ビタミンD濃度と体外受精の治療成績の関係

生活習慣・食事・サプリメント

2016年08月27日

Am J Clin Nutr

体内のビタミンDレベルの指標である血中25(OH)D濃度が高いほど受精率も高くなりましたが、妊娠率や出産率とは関連しないことが、アメリカの研究で明らかになりました。

ハーバード公衆衛生大学院の研究チームは、EARTH研究に参加している体外受精や顕微授精に臨む100名の女性に、治療周期3〜9日に血液中の25(OH)Dを測定し、168周期の治療成績との関連を調べました。

その結果、25(OH)Dの中央値は86.5nmol/L(33.5-155.5nmol/L)でした。25(OH)Dの濃度で4つのグループに分けたところ、最も濃度が高かったグループの女性は最も低かったグループの女性に比べて受精率が11%高いことがわかりました(P=0.05)。この傾向は体外受精の周期(n=71,P=0.39)に比べて顕微授精の周期(n=70, P=0.004)がより強くあらわれました。

また、25(OH)D濃度濃度を連続した変数として解析したところ、25(OH)Dが高くなるほど受精率も高くなり、25(OH)Dが15nmol/L増加すると受精率が19%高くなることがわかりました(OR:1.19; 95%CI:1.04-1.36)。

ところが、25(OH)D濃度は妊娠率(P=0.83)や出産率(P=0.47)とは関連しませんでした。

体内のビタミンDレベルは体外受精や顕微授精の高い受精率には関連するものの、高い体内ビタミンDレベルの生殖機能へのプラスの影響は妊娠率や出産率にはあらわれませんでした。

コメント

ビタミンDは脂溶性ビタミンの一つで、キノコ類などの植物由来のビタミンD2(エルゴカルシフェロール)と魚介類や卵などの動物由来のビタミンD3(コレカルシフェロール)があります。

主にカルシウムとリンの吸収を促進し、骨をつくり、丈夫にすることが知られていますが、近年、マウスなどの実験でビタミンD欠乏が卵胞発育や排卵の障害になることが示され、生殖機能にも深く関わっていることがわかってきました。

ところが、これまでのヒトを対象とした研究では、ビタミンDレベルと生殖機能の関連について明確な結論を出すまでに至っていません。それは、ビタミンDは治療成績に関連したという研究もあれば、関連しなかったという研究もあるからです。

そこで、ハーバード大学のEART Studyで体外受精を受ける女性を対象に体内ビタミンDレベルの指標である血液中の25(OH)Dを測定し、治療成績との関連を調べました。

その結果は受精率とは関連するが、肝心の妊娠率や出産率には関連しなかったというものです。

この研究で注意する必要があるのは被験者の女性は、概ね、25(OH)D濃度が高いことです。中央値が86.5nmol/L、最低でも33.5nmol/L、最高で155.5nmol/Lというレベルです。日本の単位として一般的な「ng/mL」に換算すると、中央値は34.6ng/mL、最低が13.4bg/mL、最高が62.2ng/mLということになります。

これまで25(OH)Dの基準値の定義はなされていなかったのですが、最近の日本内分泌学会でビタミンDの基準値案は、30ng/mL以上が望ましいレベル、20以上30ng/mL未満が不足、そして、20ng/mL未満が欠乏とされました。

その基準を用いると、今回の被験者、すなわち、ハーバード大学の関連病院であるマサチューセッツ総合病院で体外受精を受ける女性は全員適正なレベルということになります。

これは100名中91名がマルチビタミンのサプリメントを利用していたからかもしれませんが、このことが妊娠率や出産率にまで反映しなかった理由なのかもしれません。

一方、日本人女性を対象に25(0H)D濃度を調査した厚生労働科学研究では20ng/ml未満の「ビタミンD不足状態」の人は全体の半分以上に達するという報告があります。

体内ビタミンDレベルは治療成績だけでなく、妊娠、出産のリスクや出生児の健康にも関連するという研究報告もありますので、妊娠、出産を望む女性はビタミンD不足に注意する必要がありそうです。

ビタミンDは紫外線を浴びて体内でつくられる他、魚やしいたけなどの食品からも摂っていますが、ビタミンD、もしくは、マルチビタミンで補充するのが現実的かもしれません。