ノースカロライナ大学チャペルヒル校の研究チームは、男性不妊の原因の一つとされている精索静脈瘤の手術が、その後のカップルの治療成績の改善に有効に働くのかどうかを調べるためにシステマティックレビューとメタ解析を実施しました。
精索静脈瘤がある無精子症や乏精子症の男性不妊患者が精索静脈瘤の手術を受けた場合と受けなかった場合の人工授精や体外受精、顕微授精の妊娠率や出産率、精巣精子採取術の精子回収率を比較した、トータルで1,241名の男性を対象とした7つの後ろ向き研究の結果を解析しました。
まず、ART(高度生殖補助医療)成績では、乏精子症男性の女性パートナーの出産率では、精索静脈瘤の手術を受けなかったカップルに比べて、受けたカップルのほうが有意に高かった(OR:1.699)こと、乏精子症と無精子症男性をあわせた女性パートナの出産率でも、精索静脈瘤の手術を受けなかったカップルに比べて、受けたカップルのほうが有意に高かった(OR:1.761)ことがわかりました。
そして、無精子症男性の女性パートナーの妊娠率では、精索静脈瘤の手術を受けなかったカップルに比べて、受けたカップルのほうが有意に高かった(OR:2.336)こと、乏精子症と無精子症男性をあわせた女性パートナの出産率でも、精索静脈瘤の手術を受けなかったカップルに比べて、受けたカップルのほうが有意に高かった(OR:1.760)ことがわかりました。
また、人工授精の出産率でも、精索静脈瘤の手術を受けなかったカップルに比べて、受けたカップルのほうが有意に高かった(OR:8.360)ことがわかりました。
さらに、無精子症の男性の精巣精子採取術の精子回収率においても、精索静脈瘤の手術を受けなかったカップルに比べて、受けたカップルのほうが有意に高かった(OR:2.509)ことがわかりました。
このことから、精索静脈瘤のある男性不妊患者にとって、たとえ、パートナーへの女性に体外受精や顕微授精が行われる場合でも、また、無精子症で精巣精子採取術を受ける場合でも、その前に精索静脈瘤の手術を行うことは治療成績の改善につながる可能性があることがわかりました。
コメント
精巣から心臓に向かって血液が戻る静脈は約50〜60cm上にある腎静脈に流入するのですが、通常は弁が機能して上向きの血流だけなのですが、主に弁の機能の低下によって腎静脈から精巣に向かって逆流が起こり、精巣のまわりに瘤(こぶ)のようなものができた状態になります。この状態を精索静脈瘤と呼んでいます。
一般成人男性でも約10-15% に見られますが、男性不妊を受診する男性ではの約30-40%にみつかると言われています。
精索静脈瘤によって精巣の温度が上昇し、精子をつくる働きが低下し、精液検査の結果が悪く(精子濃度や運動率の低下)なったり、酸化ストレスが上昇し、精子の質が低下(精子DNAフラグメンテーション率が上昇)したりして、男性不妊の原因になります。
治療は手術で、これまでも、精索静脈瘤の手術によって、精液所見や精子の質が改善され、自然妊娠が可能になったり、パートナーへの治療成績が改善されるという研究報告がなされていました。
ただし、改善が認められるまでに時間がかかる場合があることから、男性への治療はしないまま、パートナーへの体外受精や顕微授精を行い、妊娠を目指すことが少なくありません。
また、自覚的な症状がないことが多く、精索静脈瘤が見逃されているケースもあるはずです。
そんな状況で、今回、これまでの研究結果を統合した解析結果が発表されました。7つの論文はいずれも後ろ向き研究によるもので、かつ、対象者の男性の精索静脈瘤のグレードが揃っているわけではありませんので、エビデンスレベルは高いとは言えないかもしれませんが、治療方針を決定する際の参考にはなるかと思います。
もしも、精液所見が悪かった場合は、男性不妊を専門とする泌尿器科医の診察を受け、適切な治療方針を立てることを強くお勧めします。