1982~2007年にスウェーデンで生まれた子どもを対象に、2009年の12月31日まで自閉症や知的障害と診断されたかどうかを追跡調査を実施し、体外受精の方法別にそれらの発症リスクとの関連を調べました。
その結果、出生児2,541,125名のうち体外受精で生まれた子どもは30,959名(1.2%)でした。そして、平均の追跡期間が10年で、自閉症と診断された6,959名のうち体外受精児は103(1.5%)、知的障害と診断された15,830名のうち体外受精児は180名(1.1%)でした。
体外受精児で自閉症を発症した子どもは1年に10万人あたり19.0人、自然妊娠で生まれた子どもは15.6人でした。知的障害を発症した子どもは体外受精児で1年に10万人あたり46.3人、自然妊娠で生まれた子どもは39.8人で、体外受精で生まれた子どもでは自閉症の発症リスクは自然妊娠で生まれた子どもとほとんど変わりありませんでしたが、知的障害の発症リスクは体外受精児がわずかに高いことがわかりました。
ただし、いずれの発症リスクも、単胎児(多胎児でない)に限定すると発症リスクに差はみられませんでした。
また、治療方法別の比較を実施、精巣内精子採取術で顕微授精を実施した新鮮胚移植で生まれた子どもは、新鮮胚を用いた体外受精で生まれた子どもに比べて、自閉症の発症リスクが高く(10万人/年あたり135.7人:29.3人)、知的障害の発症リスクも有意に高い(10万人/年あたり144.1人:60.8人)ことがわかりました。
一方、射出された精液中の精子を用いた顕微授精を実施した新鮮胚移植で生まれた子どもでも、新鮮胚を用いた体外受精で生まれた子どもに比べて、知的障害の発症リスクが高い(10万人/年あたり90.6人:60.8人)ことがわかりました。
このように体外受精で生まれた子どもは自然妊娠で生まれた子どもに比べて、自閉症のリスクはそれほど変わらないものの、知的障害のリスクがわずかながら高いこと、また、男性不妊が原因の顕微授精で生まれた子どもは体外受精で生まれた子どもに比べて、自閉症や知的障害のリスクが高いことがわかりました。
ただし、全体から見た発症率はとても低く、体外受精や顕微授精によって上昇するリスクも小さなものです。
コメント
体外受精や顕微授精などの高度生殖医療の実施数は、年々、増加していますが、それらの治療が出生児に及ぼす影響については完全に把握されているわけではありません。
なぜなら、体外受精そのものは1978年にイギリスで初めて成功して以来、35年がたち、体外受精児も妊娠、出産するほどの歴史がありますが、その後、顕微授精や凍結融解胚移植、さらには、無精子症の男性の精巣から精子を外科的に採取し、顕微授精を実施するなどの新たな生殖補助技術が開発、実施され、それらの生殖補助技術の出生児への影響は追跡調査を続けなければ確かめられないからです。
今回の報告の特徴は、対象とする子どもの数が多いこと、さまざまな治療法別の影響を調べていることです。
その結果は、概ね、それほどの影響はないというものでした。
ただし、体外受精児では知的障害の発症リスクや顕微授精による自閉症や知的障害の発症リスクが統計学的に意味のある差で高くなっているものの、そもそもの発症率が、1年に10万人あたり数十人から百数十人と、とても低く、また、発症リスクの上昇も小さいということで、全く影響がないとは言い切れるものでもありません。
また、顕微授精では、わずかに、発症リスクが高くなっていますが、そもそも、スウェーデンでは、ほとんどが体外受精で、重度の男性不妊にしか顕微授精が適用されていません。
重度の男性不妊以外でも顕微授精が実施されているのはアメリカと日本くらいで、男性不妊以外で顕微授精を実施することのメリットは、まだまだ、さまざまな意見があるようです。
そのため、慎重、かつ、当たり前な考え方に立てば、体外受精にしろ、顕微授精にしろ、その方法以外で妊娠、出産が望めるのであれば、まずは、それ以外の方法で妊娠を目指すに越したことはないということが言えるのではないでしょうか。