カゴメ総合研究所や自治医科大学、国際医療福祉大学の研究グループは、男性不妊患者(精子濃度<2000万/mL、精子運動率<50%)、44名をランダムにトマトジュース群(17名)と抗酸化群(15名)、対照群(12名)に分け、トマトジュース群にはリコピン30mg含有のトマトジュース(カゴメの夏しぼり)を、抗酸化群には抗酸化剤(ビタミンC 600mg、ビタミンE 200mg、グルタチオン 300mg) を、それぞれ、12週間飲んでもらい、試験開始時、6週間経過時点、試験終了時に精しょう中のリコピン濃度測定と精液検査を実施しました。
その結果、トマトジュース群、抗酸化群ともに対照群に比べて精液所見に有意な差は見られませんでした。
ただし、試験開始時から6週間後、12週間後の差をみてみると、トマトジュース群では開始時と12週間後の精しょう中の白血球数の減少数は対照群に比べて有意差があり、精子運動率の開始時から6週間後の上昇は対照群に比べて有意差がありました。
これらの結果から、男性不妊患者ではリコピンを高濃度に含有するトマトジュースを習慣的に飲むことで精子運動率によい影響があるかもしれないことがわかりました。
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特別な原因がないにもかかわらず、精子濃度や精子運動率が基準を下回るような特発性の乏精子症や精子無力症の多くに、酸化ストレスが関与しているのではないかと考えられており、そのため、最近では男性不妊外来でもコエンザイムQ10やカルニチンのような抗酸化作用のあるサプリメントが使われることが多くなっています。
リコピンはカロテノイドの一種で脂溶性の抗酸化物質で、トマトやスイカに多く含まれています。これまでに30名の男性不妊患者を対象に、1日に4mgのリコピンのサプリメントを3ヶ月摂取することで、精子濃度や運動率の改善がみられたという試験的な研究報告があります。
今回はカゴメの夏しぼりというリコピンを高濃度(30mg)に含むトマトジュースの男性不妊患者の精液所見への有効性を確かめる試験が実施されました。
その結果は明らかな改善はみられませんでしたが、試験開始時に29.5±2.94%だった精子運動率が6週間の飲用後に35.4±3.69に上昇し、飲まなかった群の31.2±3.33から27.7±4.66%に比べると、有意な差が認められました。
ただし、トマトジュース群の12週間後の運動率は31.2±3.47%に低下しています。そもそも、精液所見は検査毎によくなったり、悪くなったりといったバラツキが発生するのが普通なので、今回の少人数の試験結果からはトマトジュースが有効かどうかについての結論を導くことはできません。
もう1つ、注意が必要なのは今回使用したトマトジュースは特別にリコピンが30mgと高濃度に含まれているものであったということで、市販のトマトジュースの10倍程度なので、どんなトマトジュースでも今回のような結果が期待できるとは限らないということです。
野菜や果物にはさまざまな抗酸化物質が含まれているので、いろいろな種類の新鮮な野菜や果物を食べるように心がけることが大切です。