イタリアのパドヴァ大学の研究チームは、一日を通しての陰嚢の温度の変化が精子をつくる働きとどのように関連するのかを調べるために、左側に精索静脈瘤のある男性40名(乏精子症20名と精液所見正常20名)、肥満男性20名、そして、比較対照するために健康な男性20名の左右の陰嚢に小型温度計を装着し、24時間のモニタリングを実施し、陰嚢温度と精液所見や性ホルモン、精子の染色体異常、精巣への血流との関係を分析しました。
陰嚢温度の24時間モニタリングの結果は左図の通りです。グラフの青線が左側の陰嚢、緑線が右側の陰嚢温度の一日の推移をあらわしています。一番上が健康な男性、真ん中が左側に精索静脈瘤のある男性、下が肥満男性です。
精索静脈瘤のある男性や肥満男性の陰嚢の一日の平均温度は、それぞれ、35.41℃、35.38℃と、健康な男性の34.73℃に比べて高いことがわかりました。そして、陰嚢の温度上昇は精子をつくる働きの低下やFSHレベル上昇に関係しました。
そして、健康な男性の陰嚢温度は一日のうちに変動がありました。睡眠中は高く、日中で上昇する(赤丸の囲み)のは、車の運転中や仕事で座っている時、くつろいでいる時など、同じ姿勢で長時間座っている時でした。反対に歩いてる時には温度が下がっています。
ところが、肥満男性や精索静脈瘤の左側(静脈瘤のある側)の陰嚢温度は、健康な男性ほど変動がみられませんでした。
また、同じ精索静脈瘤のある男性でも、精液所見が正常な男性よりも、乏精子症の男性のほうが平均の陰嚢温度が高いことがわかりました。
さらに、肥満男性や精索静脈瘤の男性の精巣への血流は健康な男性に比べて悪く、特に、乏精子症の精索静脈瘤の男性が最も悪いことが明らかになりました。
このことから、肥満男性や精索静脈瘤の男性では陰嚢の温度上昇がみられ、そのことが精子をつくる働きを低下させ、精子の染色体異常を招いているのではないかとしています。
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精子をつくる働きは熱に弱いことが知られています。日本人の平均体温は37℃前後ですが、精巣の機能を保つには、そのマイナス2℃の35℃前後が理想的と考えられています。このわずか2℃が精子をつくる働きに大きな影響を及ぼすというわけです。
そのため、睾丸は陰嚢という袋に格納され、体内から外に出され、冷やされています。
陰嚢(睾丸)の温度の24時間モニタリングは陰嚢の温度変化を一目瞭然にしました。ここまでやるか!という試験ですが、その甲斐あって大変興味深い結果が出ています。
健康な男性でも、車の運転中や仕事中など同じ姿勢で座ることで陰嚢の温度が上昇することから、注意が必要です。ただし、長時間座って仕事をしている時でも、コーヒーブレイクの時は温度が急降下していることもわかりましたので、体制を変えたり、休憩時には歩き回ることで精巣を冷やせるようです。
また、精索静脈瘤がある男性でも、血管の圧迫など、血流を悪化さえ、血液が滞留することで陰嚢の温度が上昇することも確かめられています。
イギリスの研究では体にぴったりとフィットする下着を着用している男性は、そうでないパンツの男性よりも精子の数が少ないと報告されています。これも陰嚢温度に関係すると考えられています。