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妊娠しやすいカラダづくり No.1121 2024/12/22
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今週の内容__________________________________________________________
・最新ニュース解説:男性の長時間のサイクリングには要注意
・編集後記
最新ニュース解説 Dec. 2024__________________________________________
男性の長時間のサイクリングには要注意
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男性では、たとえソフトでコンフォートなシートのサドルでも週3時間以上のサイクリングはパートナーの女性の妊娠しやすさにマイナスの影響を及ぼす可能性があることがデンマークと北米の妊娠希望カップルを対象とした前向き研究で明らかになりました(1)。
男性にとって、運動習慣は健康にも、精液所見にもよいという研究報告は数多くなされています。
ただし、激しい運動や長時間のサイクリングは、かえって、よくないという報告もなされています。
これまでの研究はいずれも運動と精液検査結果の関連を調べていました。
今回、紹介する研究は男性の運動とパートナーの女性の周期あたりの妊娠率との関連を調べたものですので、大変、興味深い内容です。
◎どんな研究だったのか?
デンマークと北米の妊娠希望のカップルを対象とした前向きコホート研究の参加カップルが対象です。
まずは、デンマークのSnart Foraeldre研究研究(2011年〜2023年)と北米のPRESTO研究(2013年〜2024年)で、研究登録時に妊娠を試みた期間が6ヶ月以上のカップルの男性パートナー4921名(PRESTP:3833名、SF:1088名)の運動の種類や強度、平均時間を調査し、1年間、或いは妊娠するまで追跡しています。
そして、激しい運動や中等度、METs、サイクリングの週あたりの平均時間とパートナーの女性の周期あたりの妊娠率との関連を解析しました。
因みにMETsとは、運動強度の単位のことで、安静時を1とした時と比較して何倍のエネルギーを消費するかで活動の強度を示したものです。
◎どんな結果だったのか?
激しい運動や中等度の運動、METsの週あたりの平均時間は、パートナーの女性の周期あたり妊娠率との関連を見出すことが出来ませんでした。
その一方、サイクリング全体でも関連性は見られませんでしたが、「ソフトでコンフォートなシートのサドル」を使用した自転車での週に3時間以上のサイクリングは妊娠率低下と関連しました。
また、BMIが25以上の肥満男性においては、「ソフトでコンフォートなシートにサドル」を使用した自転車でのサイクリングは同等、もしくはより強い関連性が認められました。
◎男性の運動強度と精液検査結果の関係
運動の強度と精液検査結果との間には逆U字型の関連が認めるという研究報告がなされています。
つまり、運動は不足しても、やり過ぎても、精子の質にはよくないということです。
イタリアの研究で、若年健常男性を対象に運動の強度と精子の質の関係について調査した最新の研究があります(2)。
結果は、中程度の運動をたくさん行う男性は精子の運動率や正常形態率が高く、反対に運動量が少ない場合やゆっくりとした歩行、激しい運動を行う時間や頻度が高い男性は精子運動率や正常形態率が低かったというのです。
精子の質の維持のためには適度な運動を行うべきということになります。
また、運動以前に男性にとって座りっぱなしが精子の質を低下させることは数多くの報告がなされています。
たとえば、男性のデスクワークは精子DNA断片化率の上昇を招くかもしれないという報告がポーランドの大学からなされています(3)。
精子DNA断片化率とは、損傷したDNAをもつ精子の割合のことで、20-30%以上になると受精率や妊娠率が低くなったり、流産率が高くなったりすると言われていますが、興味深いのは、長時間のデスクワークは精液検査の結果には影響せず、精子DNAの損傷率を高めたということです。
週に35時間以上働く男性254名に、就労時間とデスクワークの時間を回答してもらい、デスクワークの時間が就労時間の50%以上の男性と50%未満の男性に分けて、精液所見や精子DNA断片化率との関係を調べています。
その結果、デスクワークの時間と精液検査結果は関連しませんでしたが、精子DNA断片化率は関連し、デスクワークが50%以上の男性は50%未満の男性に比べて精子DNA断片化率が高くなるリスクが2倍だったというのです。
長時間のデスクワーク、すなわち、長時間、股間を圧迫した状態でいることが精巣の温度の上昇を招き、精巣温度の上昇そのもの、また、そのことによる酸化ストレスの上昇により精子DNAの損傷を招いたのではないかとのこと。
また、男性の精巣温度を24時間モニタリングしたイタリアの研究(4)で、健康な男性でも、車の運転中や仕事中など同じ姿勢で座ることで陰嚢の温度が上昇することを確認しています。
ただし、長時間座って仕事をしている時でも、コーヒーブレイクの時は温度が急降下していることから、体制を変えたり、休憩時には歩き回ることで精巣を冷やせるようです。
◎男性にとって長時間のサイクリングは要注意
今回の研究はパートナーの女性の周期あたりの妊娠率との関連を調査したところが重要です。
妊活男性の目的は精液検査結果の改善ではなく、パートナーの女性の妊娠、出産であるからです。
そのため、激しい運動の中でも、特に長時間(週に3時間以上)のサイクリングには注意が必要ということになります。
サイクリングでも、サドルのタイプによって影響が異なるようです。
今回の研究では、ソフトでコンフォートなシートもサドルが、硬いシートのサドルに比べて、悪いようです。
それは、そのようなサドルのほうが、サドルによる陰嚢の圧迫や陰嚢温度の上昇に対する影響が強いのではないかとの見解が示されています。
また、肥満男性で、マイナスの影響が強くなるというデータも示されていますが、陰嚢への圧迫や温度上昇がより顕著になるからでしょう。
妊活男性にとって長時間のサイクリングには注意が必要です。
文献)
1)Hum Reprod 2024 Advance article https://doi.org/10.1093/humrep/deae275
2)Fertil Steril 2024 Articles in Press DOI: 10.1016/j.fertnstert.2024.08.323
3)Folia Histochem. Cytobiol. 2019; 57: 15
4)Hum Reprod. 2015; 30: 1006.
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編集後記____________________________________________________________
男性にとって、適度な運動は健康にも、精子の質にも良好な影響を及ぼす一方で、激しい運動や長時間のサイクリングはマイナスになる可能性があるようです。
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妊娠しやすいカラダづくり[毎週末発行] VOL.1121
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