調査は、1998~2004年に慶応大学病院で精子を提供した男性120人に調査票を送り、32人が回答した結果をまとめたもの。
「あなたの提供により生まれた子が、会いに来る可能性があるとあらかじめ話されていたら、提供しなかったか」との質問には、66.7%が、「提供しなかった」と回答しており、87.9%が、「提供は匿名のままが良い」と回答しています。
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AIDとは、無精子症などの男性不妊でのため精子を確保できない夫に代わって、第三者の男性の精子を女性の子宮内に入れて妊娠を期待する治療のことです。
なんと、1948年に初めて実施されていて、これまでに10,000人以上の子供がこの方法で生まれたと言われています。
現在、日本では、夫婦以外の第三者の協力を得て行う生殖補助医療については、この非配偶者の精子を使った人工授精のみが認められていて、非配偶者の精子を使った体外受精や非配偶者の卵子や胚を使った体外受精は認められていません。
AIDで生まれた子供は、戸籍の上では夫婦の子供になりますので、遺伝上の父親と戸籍上の父親が異なるということにります。
これまで、日本産科婦人科学会のガイドラインでは、学会に登録した医療施設で実施さえれること、戸籍上の夫婦に限定すること、営利目的での精子提供を禁止すること、精子提供者は匿名とし、医師が提供者の記録を保存することとしていました。
ところが、「子供の出自を知る権利」は守られなければならないとする考えが、世界的な傾向として次第に強まってきており、日本でも、2003年の厚生労働省の生殖補助医療部会では、15歳以上の子供には、「自らの出自を知る権利」を認め、希望があれば、遺伝上の父親の氏名や住所を知らせるべきであるとし、報告書にまとめたが、反対する声も大きく、法整備はなされていないままです。
実際のところ、今回の調査結果は、さもありなんというところでしょうか。
これまで、精子の提供者は、医療機関が匿名のアルバイトで募集してきたもので、匿名だから、提供に応じたという結果は当然といえるでしょう。
誰だって、精子を提供しただけで、15年後に見知らぬ子供が訪ねてこられる可能性があれば、提供することに躊躇してしまうでしょう。
それよりも、実際にAIDで子供をもうけた夫婦が、子供にそのことを話さない現実があります。
2003年の生殖医療部会の報告書でも本人からの希望があれば開示すべきとしていますが、そのためには、まずは、両親が子供にAIDで生まれたことを伝える必要があります。
この傾向は、おそらく、今後も根強く続くのではないでしょうか。
★非配偶者間人工授精の現状に関する調査研究会
http://aid.hc.keio.ac.jp/index.html