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VOL.1048 葉酸摂取量と自然妊娠や体外受精の妊娠率の関係

2023年07月23日

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 妊娠しやすいカラダづくり No.1048              2023/7/23
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今週の内容__________________________________________________________

・トピックス:葉酸摂取量と自然妊娠や体外受精の妊娠率の関係
・お知らせ:不妊相談会
・編集後記


トピックス Jul. 2023________________________________________________

 葉酸摂取量と自然妊娠や体が受精の妊娠率との関係
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妊娠を希望する女性にとって最も重要なサプリメントは葉酸であることはよく知られています。

それは、妊娠前から1日400μgの葉酸をサプリメントで摂取することで、赤ちゃんの先天異常、特に二分脊椎の発症リスクが低くなることがわかっているからだと思います。

そのため、厚生労働省も妊娠前から葉酸サプリメント補充を推奨しています。

最近の多くの研究で、葉酸摂取は、先天異常の予防だけでなく、自然妊娠や体外受精の治療成績にも良好な影響を及ぼすことが示唆されています。

◎食事からの葉酸摂取量と自然妊娠の妊娠率の関係
妊娠希望の女性を対象にした2つの前向きコホート研究(北米のPRESTO研究:n=5,804名、デンマークのSnart Foraeldre研究:n=3,755名)があるのですが、2013年から2020年までの間に、8週間ごとに食物摂取頻度調査票に回答してもらい、1年間、或いは妊娠するまで追跡しています。

1日あたりの食事からの葉酸摂取量で3つのグループ(250μg未満、250μg以上390μg未満、400μg以上)に分け、さらに、それぞれのグループで、葉酸サプリメント使用有りと無しにわけ、合計で6つのグループにわけ、周期あたりの妊娠率を比較しました。

その結果、デンマークのSnart Foraeldre研究では、1日の食事からの葉酸摂取量が400μg以上だった女性の周期あたりの妊娠率を1とすると、250μg以上390μg未満だった女性では0.92、250μg未満っだった女性では0.8と、食事からの葉酸の摂取量が少なくなるほど妊娠率が低くなることがわかりました。

同様の傾向は北米のPRESTO研究でも認められ、250μg以上390μg未満だった女性では0.95、250μg未満っだった女性では0.81でした。

また、サプリメントの有る無しを加えると、1日に食事から400μg以上の葉酸を摂取し、葉酸サプリメントも摂取し、最も葉酸を摂取していた女性の周期あたりの妊娠率を1とした場合、食事から250μg未満で、サプリメントも摂取しない、葉酸摂取路量が最も少なかった女性では、デンマークのSnart Foraeldre研究で0.76、北米のPRESTO研究では0.49と、さらなる妊娠率の低下が認められたとのことです。

ただし、食事から250μg未満でも、葉酸をサプリメントで補充していた女性では、デンマークのSnart Foraeldre研究で0.79、北米のPRESTO研究では0.92と、特にPRESOT研究では妊娠率も低下は軽微でした。

2つの研究の結果の違いは、北米では小麦粉などへの葉酸が添加されていますが、デンマークでは添加されていないことが影響しているかもしれません。

このように食事からの葉酸の摂取量が250μgを下回り、かつ、葉酸のサプリメントを使用していない場合は、妊娠率にマイナスの影響を及ぼすとの報告がなされています。

◎葉酸のサプリメント摂取量と体外受精治療成績の関係
ハーバード大学の関連病院で体外受精を受けている女性232名を対象に食事やサプリメントからの葉酸の摂取量と治療成績との関連について調べた研究(1)があります。

治療開始前に食物摂取頻度調査票を使って、食事やサプリメントから葉酸摂取量を算出し、それぞれの摂取量で4つのグループに分け、その後の353治療周期の治療成績との関連を解析しています。

その結果、1日の葉酸摂取量では、着床率や妊娠率、出産率が高く、葉酸摂取量が最も多いグループ(2,352μg/日)は最も少ないグループ(1,262μg/日)の女性に比べて着床率で22%、妊娠率で24%、そして、出産率では26%高かったというのです。

また、サプリメントによる葉酸摂取量が最も多い女性(800μg/日以上)の出産率は、最も少ない女性(400μg/日未満)のそれに比べて20%高いことがわかりました。

◎葉酸摂取量と卵巣予備能との関係
こちらもハーバード大学の関連病院で体外受精を受けている552名の女性に食物摂取頻度調査票で食事やサプリメントから葉酸の1日の摂取量を調査し、月経3日目の胞状卵胞数(AFC)を指標とした卵巣予備能との関係を解析しています(2)。

その結果、食事とサプリメントの葉酸摂取量では1日に1,200μgまで、葉酸サプリメントでは1日800μgまで、摂取量が増えるほど卵巣予備能が高くなりました。ただし、それ以上摂取しても変わらなかったとのことです。

どれくらい増えたかというと、サプリメントで1日400μg摂取した場合と800μg摂取した場合の予測される差は1.5個だったと報告されています。

◎葉酸について
葉酸は、水溶性のビタミンB群の一種で、遺伝物質であるDNAの合成やアミノ酸の代謝、タンパク質の合成、ビタミン代謝に関与しています。

ほうれん草から発見されたという経緯の通り、植物に含まれてはいますが、実際には植物性食品だけでなく、動物性食品であるレバーなどにも多く含まれています。

葉酸は細胞が分裂、増殖する際に遺伝情報であるDNAが正しくコピーされるのに必要な酵素を助ける補酵素として働きます。

そのため、もしも、葉酸が不十分であると、細胞の分裂や成長、そして、DNAの形成がうまくいかなるなるおそれが出てきます。卵子と精子が出会い、受精が成立した後は、細胞が最も活発に分裂が繰り返される時です。妊娠前から妊娠中には、受精卵や胚、胎児には葉酸が大量に蓄積されなければならないため、母体で葉酸が代謝されるスピードが早まり、葉酸の必要量が著しく(普段の約2倍に)増加します。これが、葉酸が妊娠、出産に最重要ビタミンとされる理由です。

葉酸は細胞が分裂、増殖する際に必須の働きをするわけですから、葉酸のサプリメント服用効果は、決して、先天異常の予防だけに留まりません。

これまで報告されている研究結果をみてみると、流産のリスクや早産、低体重出生児が生まれるリスク、さらには、口唇・口蓋裂や自閉症、重度の言語発達遅延、重度の先天性心疾患を予防することに関連するとの報告もなされています。

そして、生殖医療の治療成績にも良好な影響を及ぼすことを示唆する研究報告も増えてきたというわけです。

◎葉酸の特徴
私たち、ヒトは、葉酸を体内でつくることができないため、摂取する必要があります。そのため、葉酸をしっかり摂取するために知っておきたいことを整理します。

葉酸は水に溶けやすく、熱や光に弱いという性質があります。そのため、調理でゆでたり煮たりするとゆで汁や煮汁に流出したり、加熱によって壊れたり、保存中にも壊れたりするため、失われやすい栄養素です。

また、食品に含まれる葉酸は体内では50%しか利用されません。食品中の葉酸(ポリグルタミン酸型葉酸)は、そのままでは腸で吸収されず、モノグルタミン酸型葉酸という形態に分解され、取り込まれるようになります。そのため、食品中の葉酸は約50%程度しか吸収されず、利用効率が低くなります。

そして、日本人女性の6割以上は遺伝的に葉酸が不足しやすい体質であることが知られています。
葉酸が働く過程で必要な酵素の一つであるメチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素(MTHFR)には3つの遺伝子タイプ(CC型・CT型・TT型)があり、CT型やTT型はCC型に比べて酵素活性が低く、日本人女性の6割以上は体質的に葉酸をうまく利用できません。

◎葉酸は妊娠前から必要量が倍増します
厚生労働省が日本人の食事摂取基準で定める葉酸の推奨量(ほとんどの人が必要量を満たす量)は、通常(非妊娠)時、妊娠計画時から妊娠3ヶ月、妊娠時、授乳時によって異なります。
特に妊娠計画時からは急増します。

通常時の推奨量は240μgで、妊娠計画開始から妊娠3か月まではサプリメントで1日400μg(食事からであれば1日に800μg)の補充が推奨されています。

推奨量は妊娠時に240μg、授乳時に100μg付加されますので、3か月以降の妊娠期間中は1日に480μgをめざして、葉酸を多く含む食品をバランスよく摂取することが大切です。

◎高齢で体外受精や顕微授精を受ける場合は1日に800μgを目安に
厚労省の先天異常を予防するための葉酸の摂取量は1日400μgです。

ただし、ご紹介したように1日800μgの摂取はART治療成績に良好な影響を及ぼすことが示唆されています。

そのため、30歳代後半以降で体外受精や顕微授精に臨む女性では1日800μgの葉酸を摂取するのが好ましいかもしれません。

厚労省は葉酸サプリメントの1日の上限量を1000μgとしています。

そのため、1日に800μgを摂取しても過剰にはなりません。

妊娠判明後は400μgでよいのではないでしょうか。


文献)
1)Hum Reprod 2022; 37: 828
1)Obstet Gynecol 2014; 124: 801
2)Fertil Steril 2022; 117: 171

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記事についての感想やご意見は下記のアドレス宛お寄せ下さい。
info@akanbou.com


お知らせ____________________________________________________________

東京都調布市のウイメンズクリニック神野主催の第31回不妊相談会が2023年9月16日の土曜日に開催されます。

院長の神野正雄先生は、情熱をもって不妊治療、特に、高度生殖医療に取り組まれ、高齢による卵巣機能低下が原因の不妊症に対して、独自の考え方と方法で、高い実績を挙げておられる先生です。

当サイトのドクターに訊くでも、「質のよい卵を育むための生活習慣~高齢不妊との正しい戦い方」というテーマでインタビューさせていただき、記事にしています。

神野先生は、現代における不妊の主な原因は、晩婚化によって、お子さん望むようになったときには、女性は、既に、妊娠しづらい年齢に差し掛かっていることが多くなったこと。また、現代に特有の不健康な生活習慣、すなわち、夜更かし、ストレス、歩かない生活、質の悪い食生活などが、インスリン抵抗性を招き、卵子や精子の質を低下させていることを指摘されています。

また、抗糖化機能性食品「ヒシエキス」が、ART反復不成功の高齢不妊患者さんの妊娠率を改善することを臨床試験により見出され、国内や海外の学会で発表され、論文にもなっています。

これまでの不妊相談会では、なぜ不妊になるのか、カップルで取り組むべきことはどんなことなのか、高度不妊治療とはどんなものなのかを解説しています。

個別相談も可能だそうです。
※先着8組まで。

◎第30回不妊相談会
日程:2023年9月16日(土)
時間:14:15~15:30
場所:調布市民プラザ あくろす 3階 ホール1
定員:50名
費用:無料
参加希望の方は下記あてお電話でお申込みください。
042-480-3105

・詳細はこちら
https://www.akanbou.com/seminar/fe2e3eea095dcb247c974836448a9d7c99bebd5d.pdf

・ウイメンズクリニック神野サイト
https://xs132599.xsrv.jp/index.html


編集後記____________________________________________________________

葉酸サプリメントは必須ですね。

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妊娠しやすいカラダづくり[毎週末発行]     VOL.1048
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発 行:株式会社パートナーズ
編 集:細川忠宏(日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー)
サイト:https://partner-s.info/
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