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妊娠しやすいカラダづくり No.834 2019/6/9
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今週の内容__________________________________________________________
・更新情報
・トピックス:新たな治療戦略をもたらす「MOSI」
・お知らせ
・当社製品&サービス
・編集後記
更新情報____________________________________________________________
サイト版「妊娠しやすいカラダづくり」の更新情報です。
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2019年6月4日
編集長コラム
カラダづくりに大切な「優先順位」について考える
https://www.akanbou.com/column/henshuuchou/20190604.html
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2019年6月3日
曇り時々雨、のち晴れますように
カウンセリングのアプローチ
https://www.akanbou.com/column/reproductivecounseling/20190603.html
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トピックス Jun.2019________________________________________________
新たな治療戦略をもたらす「MOSI」
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アメリカのクリーブランドクリニックの医師が中心になって、約90名の世界の男性不妊を専門とする泌尿器科医グループが、先月、電子版が公開された論文で(1)、これまで原因不明と診断されてきた男性不妊の中で、酸化ストレスが関与している症例を「Male Oxidative Stress Infertility(MOSI)」と呼ぶことを提案しています。
男性不妊の原因で最も多いのは、原因不明の造精機能障害、すなわち、特別な原因は見当たらないけれども精子がうまくつくられないことによるものです。
そんな中で、酸化ストレスが関与しているケースを、MOSI(酸化ストレスが関与する男性不妊)と呼び、診断基準や治療法のガイドラインを策定しようというものです。
◎提案の背景
この提案の背景には酸化ストレスによる影響を測定する検査方法の普及があります。
これまで、男性に対する不妊検査は、唯一、精子検査のみで、100年間、続けられてきました。この検査で測定されるのは、精液量、精子濃度、精子運動率、正常形態精子率で、もちろん、これらの結果は、男性不妊の治療方針を検討する上で重要ですが、この検査のみでは精子の質、そのものは充分に反映できていない可能性が指摘されてきました。
その精子の質を間接的に測定するのが精液中酸化還元電位(ORP)検査、そして、精子の質をダイレクトに測定するのが精子断片化指数(DFI)検査です。
ORP検査とは、精液中の酸化ストレスの強さを測定する検査です。そして、DFI検査では、酸化ストレスで精子のDNAが損傷を受けた精子の割合を測定する検査です。
通常の精液検査で異常がない男性でも、すなわち、精子の数や運動率が基準を満たしていても、精子のDFIが高い場合、すなわち、精子が損傷を受け、精子の質が低下している場合には、受精率や妊娠率が低くなったり、流産率が高くなったりすると言われています。
特に、精子が卵子のところまで自力で到達する必要のない体外受精や顕微授精では精子の数や運動率よりも、精子の質が求められることになります。
◎酸化ストレスとは酸化力と抗酸化力のバランスが酸化力のほうに傾いた状態
酸化とは、たとえば、リンゴを切ったままにしておくと色が変わったり、鉄が錆びついたり、 油が古くなると黒ずんだりするといった、空気中の酸素に触れ、反応することで起こる現象のことです。
体内で発生する「活性酸素」は、体(細胞)をさびつかせ(酸化させ)、さまざまな不調や病気の原因になります。
つまり、酸化の犯人は活性酸素です。
その一方で、私たちの体内には活性酸素を無毒化する働き(抗酸化作用)が備わっています。
その中心は抗酸化酵素で、その他に、ビタミンCやE、コエンザイムQ10、ポリフェノールなどの抗酸化物質が、お互いに助け合って活性酸素の害から体を守る抗酸化ネットワークを張り巡らせています。
通常、酸化力(活性酸素によるダメージ)と抗酸化力(抗酸化ネットワークの防御能力)はバランスがとれていますが、活性酸素が過剰に発生したり、もしくは、抗酸化力が低下したりして、酸化力が抗酸化力を上回った状態を「酸化ストレス」と言います。
つまり、酸化力と抗酸化力のバランスが酸化力のほうに傾いた状態が「酸化ストレス」なのです。
◎男性不妊の背景にある酸化ストレス
活性酸素の発生源は多岐に渡ります。
そもそも、細胞内のミトコンドリアでエネルギーをつくる際に発生しています。
その他、タバコや大量の飲酒、肥満、高血糖、偏った食生活、食品添加物などの生活面、また、精索静脈瘤、前立腺などの炎症、異常な精子からも活性酸素が大量に発生します。さらには、禁欲期間が長くなると酸化ストレスを受けやすくなります。
酸化ストレス状態は、精子のDNAを傷つけたり、精子の細胞膜の脂質を酸化したりします。皮肉なことに、精子には抗酸化酵素が十分に備わっていなかったり、細胞膜の脂質は主に多価飽和脂肪酸で酸化されやすい性質があるからです。
つまり、そもそも、精子は酸化ストレスを受けやすい細胞なのです。
そして、DNAが傷つけられるとDNA損傷率が高くなり、受精率が低下したり、流産率が高くなったりします。また、細胞膜の脂質の酸化は細胞膜の柔軟性を低下させ、精子細胞のタンパク質の酸化もあわさって運動性能が悪くなってしまいます。
◎ORP検査やDFI検査で隠れた不妊の原因を特定できる可能性
繰り返しますが、男性不妊原因で最も多いのは原因不明の乏精子症や精子無力症です。原因がわからないわけですから、有効な治療法もわかりません。
そのため、男性側に原因があるにもかかわらず、パートナーの女性への顕微授精で妊娠を目指すことになります。
そんな中で、ORP検査やDFI検査で、酸化ストレスが関与している男性不妊、すなわち、MOSIであることが明らかになると、適切な対策を講じて、精子の質を改善することが可能になるわけです。
精子の質が改善されれば、顕微授精の培養成績や受精率や妊娠率、出産率の向上だけでなく、顕微授精が不要になって体外受精や人工授精、自然妊娠で妊娠が期待できるようになって、パートナーの女性への治療の負担の軽減が期待できるかもしれません。
◎適切な治療や抗酸化サプリメントの使用が可能に
ORP検査やDFI検査で、酸化ストレスレベルや精子DNAの損傷度が明らかになると、これまで、「取り敢えず試して」みるしかなかった治療や抗酸化サプリメントも、より有効な方法で行うことが可能になります。
もちろん、酸化ストレスの発生源は複数あり、ライフスタイルが深く関与しています。治療や抗酸化サプリメントを使う前に、禁煙をはじめとするライフスタイルの見直しは必須です。
ライフスタイルを見直すことで、その後の治療や抗酸化サプリメントの有効性も変わってくるはずです。
原因がわからないというのはとても悩ましいことですが、原因が明らかになることで、ライフスタイルの改善や治療も、より前を向いて取り組めるようになるに違いありません。
特に、顕微授精では精子の選別がとても重要であること、そして、女性が高齢になると卵子に備わっていると言われている「精子のDNAの修復能力」も低下していくことなどを考えると、精子の質に目を向けることは、今後、益々、重要度が高くなるに違いありません。
今後、私たちは「MOSI」について、正確で、役に立つ情報の発信につとめていきます。
文献
1)World J Mens Health. 2019 May 8. doi: 10.5534/wjmh.190055.
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編集後記____________________________________________________________
MOSIということがわかった場合でも、基本はライフスタイルの見直しです。
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妊娠しやすいカラダづくり[毎週末発行] VOL.834
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編 集:細川忠宏(日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー)
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