上海交通大学医学院の研究者らは、安徽省の繊維工場で働く新婚女性291名を対象に、血中のビタミンB6やビタミンB12、葉酸濃度、DDT濃度を測定し、ビタミンB6やB12、葉酸が不足しているグループと充足しているグループに、血中のDDT濃度が高いフループと低いグループに、それぞれ分け、その後、2年間の妊娠率や初期流産率との関係を調べました。
追跡期間中にトータルで385の妊娠例があり、その内の31%の120例は流産に終わりました。
ビタミンB群が充足している女性の妊娠率はDDTの濃度に関係しませんでしたが、ビタミンB群が不足しているとDDT濃度が高い女性は低い女性に比べて妊娠率が56%低くなることがわかりました。
また、DDT濃度が高い女性は流産のリスクが高い傾向がありましたが、葉酸の濃度が4.8mol/L高くなるごとに流産率は45%低くなることがわかりました。
このことから過去に農薬や殺虫剤に使われていて、環境ホルモンとして生殖機能の低下のリスクを高めると考えられているDDTの影響に対してビタミンB群は予防効果を有することが示唆されたとしています。
コメント
DDTは、かつて、殺虫剤や農薬に使われていた有機塩素系の合成化学物質で、現在、日本国内では製造や使用が禁止されていますが、分解されにくく、長期間に渡って土壌や水に残留し、食物連鎖を通じて人間の体内に取り込まれ、生殖機能の低下や発がん性をはじめ、健康にさまざまな悪影響を及ぼすと考えられています。
今回の中国の研究報告では、DDTの妊娠率や流産率へのマイナスの影響がビタミンB6やB12、葉酸が不足している女性では見られたが、足りている女性では見られなかったことから、そのメカニズムは不明ではあるけれども、ビタミンB6やB12、葉酸にはDDTによる生殖機能低下を予防する働きがあるのかもしれないとしています。
DDTやその代謝物、関連化合物は、これまで動物試験や試験管内実験で環境ホルモンとして体内のホルモン分泌をかく乱させ、生殖機能に有害な作用があることが確かめられています。
ただし、今回の試験の被験者である中国人女性の血中のDDT平均濃度は28.6ng/gで、日本人女性では高くても2ng/g台と大変低いレベルですので、DDTのマイナスの影響そのものを心配する必要はないと思いますが、ビタミンB6やB12、葉酸の有害物質による生殖機能低下への予防効果は知っておきたいことだと思います。
ビタミンB6、B12、葉酸が不足するとホモシステインという悪玉アミノ酸の濃度が高くなり、胚の質を低下させたり、流産や早産のリスクを高めることがこれまでの多くの研究で確かめられています。
ビタミンB6やB12、葉酸には妊娠力低下を予防する働きがある、大切なビタミンであると言えます。