アバディーン大学やオックスフォード大学の研究チームは、スコットランドの5つの病院に通院する原因不明不妊の患者580名を、クロミフェンを摂取するグループ(194名)と人工授精を受けるグループ(193名)、そして、治療は施さないグループ(193名)の3つのグループに分けて、それぞれの治療を半年間継続し、結果を比較しました。
その結果、全体で101人の女性が妊娠、出産まで至りました。
内訳は治療を受けなかったグループで32名(17%)、クロミフェンを飲んだグループで26名(14%)、そして、人工授精を受けたグループで43名(23%)でした。
被験者の平均年齢は32歳、2年以上の不妊期間があるにもかかわらず、不妊検査では異常がなく、原因不明不妊と診断されています。
また、クロミフェンを飲んだグループでは、10~20%の女性に、腹痛や吐き気、のぼせ、頭痛などの副作用を訴えました。
この結果から、原因不明不妊に対しては、クロミフェンや人工授精は、有効な治療法とは言えないと結論づけています。
コメント
イギリスのNICE(the National Institute of Clinical and Health Excellence)では、原因不明不妊では、6周期までの自然周期の人工授精の実施を治療のガイドラインとしています。
今回の試験結果は、このガイドラインの見直す必要性を喚起したと研究チームは指摘しています。
そもそも、原因不明不妊ですから、治療のしようがないわけで、絶対的な治療方針など存在しません。
日本生殖医学会では、原因不明不妊の治療ガイドラインとして、30歳以下で不妊期間が1年未満であれば、半年間、タイミング指導で様子を見てもよいが、それでも妊娠しない場合、または、30歳以上で不妊期間が1年以上であれば、クロミフェン等の排卵誘発剤で過排卵刺激を伴い人工授精を6周期まで実施するとしています。
その根拠として、クロミフェンで過排卵刺激(複数の卵子を排卵させる)を実施することで、タイミング指導に比べて、妊娠率が、2倍以上、過排卵刺激を伴う人工授精では5倍以上の妊娠率が期待できるとする海外の文献があるからとしています。
つまり、原因不明不妊の場合は、複数の卵子を排卵させることで、妊娠率を高めることを、主な治療方針とするということです。
ところが、今回の研究報告では、クロミフェンによる過排卵も自然周期の人工授精も、タイミング指導に比べて、それほど妊娠率は高くなることはない、よって、原因不明不妊ではクロミフェンや自然周期の人工授精は無効であると結論づけています。
もしも、女性の年齢が35歳未満であれば、さらに、半年から1年は、治療しないで、自然妊娠を期待するということも大切かもしれません。
もしも、排卵がないとか、排卵しづらいといった場合は別として、排卵が正常にある場合には、安易にクロミフェンを飲むことのは慎重になったほうがよいかもしれません。
そして、それでも、妊娠しない場合には、過排卵を伴う人工授精にステップアップすることを検討するのがよいかもしれません。
因みに、研究チームのリーダーは、原因不明不妊では体外受精が最もコストパフォーマンスが高い治療法であるとしています。
原因不明不妊の場合には、決まったレールにのって、漫然と治療を受けるというのではなく、よりそれぞれの夫婦の状況に応じた治療方針を立てることが大切なようです。
例えば、夫婦生活の数が極端に少なくならざるを得ないというようなケースでは、自然周期の人工授精は大変有効な治療法になるというふうに。