アメリカのオハイオ州立大学医学部の研究者らは、2005年から2009年にかけて実施されたLIFE(the Longitudinal Investigation of Fertility and the Environment)研究に参加した不妊症でない妊娠を望むカップル501組の女性を対象にストレスが不妊症リスクに及ぼす影響を調べるために、ストレスマーカーとなる唾液中のアルファアミラーゼ濃度と妊娠するまでに要した期間の関係を解析しました。
その結果、唾液中のアルファアミラーゼ濃度別に3つのグループに分けたところ、最も濃度の高いグループの女性は最も濃度の低いグループの女性に比べて妊娠するまでに1.29倍、濃度が中間だったグループの女性に比べて1.07倍、それぞれ、妊娠するまでに長い期間かかったことがわかりました。
また、このことは唾液中のストレスマーカーが最も高いグループの女性にとって、妊娠する力の低下は不妊症リスク2倍になることに相当するとのことです。
このことから、唾液中のアルファアミラーゼ濃度によって測定されたストレス強度は妊娠するまでに要する期間や不妊症リスクに関連することがわかりました。
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今回の報告はアメリカで環境中の化学物質や生活習慣と妊娠する力の関係を調べた「LIFE研究」で得られたデータを解析して、女性の日常のストレスレベルが妊娠する力にどのように影響を及ぼすのかについて調べています。LIFE研究では、これまでも体内に取り込まれた重金属や環境ホルモンが生殖機能に悪影響を及ぼすことを報告しています。
ストレスは妊娠しづらくさせると言われていますが、それは、たとえば、不妊治療を止めた、もしくは、休んだ途端に妊娠することがよくあったり、ストレスはホルモンや自律神経のバランスを崩したり、免疫力を低下させることがわかっていたりすることを、その根拠にしているようです。
ただし、そもそも、ストレスそのものがとらえどころのないものなので、その強さやレベル、影響を数値で正確に測定することが困難なところがあることから、ストレスと妊娠する力の関係を検証した研究がそれほど多くはありません。
そんな中で、今回の研究ではストレスの測定に唾液中の糖分の消化酵素であるアルファアミラーゼをマーカーとして用いています。唾液中のアルファアミラーゼは、交感神経の影響を受けて、不快な刺激を受けると唾液アミラーゼが上昇し、快適な刺激では逆に低下することがわかったことから、ストレスマーカーになるからです。
また、今回の研究に携わった研究者は、同様の研究を2010年に実施し、アルファアミラーゼの濃度が高いほど、妊娠率が低くなることを確かめています。
いずれの研究でも、不妊症のカップルや不妊治療を受けているカップルではなく、妊娠を希望しているカップルを対象にしていることから、日常生活で感じるストレスでも妊娠までの期間に関連するわけで、その上に不妊治療を受けることのストレスが加わるとさらに影響が大きくなる可能性があります。
不妊治療を受けているカップルはなんらかのストレス対策を講じることが治療成績によい影響を及ぼすかもしれません。