Boston IVFの医師グループは、2,000年1月から2005年12月のあいだに体外受精や顕微授精を受けた患者の中で、採卵後にまったく受精卵が得られなかった周期を経験した患者のその後の治療成績を、体外受精と顕微授精に分けて、調査しました。
○体外受精においてまったく受精卵が得られなかった周期の後の状況
調査期間に実施した体外受精による7,145治療周期のうち、全体の5%にあたる388人の患者がまったく受精卵を得られなかった周期を経験していました。
その患者の平均年齢は36.9歳で、それまで平均2.2周期の治療を受けていました。
まったく受精卵が得られなかった治療周期の後、388人のうちの107人は、治療をやめてしまいました。
治療を継続した281人の患者はその後トータルで568周期の治療を受けていました。治療法の内訳は、顕微受精が379周期、体外受精が111周期、卵子の提供を受けたのが30周期、精子の提供を受けたのが5周期、GIFTが3周期、そして、凍結胚融解胚移植が40周期でした。
568周期の治療成績は、38周期は卵巣が反応しなかったためキャンセル、再度、まったく受精卵が得られなかったのは36周期、そして、胚移植された494周期の結果、125人の患者が妊娠、出産に至りました。
この結果、まったく受精卵が得られなかった周期を経験した後、44%の患者が出産にまで至っています。胚移植あたりの出産率は25%、治療周期あたりの出産率は22%でした。
○顕微授精においてまったく受精卵が得られなかった周期の後の状況
調査期間に実施した顕微授精による4,976治療周期のうち、全体の3%にあたる167人の患者がまったく受精卵を得られなかった治療周期を経験していました。
その患者の平均年齢は36.6歳で、それまで平均3.0周期の治療を受けていました。
まったく受精卵が得られなかった治療周期の後、167人のうち72人は、治療をやめてしまいました。
治療を継続した95人の患者はその後トータルで184周期の治療を受けていました。治療法の内訳は、顕微受精が152周期、卵子の提供を受けたのが13周期、精子の提供を受けたのが11周期、そして、凍結胚融解胚移植が8周期でした。
184周期の治療成績は、16周期は卵巣が反応しなかったためキャンセル、再度、まったく受精卵が得られなかったのは18周期、そして、胚移植された150周期の結果、34人の患者が妊娠、出産に至りました。
この結果、まったく受精卵が得られなかった周期を経験した後、36%の患者が出産にまで至っています。胚移植あたりの出産率は23%、治療周期あたりの出産率は18%でした。
まったく受精卵を得られなかった治療周期は、治療周期全体と比べて、体外受精でも顕微授精でも成熟卵胞の数や採卵数、成熟した卵子の数が少なかったことから、受精卵を得られなかった原因は、卵巣刺激が最適以下であったことが考えられ、体外受精でも顕微授精でも、その後、1周期か、2周期目で妊娠のいたる確率は決して悪くないとしています。
コメント
体外受精や顕微授精の治療周期で、採卵後、どの卵子も受精が起こらず、まったく、受精卵が得られなかったとしても、精子や卵子の受精能力に問題があって、その後の妊娠が期待できないケースは、少数派であると言えます。
報告では卵巣刺激法が不適切であったため、うまく卵を育てることが出来なかったことが主な原因として挙げています。
このことから、ARTにおいては、それぞれの状況に最適な卵巣刺激法を実施し、適切な数と質の卵子をえることは治療成績を左右する大きな要因であることが分かります。
また、その後の治療成績をみると、まったく受精しなかった周期を経験しても、すぐに、受精障害であるとするのは早計で、それほど、 落胆するにあたらないとも言えそうです。