ハーバード公衆衛生大学院の研究チームは、残留農薬の多い野菜や果物の摂取量と精子の質の関連を調べるために、EARTH研究(マサチューセッツ総合病院で不妊治療を受けているカップルを対象に治療成績に影響する要因について調べている現在進行中の研究)に参加している155名の男性パートナーに食物摂取頻度調査票で野菜や果物の摂取状況を調べました。
そして、アメリカ農務省が毎年発表している残留農薬の調査結果から野菜や果物を残留農薬が多い種類と少ない種類にわけ、男性をそれぞれの野菜や果物の摂取量で4つのグループにわけ、精液検査の結果との関係を分析しました。
その結果、野菜や果物全体の摂取量と精液検査の結果は関連しませんでしたが、残留農薬の多い野菜や果物を多く食べていた男性ほど正常な形態の精子数が少ない傾向がみられ、平均正常形態精子数は、最も多く食べていた男性(1.5皿以上)では3450万だったのに対して最も少なく食べていた男性(0.5皿以下)は1億1490万と、70%も少ないことがわかりました(下のグラフ左)。そして、反対に残留農薬の少ない野菜や果物では多く食べていた男性ほど正常形態精子数が多い傾向が見られましたが統計学的な有意差はありませんでした(下のグラフ右)。
また、残留農薬の多い野菜や果物を多く食べていた男性ほど正常形態精子数が少ない傾向がみられ、平均運動精子数は、最も多く食べていた男性(1.5皿以上)では2137万だったのに対して最も少なく食べていた男性(0.5皿以下)は8423万と、49%少なかったことがわかりました(下のグラフ左)。そして、反対に残留農薬の少ない野菜や果物では多く食べていた男性ほど正常形態精子数が多い傾向が見られましたが統計学的な有意差はありませんでした(下のグラフ右)。
さらに、精液検査の数値が正常値をクリアしている男性の割合との関係を下のようなグラフにしています。残留農薬の多い野菜や果物を多く食べた男性ほど精液検査が正常値を上回っている割合が低くなる傾向がみられます。
このように残留農薬の多い野菜や果物をたくさん食べるほど男性の総精子数や正常形態の精子の数が少なくなる傾向があることが確かめられました。
著者は、この研究は残留農薬と精子の質の関連を調べたはじめての研究であり、残留農薬は精子形成になんらかの影響を及ぼしている可能性があると指摘しています。ただし、被験者は不妊治療クリニックに通院している男性であり、この結果をそのまま一般男性にあてはめるのは無理があるとしています。また、残留農薬の摂取量は個々の被験者に直接測定したわけではなく、食物頻度調査票とアメリカ農務省のデータをもとにした間接的なものであることから、さらなる研究が必要であることを強調しています。
*グラフ:Hum. Reprod. (2015) doi: 10.1093/humrep/dev064から
コメント
残留農薬の摂取と精子の質との関連を調べたはじめての研究報告ですが、著者のアドバイスは、この結果からすぐに無農薬の野菜や果物に変える必要はなく、よく洗うなど出来る範囲のことでよいとのことです。