ハーバード公衆衛生大学院の研究チームは、主に魚介類を食べることで微量ながらも体に入ってくるとされている水銀(メチル水銀)の妊娠する力への影響を調べるために、マサチューセッツ総合病院で体外受精を受けている205名の女性患者の毛髪水銀濃度を測定し、229周期の体外受精の治療成績との関連を解析しました。また、被験者の一部(157名)に食物摂取頻度調査票に回答してもらい、魚の摂取量も調べました。
その結果、毛髪水銀濃度の中央値は0.62ppm(0.03〜5.66ppm)でした。食物摂取頻度調査票に回答した女性の魚の摂取量の中央値は週に1.5servingsで、魚を多く食べる女性ほど毛髪水銀濃度が高いことがわかりました。そして、毛髪水銀濃度と体外受精の治療周期における卵巣刺激への反応(ピークエストラジオール値、採卵数)や受精率、妊娠率、出産率との関連はみられませんでした。
メチル水銀は主に魚を食べることで体内に入っていると考えられることから、魚に含まれるオメガ3脂肪酸などの生殖機能にプラスの影響を及ぼす成分が水銀のマイナスの影響を上回っているのかもしれないとの見解も示しています。
コメント
魚、特に大型のマグロやメカジキ、キンメダイなどを食べるとそれらの魚に蓄積されていたメチル水銀も一緒に摂ってしまうことになり、その有害性が懸念されています。中でも胎盤を通過することから赤ちゃんにその影響があらわれやすいと考えられているため、妊娠中の女性には水銀が魚の種類と食べる量についての目安が厚生労働省からアドバイスされているくらいです。
その一方で、水銀などの有害な重金属と妊娠する力への影響についても懸念されていますが、これまでの研究では相反する結果が報告されていました。それは、毛髪中濃度や血中濃度など測定方法が異なったり、被験者の数にばらつきが大きかったり、男性の水銀濃度の影響を調べたり、調べなかったりしていたためかもしれません。
今回、栄養と生殖機能の関連を研究しているハーバード公衆衛生大学院のチャバロ先生らのグループが関連病院であるマサチューセッツ総合病院で体外受精を受けている女性を対象にした研究を実施しました。
結果は、毛髪水銀濃度の治療成績への影響は認められなかったというものでした。
魚には、水銀が蓄積されていますが、同時にオメガ3脂肪酸など生殖機能に必須で、よい影響を及ぼす成分も、また、豊富に含まれています。そのため、そのプラスの影響がマイナスの影響を上回っているのかもしれないとの見解を示しています。
また、魚の大きさや種類、魚の部位によっても水銀の量が大きく異なるようです。
そのため、魚の水銀の影響を心配して、魚を遠ざけてしまうのは、かえって、プラスの成分を摂らないことになってしまいかねません。魚の食べ方に気をつけていれば、それほど神経質になることはないと言えそうです。