ハーバード公衆衛生大学院の研究チームは、体外受精に臨む273名の女性に、治療開始前に質問票を使って、過去1年間の身体活動の状況を調べ、その後の治療成績との関連を調べました。
質問票では過去1年間の身体活動「ウォーキング、ジョギング、ランニング、サイクリング、スイミング、テニス、スカッシュ、ウエイトリフティング、エアロビクス(マシンを使ったエクササイズを含む)、中程度のアウトドア活動(庭仕事、ガーデニング等)、高程度のアウトドア活動(掘削、薪割り等)」の週の平均時間を記入してもらいました。また、週の仕事や運転中、そして、自宅で座っている平均時間も記入してもらいました。
そして、以下の活動の週あたりの平均時間を算出し、その時間で5つのグループに分け、治療成績との関係を解析しました。
・トータルの身体活動時間
・トータルの座っている時間
・中-高程度の身体活動時間
・高程度(ジョギング、ランニング、サイクリング、スイミング、テニス、スカッシュ、エアロビクス、高程度のアウトドア活動)の身体活動
・メッツ(*)
その結果、対象者の中-高程度の運動の週の平均時間の中央値は2.8時間でしたが、身体活動と427周期の体外受精の着床率や臨床妊娠率、出産率には関連しませんでした。ただし、エアロビクスやボート漕ぎ、スキー、ステアマシンを週に平均1.5時間行う女性は出産率が有意に高いことがわかりました。
このことから、身体活動は体外受精の治療成績にマイナスになることはありませんが、特定の運動は良好な影響を及ぼすかもしれないと結論づけています。
*)メッツとは:身体活動の強さを安静時間の何倍に相当するかで表す単位のこと。座って安静にしている状態を1メッツとします。
コメント
適度な運動はバランスのよい食生活や休息(睡眠)とともに、健康で長生きするための3つの柱とされています。
このことは、そのまま、健康なお子さんの妊娠、出産についても言えることですが、運動については、どんな運動をどれくらい行えばいいのか、定かではありません。
実際に、これまでいくつもの研究報告があります。
たとえば、競技スポーツのアスリートの女性は、運動をしない女性に比べて、不妊症のリスクが高いという報告があります。
また、一般女性を対象にした疫学調査では、日常の運動時間が長くなるほどBMIに関係なく、排卵障害の不妊症のリスクが低く、週に5時間程度の運動が最もリスクが低かったという報告があります。その一方で、運動の強度と頻度が高くなるほど不妊症リスクが高くなるという報告があります。
今回のハーバード大学のEARTH研究では治療前の身体活動と体外受精の治療成績との関連を調べたところ、身体活動は治療成績との間には関連性は見出せなかったとのことですが、過去に実施された研究では身体活動が活発な女性ほど妊娠率が高いとの報告があります。
このように身体活動、すなわち、運動習慣の有無やその程度と妊娠しやすさの関係については、研究によっては相反する結果が出ているわけです。
その理由としては、そもそも、身体活動を正確に把握することは困難であるということがあります。実際に身体活動を測定するために開発された質問票が存在しますが、研究によって質問票が異なり、その精度にバラつきがあります。
また、運動が生殖機能に良好な影響を及ぼすのは、いくつかの働きを介すると考えられています。たとえば、運動による血流や代謝の改善、インスリン抵抗性の改善、そして、ストレスの軽減などのメンタル面への働きなどです。
そのため、同じ運動を行っても、その影響には個人差が大きく反映される可能性がありますし、どんな運動がそれぞれの女性に適しているのかについても異なるのかもしれません。
このような理由で研究の結果にバラつきが出るのかもしれませんが、今回の研究でも特定の運動やBMIが適正範囲の女性では中-高程度の運動と良好な治療成績が有意に関連したということから、自分に適した運動とそのレベルや時間をみつけて、取り組むことが大切なのかもしれません。
いずれにしても、治療成績に、直接、関連しなくても、ストレス軽減や身体の調子を整えることになる運動は治療環境を良好にする効果があるのは間違いありません。