2003年6月から2006年5月まで、同病院で実施した191の体外受精の治療周期を、FSH基礎値から以下の3つのカテゴリーに分けて、それぞれの治療成績を比較しました。
グループA:FSHが10IU/L未満
グループB:FSHが10IU/L以上15IU/L未満
グループC:FSHが15IU/L以上
尚、卵巣刺激法は全てロング法によるものでした。
その結果、平均の採卵数は、グループAで8.7個、グループBで5.5個と、FSH値が低いほうが多かったものの、平均の受精卵数は、グループA、グループBで、それぞれ、4.6個、4.0個、そして、移植あたりの妊娠率では、それぞれ、31.3%、38.1%と、それほどの差はみられませんでした。
FSHが高い値を示した(15以上)グループCでは、他の2つのグループよりも全体の治療成績は下回る傾向がみられましたが、平均の採卵数が2.2個、受精卵は1.4個、そして、移植あたりの妊娠率は10%と、それほど顕著な差ではありませんでした。
この結果から、研究チームでは、FSHの基礎値が高い値を示すということは、卵巣刺激時に排卵誘発剤の必要量が増えるだけで、最終的な妊娠の可能性が大きく低下するわけではないとしています。
コメント
FSHとは、卵胞刺激ホルモンのことで、その名前の通り、LH(黄体化ホルモン)と協働して卵胞を成育させたり、子宮頸管粘液を増やしたり、子宮内膜を厚くするエストロゲンの分泌を促す働きがあります。
生殖活動においてはとても重要な働きを担うホルモンです。
だからといって、このFSHの分泌量が増えるということは、決して、喜ばしいことではありません。
なぜなら、たくさんの量で卵巣に働きかけないと、卵胞が育たなかったり、十分なエストロゲンが分泌されないということで、そのことは、卵巣の力が落ちていることを意味するからです。
年齢が高くなり、閉経が近づくと、FSHの値はどんどん高くなっていくのはそのためです。
さて、不妊治療時に、検査でFSHの値を調べ、数値が高いと、卵巣機能障害とか、早期閉経気味?などと、診断されることがあるようです。
いずれにしても、致命的な烙印を押されたような気分にさせられるものですが、今回の国立成育医療センターに過去の体外受精の治療成績からは、たとえ、FSHの値が高めであっても、それは、卵巣刺激に対する、卵巣の反応度が低いことを示すだけで、決して、そのことが、妊娠に至る可能性を、大きく低下していることを示しているわけではないことが分かりました。
不妊治療においては、さまざまな検査の数値だけで、大変悲観的になってしまうことが少なくありませんが、冷静に、数値をあらわす意味あいを正しく認識しておくことが大切です。