葉酸はBPAによる体外受精治療成績の低下を緩和させるかもしれない

妊孕性に影響する因子

2016年08月14日

Reproductive Toxicoilogy 2016; 65: 104-112

食事からの葉酸摂取はビスフェノールAによる体外受精の治療成績低下を緩和させる可能性があることがアメリカで実施された研究で明らかになりました。

ハーバード公衆衛生大学院の研究チームは、体外受精に臨む178名の女性に、治療開始前に食物摂取頻度調査票を使って、過去3ヶ月間の食事やサプリメントからの葉酸の摂取量を調べ、治療開始後、月経3〜9日の間と採卵時に尿サンプルを採取し、尿中のBPA濃度を測定しました。

1日の葉酸摂取量の中央値が449μgであったことから、対象者を1日の葉酸の摂取量が400μg未満と400μg以上の2つのグループに分け、尿中のBPAレベルと体外受精の治療成績(248周期)との関係を解析しました。

尿中のBPA濃度で4つのグループにわけたところ、食事からの葉酸摂取量が1日に400μg未満の女性のグループでは、尿中BPA濃度が最も高かった女性は、着床率や臨床妊娠率が統計学的に有意に低かったのに対して、食事からの1日の葉酸摂取量が400μg以上の女性ではBPA濃度と治療成績は関連しなかったことから、食事からの葉酸はBPAによる体外受精の治療成績の低下を緩和することが示唆されました。

特に、尿中のBPAが最も高い女性と最も低い女性を比べた場合、治療成績の差は最も高くなり、食事からの1日の葉酸摂取量が400μg未満のグループでは、尿中BPA濃度が最も高かった女性は、着床率が66%、臨床妊娠率は58%低いことがわかりました。

このことから、食事で摂取した葉酸はBPAの体外受精の治療成績にのマイナスの影響を緩和させる可能性があることがわかりました。

コメント

ビスフェノールA(BPA)は、主に、ポリカーボネートと呼ばれるプラスティックの原料として使用される化学物質で、電気機器、OA機器、自動車・機械部品、食器、容器などに、使用されています。体内に取り込まれるのは、主に、食事を通してで、ポリカーボネート製の食器や容器などから、また、食品の缶詰や飲料缶から飲食物に溶けだし、それを飲食することによるものです。

このBPAは環境ホルモンとして、健康へのマイナスの影響が懸念されており、尿中のBPA濃度が高い女性ほど不妊治療の治療成績が低くなるという臨床試験結果がいくつか報告されており、BPAが生殖機能にマイナスの影響を及ぼすのではと考えられていました。

その一方で、動物(ネズミ)実験で、餌からの大豆や葉酸、ビタミンB12などが、BPAの生殖機能へのマイナスの作用が緩和されたことから、ハーバード公衆衛生大学院の研究チームは、人間にもあてはまるのではないかとの仮説を立て、今回の試験が実施されました。

ヒトを対象にした研究では、大豆食品を使って既に実施されており、大豆を食べない女性ではBPA濃度は高くなるほど治療成績が悪くなるのに対して、大豆を食べている女性では治療成績は尿中BPA濃度に関係なく一定であったことわかっています。

今回、ハーバード公衆衛生大学院のグループは、同様の研究を葉酸でも実施し、葉酸が環境ホルモンのマイナスの影響を防ぐ可能性があることがわかりました。

環境ホルモンの生殖機能へのマイナスの影響については多くの研究がなされていますが、その緩和についての研究は初めてのようです。

興味深いこと尿中BPAによる体外受精の治療成績へのマイナスの影響の緩和作用はサプリメントからの葉酸では見られなかったとのこと。

食品中の成分は人工の化学物質の害から私たちの身体の働きを守ってくれるように働くのかもしれません。