で、妊娠、出産に重要な役割を担う栄養素ですから、マルチビタミンミネラルで不足を予防することは意味のあることではあります。
文献)
1)N Engl J Med. 2017; 377: 544-52.
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編集後記____________________________________________________________
今回の研究が可能になったのは、遺伝子工学の進歩のたまものと言えるとおもいます。要するに、遺伝子配列を解析したり、遺伝子を編集したりする技術が、この数年で実用化されたからこそ、実現できたということです。
その結果、これまで原因がわからなかった先天異常を引き起こす遺伝子多様性が突き止められたわけです。
これからも私たちの体内で起こっていることが、少しずつ、明らかになってくると思いますが、大切なことは、そのことをどう解釈し、どう活かしていくかだと思います。
いたずらに、不安が煽られたり、いたずらに、期待を膨らませられるかもしれないからです。
正しく受けとめ、適切な判断ができるように、専門家でなくても、勉強しなければいけない時代だと思います。
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