メルマガ

VOL.1112 運動強度と精子の質の関係

2024年10月20日

____________________________________________________________________

 妊娠しやすいカラダづくり No.1112               2024/10/20
____________________________________________________________________


今週の内容__________________________________________________________

・最新ニュース解説:運動強度と精子の質の関係
・お知らせ:不妊相談会
・編集後記


最新ニュース解説 Oct. 2024__________________________________________

 運動強度と精子の質の関係
──────────────────────────────────
きついと感じない程度の運動は精子の質に良好な影響を及びすものの、運動不足や激しい運動は、精子の質にマイナスの影響を及ぼすことがイタリアで実施された研究で明らかになりました(1)。

運動が健康によいことは、もはや、当たり前のことですが、精子の質ついても例外ではなく、適度な運動は精子パラメーターを改善させることが多くの研究で明らかになっています。

運動によってさまざまな代謝が改善され、ホルモンバランスが整うことによるものと考えられています。

その一方、それでは、適度な運動とはどの程度の強度なのかについては、 身体的にやや負荷がかかり、少し息がはずむようなレベルの運動がよいという研究結果がイタリアのブレシア大学から報告されました。

◎どんな研究だったのか?
喫煙や飲酒習慣、薬物、医薬品使用がなく、BMIおよび腹囲が正常な健康な男子高校生や大学生に参加してもらい(143名)、登録時と4ヵ月後、8ヵ月後に精液検査を実施し、一方、運動習慣を国際標準化身体活動質問票と呼ばれる質問票を用いて調査し、運動強度と精液所見との関係を解析しました。

◎どんな結果だったのか?
運動と精子運動率や前進運動率、正常形態率は、全体的には有意な相関関係が認められました。

ただし、運動強度からみれば、中程度の運動と精子運動率と正常形態率は正の相関が、反対に歩行と激しい運動とは負の相関関係にあることがわかりました。

「きつい」とまでは感じないものの、身体的にやや負荷がかかり、少し息がはずむようなレベルの運動を行なっている男性では、精子パラメーターがよく、運動量が少ない、あるいは激しい運動を行なっている男性では、精子パラメータが悪いことがわかりました。

◎運動と精子の質
運動強度と精子の質は、逆U字型パターンになるようですが、これまで具体的にどんな運動が精子の質の改善に有効なのかを調べた研究報告があります(2)。

とても参考になります。

運動習慣のない男性は、週に3-5回の運動を始めると3ヶ月から半年で精液所見が改善されるという、ランダム化比較対照試験によるものです。

具体的には、普段、運動習慣のない男性397名をランダムに4つのグループにわけ、3つのグループには強度別の運動プログラムを6ヶ月間行ってもらい、1つのグループは、普段通り運動しないままで、定期的(運動開始前、運動開始12週間後、24週間後、運動終了7日後、30日後)に、精液検査結果や精子DNA損傷度、そして、炎症や酸化ストレス、抗酸化に関連するマーカーを4つのグループで比較するというものです。

因みに3つの強度別の運動プログラムは以下の通りです。

1)中程度の強さの継続的トレーニング
最初の3ヶ月は中程度の強さの有酸素運動(歩行/ジョギング)を1日に25-30分を週に3-4日、その後、1日に40-45分、週に4-6日に増やす。また、運動前と後には10-15分のウォーミングアップとクールダウンを行う。

2)高い強度の強さの継続的トレーニング
最初の3ヶ月は1日に40-50分のランニングマシン(強度が最大酸素摂取量の70-75%を10分、50-60%を3分を1セットとして4セット)を週に3回、その後、50-60分、5セットに増やす。また、運動前と後には10-15分のウォーミングアップとクールダウンを行う。

3)高い強度の強さのインターバルトレーニング
最初の3ヶ月はランニングマシンでインターバルトレーニング(強度が最大酸素摂取量の75-85%を1分を10セット、その間に45-50%で1分間のリカバリー)を週に3回、その後、15セットに増やす。また、運動前と後には10-15分のウォーミングアップとクールダウンを行う。

因みに、最大酸素摂取量70%とは運動直後の1分間の脈拍数が30代で145、40代で140、同様に50%とは30代で120、40代で115の運動強度のことです。

いずれの運動強度のグループも、インストラクターがフォローし、午後5時から7時の間に行われました。

最終的に261名がプログラムを完了し、その結果は、運動プログラムに取り組んだグループの男性は運動しなかったグループの男性に比べて、精液検査結果でも、その他のマーカーでもいずれも改善されました。

運動強度でみると中程度の継続的トレーニング、すなわち、適度な強度の有酸素運動を行ったグループの男性が最も改善されました。

この研究で、運動習慣は男性の妊娠させる力によい影響を及ぼすこと、そして、1日に30-40分、週に3回程度の適度な強度の有酸素運動が最も効果的であることがわかりました。

◎運動がよい影響を及ぼすメカニズム
これまでの研究では、運動は精液検査だけではなく、精子DNA損傷度や炎症、酸化ストレス、抗酸化力のマーカーも改善されることが報告されています。

適度なペースのウォーキングやジョギング、水泳などの有酸素運動を習慣的に行うことで、炎症が起こりにくくなり、活性酸素と活性酸素を消去するバランスが整うことで精子にダメージを与える酸化ストレスが低くなることで、精子が悪くならないような体内環境が促進されるのではないかというものです。

運動習慣による効果は妊娠させる力によい影響を及ぼすことだけに止まりません。

これまでに膨大な数の研究が行われていて、運動は、脳によい影響を及ぼし、ストレスに強くなるだけでなく、幸福感が高まったり、海馬(記憶に関わる脳の器官)が大きくなったりすることが確かめられています。

また、細胞のエネルギー産生器官であるミトコンドリアの数を増やし、活性を高めることが検証されている唯一の方法が運動なのです。

つまり、脳にも、身体にも、最も効果的なアンチエイジングが運動というわけです。

ウォーキングやジョギングは、工夫さえすれば、誰でも、ほとんど、コストがかからずに取り組めます。

そして、効果は多岐に渡ることを考えれば、最もコストパフォーマンスが高く、妊活の柱になると言っても過言ではないと思います。

ただし、私たちが生活する現代社会は、運動をしない、あるいは、させないで済むような仕組みが出来上がっています。

自分たちの生活環境にふさわしい、継続できる運動の方法を考え、工夫し、実行できるかどうかがポイントになるのではないでしょうか。


文献)
1)Fertil Steril 2024 Articles in Press DOI: 10.1016/j.fertnstert.2024.08.323
2)Reproduction. 2017; 153: 157.

--------------------------------------------------------------------
記事についての感想やご意見は下記のアドレス宛お寄せ下さい。
info@partner-s.info


お知らせ__________________________________________________________

東京都調布市のウイメンズクリニック神野主催の第32回不妊相談会が2024年11月9日の土曜日に開催されます。

院長の神野正雄先生は、情熱をもって不妊治療、特に、高度生殖医療に取り組まれ、高齢による卵巣機能低下が原因の不妊症に対して、独自の考え方と方法で、高い実績を挙げておられる先生です。

当サイトのドクターに訊くでも、「質のよい卵を育むための生活習慣~高齢不妊との正しい戦い方」というテーマでインタビューさせていただき、記事にしています。

神野先生は、現代における不妊の主な原因は、晩婚化によって、お子さん望むようになったときには、女性は、既に、妊娠しづらい年齢に差し掛かっていることが多くなったこと。

また、現代に特有の不健康な生活習慣、すなわち、夜更かし、ストレス、歩かない生活、質の悪い食生活などが、インスリン抵抗性を招き、卵子や精子の質を低下させていることを指摘されています。

さらに、抗糖化機能性食品「ヒシエキス」が、ART反復不成功の高齢不妊患者さんの妊娠率を改善することを臨床試験により見出され、国内や海外の学会で発表され、論文にもなっています。

これまでの不妊相談会では、なぜ不妊になるのか、カップルで取り組むべきことはどんなことなのか、高度不妊治療とはどんなものなのかを解説しています。

個別相談も可能だそうです。
※先着28名まで。

◎第32回不妊相談会
日程:2024年11月9日(土)
時間:13:00~15:00
場所:ウィメンズクリニック神野
定員:28名
費用:無料
参加希望の方は下記あてお電話でお申込みください。
042-480-3105
・詳細はこちら
https://www.akanbou.com/seminar/b675e3600bc13cbb69bbab0d4ad70ca069c7b0cd.pdf
・ウイメンズクリニック神野サイト
https://xs132599.xsrv.jp/index.html


編集後記____________________________________________________________

アウトドアで身体を動かすことが気持ちのよい季節になりました。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
妊娠しやすいカラダづくり[毎週末発行]     VOL.1112
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
お子さんを望まれるカップルの"選択"や"意志決定"をサポートします。
--------------------------------------------------------------------
不妊に悩むカップルが、悩みを克服するために、二人で話し合い、考えを整理して、自分たちに最適な答えを出すためのヒントになるような情報を、出来る限り客観的な視点でお届けしています。
--------------------------------------------------------------------
発 行:株式会社パートナーズ
編 集:細川忠宏(日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー)
企業サイト:https://partner-s.info/
情報サイト:https://www.akanbou.com/
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◎発行部数
・自社配信: 1,627部
・まぐまぐ: 1,994部
・合計部数: 3,621部(10月20日現在)
--------------------------------------------------------------------
◎免責事項について
当メールマガジンの提供する情報は医師の治療の代わりになるものでは決してありません。プログラムの実行は各人の責任の元で行って下さい。プログラムの実行に伴う結果に関しては、当社の責任の範囲外とさせて頂きます。
--------------------------------------------------------------------
◎注意事項
読者の皆さんから寄せられたメールは、事前の告知なく掲載させていただく場合がございます。匿名などのご希望があれば、明記してください。また、掲載を望まれない場合も、その旨、明記願います。メールに記載された内容の掲載によって生じる、いかる事態、また何人に対しても一切責任を負いませんのでご了承ください。
--------------------------------------------------------------------
◎著作権について
当メールマガジンの内容に関する著作権は株式会社パートナーズに帰属します。一切の無断転載はご遠慮下さい。