スウェーデンのカロリンスカ大学やウプサラ大学の大学病院で原因不明の不妊症と診断された180名を対象に葉酸のサプリメントの服用や血中の葉酸濃度と不妊治療の治療成績の関係を調べました。
その結果、葉酸のサプリメントを服用している女性(137名)と服用していない女性(42名)の間で妊娠率や出産率に差が見られませんでした。
また、血中の葉酸濃度が22.5nmol/l以上の女性(78名)と22.5nmol/l未満の女性(89名)の間では血中のホモシステイン濃度は葉酸濃度が高い女性のほうが低かったものの、妊娠率や出産率では統計学的に意味のある差は見られませんでした。
このことから、葉酸のサプリメントの服用によって血中のホモシステイン濃度が低下するものの、治療成績の向上にはならないことが分かりました。
コメント
葉酸はビタミンB群の一種で、細胞の分裂増殖に際してDNAの複製に欠かせないビタミンであるとされています。そして、葉酸のサプリメントを服用することで子の脊椎二分症などの先天異常のリスクを大幅に低下させることから厚労省も妊娠の可能性のある女性に妊娠前から葉酸の補充を勧めており、妊娠、出産に際して最も重要なビタミンの一つとして知られています。
また、これまでの研究で葉酸のサプリメントの服用は体外受精時の卵の発育環境を向上させるとの報告がなされていました。
今回の研究では葉酸のサプリメントの服用は卵の発育障害や流産のリスクを高めるとされているホモスシテイン濃度の低下はみられるものの、治療成績には関連しなかったとのこと。
葉酸の補充は子の先天異常のリスクの低下には働きますが、妊娠、出産の確率を高めることはないようです。つまり、葉酸のサプリメント服用の目的は妊娠しやすくなるためというよりも、健康なお子さんを妊娠、出産するためであるということになります。
そもそも、特定の成分を補充することで妊娠率が高まるというような研究報告はありません。
妊娠するしないに最も最も関与するのは「確率」、すなわち、妊娠するだけの力が備わった卵子と巡り合えるかどうかなわけで、この領域はセルフケアや医療が関与できないところであります。
もちろん、妊娠の確率を低下させているもの、たとえば、排卵障害や卵管障害、あるいは、喫煙や肥満、栄養失調などがあれば、適切な治療やセルフケアで改善できます。
ところが、私たちにどうすることもできない「固有の」妊娠率を高くしようとすることは、そもそも、ないものねだりなわけです。
ここを正しく知っておかないと、無駄なお金や労力を使ってしまいかねません。
そういう意味では、健康なお子さんの妊娠や出産に働く葉酸のサプリメント補充はとても大切なことであることがよくわかります。