ブリュッセル大学の研究者ら(世界で初めて顕微授精による妊娠出産に成功したAndre Van Steirteghem教授を含む)は、父親が重度の男性不妊のために顕微授精で生まれた18-22歳の男性54名と自然妊娠で生まれた57名の男性の精液検査の結果を比較しました。
その結果、顕微授精で生まれた男性(ICSI男性)の精子濃度は1,770万/ml、総精子数が3,190万、総運動精子数が1,270万で、いずれも自然妊娠で生まれた男性(自然妊娠男性)に比べて少ない(それぞれ、3,700万/ml、8,680万、3,860万)ことがわかりました(いずれも中央値)。前進運動精子や総運動精子、正常形態精子率、精液量の中央値は有意な差は認められませんでした。
これらの結果は、年齢やBMI、生殖器奇形、射精後経過時間、禁欲期間調整後も変わらず、ICSI男性の精子濃度や総精子数、総運動精子数は自然妊娠男性の約半分のレベル(それぞれ、ratio 1.9, 95% CI 1.1-3.2、ratio 2.3 95% CI 1.3-4.1、ratio 2.1, 95% CI 1.2-3.6)であることがわかりました。
さらに、ICSI男性は自然妊娠で生まれた男性に比べて精子濃度がWHOの基準(1,500万/ml)を下回る割合が約3倍(AOR 2.7; 95% CI 1.1-6.7)、総精子数がWHO基準(3,900万)を下回る割合が約4倍(AOR 4.3; 95% CI 1.7-11.3)、それぞれ多いことがわかりました。
コメント
精子を卵子に直接注入する顕微授精(ICSI)が開発され、重度の男性不妊でも妊娠、出産を目指すことが可能になりました。ただし、ICSIで男児が生まれた場合、父親の男性不妊の原因が遺伝し、その子どもが成人後、男性不妊が発症するのでないかとの懸念がありました。造精機能を司る遺伝子はY染色体にあり、父親のY染色体は、男児にだけ、そのまま遺伝されるからです。
ただし、ICSIによる世界で初めての赤ちゃんが生まれたのが1992年1月14日なので、ICSIで生まれた男児が成人するまで、そのことを確かめることはできませんでした。
今回の研究はそのことを確かめた最初の報告です。
顕微授精を世界で初めて成功させたベルギーの大学病院では顕微授精で生まれた子供の心身の健康状態についての追跡調査が続けられており、その一環として、1993-1996年に生まれた男性(18-22歳)を対象にとした研究結果が、先週、世界で初めて発表されたというわけです。
その結果は、顕微授精で生まれた男性は自然妊娠で生まれた男性に比べて総精子数や精子濃度、運動精子数が少なかったというものでした。
ただし、研究に参加した男性が少なかったこと、そして、父親の男性不妊原因が遺伝したことを、直接、確かめたわけではないこと、父親と男性の精液検査結果に有意な関連がみられなかったことなどから、なんら確定的なことは言えません。
今後の研究を関心をもってフォローしていきたいと思います。