ロンドンのミドルセックス大学付属ノース・ミドルセックス病院で、2013年6月から2014年4月の間に、男性不妊で人工授精の適応とされた73組のカップルの男性に、運動精子数が500万未満だった場合に40分以内に続けて精液を採取してもらい、1回目と2回目に採取した精液の精液検査の結果を比較しました。
その結果、精子濃度には差がみられませんでしたが、運動率や正常精子形態率は1回目に比べて2回目のほうが良好で、連続して採取することで改善されました。ただし、精液量は2回目のほうが減少しました。
1回目と2回目の精液検査の結果は以下の通りでした。
図)初回と2回目(40分後)の精液検査比較
OAT(oligoasthenoteratozoospermia)症候群(精子濃度・精子運動率・正常形態精子率の3つがいずれも基準値を下回る)の男性では、短時間(40分以内)に連続して精液を採取したほうが高速直進運動率が良好であることから、OAT症候群の男性にとっての適切な禁欲期間についてのコンセスサスは形成されていないものの、男性不妊による人工授精や体外受精で実施してもよいかもしれないと結論づけています。
コメント
これまでも禁欲期間が短いほうが精液所見が改善されたり、人工授精の妊娠率や体外受精の受精率が改善されたという研究報告がなされていますが、40分以内の連続した精液採取で、1回目と2回目の精液所見を比較した研究ははじめて実施されたとのことです。
そもそも、WHOの精液検査のマニュアルでは「2〜7日間の禁欲期間を設ける」とされていますが、それは、あくまで健康な男性を想定したものであり、そういう意味では男性不妊患者にとっての適切な禁欲期間は明らかにはされていませんでした。
これまで、イスラエルの研究で6008名の男性の9489の精液サンプルの禁欲期間と精液所見の関係を調べたところ、精子濃度が基準値を下回る精液では精子運動率は禁欲期間が1日の場合が最も高く、それ以上に長くなると低くなっていき、正常な精液では10日を超えると低くなったと報告しています。
つまり、正常な男性では1週間程度の禁欲期間を設けても運動率は低くならないが、男性不妊の男性では禁欲期間が2日以上になれば運動率が低くなってしまうというわけです。
であれば、男性不妊患者ではパートナーの妊娠率を高めるためには禁欲期間はより短くするほうが得策だと言えます。
今回の研究では1日どころか40分以内に連続して精液を採取することで高速直進運動率や正常形態率が改善されることを確かめています。
このメカニズムは不明であるが、2回目に採取した精子のほうがDNAの断片化率が低くなっていることが関係しているかもしれないとしています。
いずれにしても禁欲期間を短くすることに越したことはなさそうです。