精子DNA断片化率の卵巣予備能別ART治療成績への影響

男性の妊娠させる力に影響を及ぼすもの

2015年04月10日

Fertility and Sterility

卵巣予備能の低下した女性のカップルでは男性パートナーの精子DNA断片化率は体外受精や顕微授精の治療成績に影響を及ぼすことが中国の研究で明らかになりました。

中国の温州医科大学の研究チームは、精子DNA断片化率の体外受精や顕微授精の治療成績への影響を、女性の卵巣予備能が正常な場合と低下している場合にわけて調べました。

初めて体外受精や顕微授精を受けた2,865組のカップルを対象に、治療周期の1〜2ヶ月前に男性の精子DNA断片化率を測定(SCD test)し、その後の治療成績との関連を調べました。また、卵巣機能の評価は、基礎FSH値が10IU/L以上、前胞状卵胞(アントラルフォリクル)が6個未満、年齢が38歳以上のうち少なくとも2つを満たす場合は卵巣機能低下とし、いずれにもあてはまらなければ正常としました。

その結果、卵巣機能が低下している女性のカップルでは男性の精子DNA断片化率が27.3%を超えると治療成績が低下していく傾向がみられましたが、卵巣機能が正常であるカップルではそれらの関連性はみられませんでした。

また、卵巣機能が正常なカップルでは、男性の精子DNA断片化率が27.3%を超えると初期流産のリスクが高くなりました。

これらのことから、精子DNA断片化率は女性の卵巣機能が低下している場合には体外受精や顕微授精の治療成績に影響を及ぼすことがわかりました。

コメント

精子DNA断片化(フラグメンテーション)とは、精子の頭部に格納されているDNAが損傷を受け、二重らせんの片方、もしくは、両方がちぎれることで、DNA断片化率とは射精精液中のDNAが断片化した精子の割合のことです。精子のDNAがちぎれてしまう原因としては主に酸化ストレス、すなわち、活性酸素による攻撃によるものではないかと考えられています。

さて、精子の役割は、男性のDNAを卵子の中に運びこむことで、それによって受精のスイッチが入り、新しい命の活動が始まります。そのDNAがちぎれていると受精やその後の成育に障害が出るのではないかと考えられることから、これまで精子DNA断片化率と体外受精や顕微授精の治療成績の関係を調べる臨床試験がいくつも行われていますが、結果は相反するもので、断片化率が治療成績に影響するというものもあれば、影響しないというものもありました。

その一方、卵子には精子のDNAの損傷を修復する働きがあることが動物実験により確かめられています。そのため、DNAが損傷を受けた精子が多い場合でも卵子のよる修復がなされ、治療成績に影響を及ぼさないことがあり得ることから、これまでの試験の結果が相反するのは卵巣の修復機能が影響しているからではないかと考え、今回、卵巣機能が正常な女性のカップルと卵巣機能が低下した女性のカップルで、精子DNA損傷率のART治療成績への影響を調べる試験が行われました。

そして、卵巣機能が正常な女性のカップルでは精子DNA損傷率の治療成績への影響はみられなかったのに、卵巣機能が低下したカップルではDNA損傷率が27.3%を超えると、治療成績が低下しました。

このことから卵巣が精子DNAの損傷を修復していて、卵巣機能が低下すれば修復能力も低くなることが考えられます。

女性の年齢が30代後半、40代で、年齢による卵巣機能の低下により、体外受精や顕微授精の治療成績が思わしくないカップルにとって、男性の精子のDNAの損傷率の低下を予防することは有効な対策になるということになります。

男性の精子は、毎日、新たにつくり続けられていますので、たとえば、治療のために精液を採取する前は、1日おきくらいの間隔で頻繁に射精したり、抗酸化サプリメントを摂取したりするとよいかもしれません。