葉酸の摂取量と体外受精や顕微授精の治療成績との関係

生活習慣・食事・サプリメント

2014年09月14日

Obstetrics & Gynecology

葉酸の摂取量の多い女性ほど体外受精や顕微授精の治療成績が良好であることがハーバード公衆衛生大学院の研究チームによる試験で明らかになりました。

ハーバードメディカルスクールの関連病院であるマサチューセッツ総合病院で体外受精や顕微授精を受けている女性232名を対象に食事やサプリメントからの葉酸の摂取量と治療成績との関連について調べました。

葉酸の摂取量は治療に入る前に食物摂取頻度調査票を使って、過去1年間の特定(131種類)の食品の摂取頻度や量、そして、サプリメントの使用状況について回答してもらい、1日あたりの葉酸の総摂取量とサプリメントによる摂取量を算出し、それぞれの摂取量で4つのグループに分け、その後の353治療周期の治療成績との関連を解析しました。

その結果、1日の葉酸摂取量は多い女性ほど、着床率や妊娠率、出産率が高く、葉酸摂取量が最も多いグループ(2,352μg/日)の女性の着床率は最も少ないグループ(1,262μg/日)の女性のそれに比べて22%、妊娠率で24%、そして、出産率で26%高いことがわかりました。

また、サプリメントによる葉酸摂取量が最も多い女性(800μg/日以上)の出産率は、最も少ない女性(400μg/日未満)のそれに比べて20%高いことがわかりました。

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葉酸の摂取量と治療周期あたりの出産率の関係を表したものが左のグラフです。

上がトータルの(食事とサプリメント)葉酸摂取量、下がサプリメントによる葉酸摂取量をあらわしています。

トータルの葉酸摂取量が増えるほど出産率は高くなりますが、3,200μgで頭打ちになっています。

一方、サプリメントによる葉酸補充においても摂取量が増えるほど出産率が高くなりますが1,200μgで頭打ちになっています。

さらに、葉酸によるサプリメント摂取量が多いほど受精率も高く、胚移植できなかった周期の割合が低いことがわかりました。

コメント

葉酸は、水溶性のビタミンB群の一種で、遺伝物質であるDNAの合成やアミノ酸の代謝、タンパク質の合成、ビタミン代謝に関与しています。ほうれん草から発見されたという経緯の通り、植物に含まれてはいますが、実際には植物性食品だけでなく、動物性食品であるレバーなどにも多く含まれています。

葉酸は細胞が分裂、増殖する際に遺伝情報であるDNAが正しくコピーされるのに必要な酵素を助ける補酵素として働きます。そのため、もしも、葉酸が不十分であると、細胞の分裂や成長、そして、DNAの形成がうまくいかなるなるおそれが出てきます。卵子と精子が出会い、受精が成立した後は、細胞が最も活発に分裂が繰り返される時です。そのため、妊娠前から妊娠中には、受精卵や胚、胎児には葉酸が大量に蓄積されなければならないため、母体で葉酸が代謝されるスピードが早まり、葉酸の必要量が著しく(普段の約2倍に)増加します。これが、葉酸が妊娠、出産に最重要ビタミンとされる理由です。

厚生労働省は妊娠の可能性のある女性は、1日に400μgの葉酸のサプリメントを服用することを推奨しています。それは、葉酸を補充することで先天異常(二分脊椎症などの神経管閉鎖障害)の予防につながることがわかっているからです。脳や脊椎の神経管が形成されるのは、妊娠初期であることから妊娠が判明してから服用を始めるのは遅く、妊娠前から妊娠3ヶ月くらいまでとされています。

一方、葉酸は細胞が分裂、増殖する際に必須の働きをするわけですから、葉酸のサプリメント服用効果は、決して、先天異常の予防だけに留まりません。これまで報告されている研究結果をみてみると、流産のリスクや早産、低体重出生児が生まれるリスク、さらには、口唇・口蓋裂や自閉症、重度の言語発達遅延、重度の先天性心疾患を予防することに関連するとの報告もなされています。

そして、生殖医療の治療成績にも良好な影響を及ぼすとの報告もなされていますが、今回のように体外受精や顕微授精などの高度生殖補助医療の治療成績に関連するとの報告は初めてのように思います。

ただ、アメリカでは穀類加工食品に葉酸が添加されています。その上でサプリメントを服用しているという背景がありますので、葉酸の摂取量は日本人と単純な比較は難しいと思いますが、葉酸のサプリメントを服用する意義がより大きくなったのではないでしょうか。

また、サプリメントによる葉酸摂取量も1,200μgで最も出産率が高くなっていますが、これも単純にこれだけの量を補充すればよいというわけではありません。葉酸は間接的に遺伝子発現に影響を及ぼすことが知られています。葉酸は不足しても、過剰になってもいけません。

サプリメントで補充する場合は1日に400μgを目安に、1,000μgを超えないように注意すべきです。