南アフリカの研究者らは、体外受精を受けているカップルの男性パートナーのインスリンレベルが精子や治療成績にどのように影響を及ぼすのかを調べるために、体外受精に臨む82組のカップルを対象に試験を実施しました。
対象としたカップルの女性患者の年齢は38歳以下、インスリンレベルや卵巣の反応性は正常範囲で、不妊原因は卵管障害(子宮内膜症を含む)でした。そして、男性の精子濃度や運動率も正常範囲でした。
採卵日の朝に、男性パートナーの空腹時のインスリン濃度を測定し、9.2μIU/mL以下の正常グループ(38名)と9.2μIU/mLを超える高インスリングループ(44名)に分け、精液所見やその後の治療成績との関連を解析しました。
その結果、高インスリングループの男性の平均の精子濃度や正常精子形態率は正常グループのそれに比べて低かったものの統計学的に意味のある差ではありませんでしたが、唯一、精子DNAの構造は高インスリングループの男性のほうが異常な率が有意に高いことがわかりました。
そして、治療成績では受精率や胚のグレードはいずれも正常グループのほうが高かったものの有意な差ではなかったのに対して、移植あたりの妊娠率は57.9%対31.8%と正常グループのほうが有意に高かったとのことです。
このことから男性パートナーの高インスリン濃度は精子の質を低下させることで体外受精の治療成績にマイナスの影響を及ぼす可能性があることがわかりました。
コメント
インスリンの効き目が悪く(インスリン抵抗性)なると血糖値が高い状態が続くため、インスリンが過剰に分泌され高インスリン状態を招きます。女性の場合は高インスリンが男性ホルモンの過剰、そのことが排卵障害や卵質の低下を招き、妊娠しづらくなることが知られています。
この高インスリン血症は男性にとっても精子の質の低下を招き、体外受精の治療成績を悪化させるおそれがあるということが確かめられたとのこと。
対象となった男性の精液所見はいずれも正常範囲だったわけですから男性不妊とは診断されません。
そして、治療成績では受精率や胚のグレードにはそれほどの差はなくても、妊娠率だけがガクッと悪くなっています。
もしも、グレードの高い胚が得られるのにもかかわらず、妊娠に至らない場合、つい女性の着床障害が疑われたりするかもしれませんが、たとえ、男性の精液所見に問題がなくても、精子の質の低下に目を向けることも必要になってくるかもしれません。
その場合、メタボの男性、糖尿病予備軍が疑われる男性は糖の代謝やインスリン濃度を測定し、異常があれば、食生活の見直しや運動によって、高インスリン、高血糖を改善することで精子の質がよくなり、妊娠の可能性が高くなるかもしれません。