大豆イソフラボンのサプリメントとしての安全な摂取量の検討は、厚生労働省のトクホに大豆イソフラボンを強化した食品が申請されたことがきっかけでしたが、これまで、1日にどれくらいの摂取量が妥当であるのか、多くの議論がありました。
そもそも、大豆イソフラボンが、これだけ注目されるようになったのは、この成分が女性ホルモン(エストロゲン)に似た働きをするために、女性ホルモンが関係するさまざまな病気や不調を改善する効果が期待されたからです。
たとえば、更年期障害の緩和や骨粗鬆症や乳ガンの予防、また、 悪玉コレステロールの低下、さらには、美容、豊胸効果等です。
ところが、多くの議論が出たのは、さまざまな試験の結果は、それらの有効性を示すものもあれば、効果を確認できないものもあったり、逆に、乳ガンの発症や再発のリスクを高める可能性を示唆するものもあったことからです。
今回、30㎎との結論を出した調査会も、昨年の春には、アグリコン(イソフラボンの形態の一つ)の1日あたりの摂取量として、男性で70㎎、閉経前の女性では50mg、閉経後の女性で71mgとの案を出していました。
ところが、 日本人の食生活では、日常的に豆腐や納豆を食しており、大豆食品を食べ過ぎることによる健康被害など出ためしがないという指摘があったり、逆に、日常の食事で食べる大豆食品から摂取する大豆イソフラボンに、サプリメントでさらに摂取することによる過剰摂取のリスクもあるいのではという意見が出されました。
それらの議論を踏まえた上で、同調査会は、日常の食事以外で摂取する大豆イソフラボンのサプリメントの1日の摂取量を30mgとしたようです。
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大豆イソフラボンは、植物性エストロゲンと呼ばれ、最近は、不妊の改善を目的に飲む女性も多いように思われます。
ところが、生殖年齢にある女性においても、大豆イソフラボンの摂取によって、低温期が長くなるなどして月経周期が乱れたり、女性ホルモンの値が低下したりといった試験結果が出ています。
また、海外からも、イソフラボンの一つであるゲステインという成分が、妊娠しづらくさせるという報道があったりして、 多くの方々が混乱されたのではないでしょうか?
今回、食品安全委員会の1日の目安となる摂取量の決定の報道においても、報道機関によっては、大豆イソフラボン、摂取過剰に注意!という見出しで、まるで、大豆イソフラボンや大豆食品そのものの安全性を問題視しているかのような報道もありました。
そこで、大豆イソフラボンについて、少し、情報を整理してみます。
大豆イソフラボンが人によって、効果があったり、なかったり、また、 プラスになったり、マイナスになったりするのは、どんな理由が考えられるのでしょうか?
★腸内環境によって、摂取した大豆イソフラボンのエストロゲンとしての働きに差があるから
大豆イソフラボンには、グルコシド(配糖体)型とアグリコン(非配糖体)型があって、ほとんどの大豆食品中には、グルコシド型として存在しています(味噌や納豆はアグリコン型が主)が、グルコシド型のままでは、吸収されにくく、腸内の酵素によって、アグリコン型に分解されることによって、腸から吸収されるようになります。
ところが、腸内環境によっては、この分解の程度が人によって異なるため、同じ量の大豆イソフラボンを摂取しても、どれだけ吸収されるかは、人によって差が出てくるという訳です。
★大豆食品を食べるか、大豆イソフラボンのサプリメントを摂取するかで吸収のされ方に差があるから
大豆食品を食べた場合には、過剰摂取の問題がほとんど起こらないのは、おそらく、腸内酵素による分解されて吸収されるというプロセスが、吸収量の調節作用になっているのではないかと考えらています。
ところが、すぐに吸収されやすいアグリコン型のサプリメントを摂取した場合は、そのような調節作用が働かないため、時として、過剰摂取になるリスクがあるということです。
ですから、サプリメントメーカーとは、アグリコン型であることを吸収効率がよいと宣伝していますが、必ずしも、そのことが、好ましい結果を招くとはかぎらないわけです。
★体内のエストロゲンの濃度が人によって異なるから
大豆イソフラボンがエストロゲンのような働きをするためには、体内でエストロゲンの受容体と結合する必要があります。
大豆イソフラボンがエストロゲン受容体と結合した場合、本物のエストロゲンの濃度によっては、結果としてエストロゲン活性を低下させることがあるからです。
【結論として】
超微量のホルモンの体内での働きは、完全に把握されているわけではありません。
よって、大豆イソフラボンや合成ホルモンを補充するという方法は、時として、予期せぬ結果を招く場合があるのでしょう。
また、海外で大豆食品が生殖にマイナスの作用があることが、度々、報道されるのも、もともと、大豆食品の食習慣がある人とない人では、体内の大豆イソフラボンの吸収や働きに違いがあるものと考えられるからです。
いずれにしても、大豆イソフラボンに限らず、植物性エストロゲンが含まれるとされるようなサプリメントは、控えたほうが、無難なようです。
私たちには、大豆食品をうまく健康のために活用してきた食文化があります。ですから、大豆食品を食事から、自然な形で食べることがベストです。伝統的な和食文化を守ることが、最も私たちの健康に寄与してくれるに違いありません。