ビタミンDの摂取量や血中濃度と妊娠しやすさの関係:ISIS Study

妊孕性に影響する因子

2017年06月20日

Fertility and Sterility

食事やサプリメントからのビタミンD摂取量が推定平均必要量(EAR)※を下回り、血中のビタミンDの指標である25(OH)D濃度が不足、或いは、欠乏とされるレベルにある女性は、妊娠しにくくなるおそれがあり、適切なレベルまでビタミンD摂取量を増やすことは有益である可能性のあることが、アメリカで実施された試験で明らかになりました。

ダートマスヒッチコック医療センターの研究者らは、ビタミンD摂取量や血中25(OH)D濃度と一定期間内に妊娠や出産に至る割合との関係を評価することを目的に前向き研究を実施しました。

ライフスタイルの妊娠する力への影響を調査するコホート研究(ISIS Study)に参加している、健康、かつ、不妊症でなく、初めての子どもを望む、18-39歳の女性とその男性パートナーを対象に、試験開始時、及び、もしも、妊娠に至っていなければ、3ヶ月後、半年後に、電話による24時間食事思い出し法を実施、調査員から前日、もしくは、24時間分の食物摂取状況の聞き取りを行い、食品成分表を使って、栄養素素摂取量を食事からの摂取量とサプリメントによる摂取量、そして、トータルの摂取量の3つのカテゴリーで算出しました。また、試験開始時に採血し、ビタミンDの指標である血中の25(OH)Dを測定しました。

妊娠の成立については、試験開始後の6周期まで追跡し、6周期で妊娠に至らなかったカップルについては12ヶ月後に妊娠したかどうかを確認しました。

得られたデータからビタミンDの摂取量がEARとされているレベル(10μg/日)に達しているグループと達していないグループ、また、血中の25(OH)D濃度が不足、或いは、欠乏レベル(<50nmol/L)のグループと充足とされる濃度(≥50nmol/L)の試験期間内に妊娠、出産に至った割合を比較しました。

その結果、132名の女性の食事からの1日のビタミンDの平均摂取量がEARに達していない女性は37.1%、平均の血中25(OH)D濃度が充足濃度とされているレベル(50nmol/L)に達していないのは女性は13.9%いました。

そして、試験期間内に80例が妊娠、69例が出産に至りましたが、ビタミンD摂取量がEARに達している女性のほうが達していない女性に比べて高い割合(67.5% vs. 49.0%)で妊娠至っており、血中25(OH)D濃度でも至適濃度とされているレベルに達している女性のほうが達していない女性の比べて高い割合(64.3% vs. 38.9%)で妊娠に至ったことがわかりました。

また、出産に至った割合においても、ビタミンD摂取量がEARに達している女性のほうが高く(59.0% vs. 40.0%)、年齢や人種、BMI、アルコール摂取量、喫煙などのリスク因子を補正した(影響を排除した)後もビタミンD摂取量がEARに達している女性、血中25(OH)D濃度が充足濃度とされるレベル以上の女性のほうが、それぞれ、有意に高いことがわかりました。ただし、さらに、栄養素や食生活トータル質を補正した後は有意差は認められなくなりました。

これらの結果からビタミン摂取量や血中25(OH)D濃度は必要と考えられているレベルを維持することが妊娠、出産には有利に働くかもしれないと結論づけています。

※推定平均必要量とは?
半数の人が必要とされる量を満たすと推定される摂取量のこと(厚労省・食事摂取基準より)

コメント

ビタミンDは脂溶性ビタミンの一つで、食事からも摂取していますが、ビタミンでは珍しく紫外線を浴びることで体内でもつくられています。近年、ビタミンDが生殖機能に深く関わっていることを示唆する研究報告が相次いでおり、ビタミンD濃度が体外受精の治療成績と関連したり、免疫機能を調節することから着床障害や不育症のリスク因子ではないかと考えられるようになっています。

そんな中で、今回は、カップルの食事やサプリメントからのビタミンD摂取量と血中のビタミンDの過不足をあらわす指標とされている25(OH)D濃度、いずれも測定し、それらのレベルが妊娠や出産にどのように関連するのかを調べた大変興味深い研究です。

まずは、男女とも、ほとんどが食事からのビタミンDの摂取量だけではEARに達していないこと、サプリメントによる補充量も加えても約半数は達していず、概ね、不足しがちであることがわかります。

因みにビタミンDの指標とされる25(OH)D濃度の公式な基準値は決められていませんが、それぞれの学会で目安を設定します。
米国医学研究所(IOM)の目安は以下の通りです。
欠乏 30nmol/L未満
不足 30-50nmol/L
充足 50nmol/L以上

日本では単位は「ng/mL」が使われることが多く、それに換算すると以下の通りになります。
欠乏 12ng/mL未満
不足 12-20ng/mL
充足 20ng/mL以上

因みに日本内分泌学会の目安は以下の通りです。
欠乏 20ng/mL未満
不足 20-30ng/mL
充足 30ng/mL以上

このようにアメリカよりも日本のほうが厳しめです。

また、年齢や人種、BMI、アルコール摂取量、喫煙など、妊娠する力に影響を及ぼすと考えられている因子の影響を統計学的に排除した後も結果は変わりませんでしたが、さらに、ビタミンD以外の栄養素の摂取や食生活の質の影響を排除すれば有意差が認められなくなったことは、ビタミンD含めた栄養摂取全体が妊娠する力に影響を及ぼしているということなのかもしれません。

さらに、今回は女性だけでなく、その男性パートナーのビタミンDも測定していますが、それをみると、女性が不足していると男性パートナーも不足している確率が高く、カップルで関連していることがわかりました。このことはビタミンD濃度に影響する食生活や生活習慣がカップルで連動していることをあらわしています。大変、興味深いのは、パートナーの男性のビタミンD摂取量や血中25(OH)Dも、女性の妊娠する力に影響していることもわかりました。要するに、ビタミンDは精子の質を介して、女性の妊娠する力に影響を及ぼしている可能性があるということになります。

いずれにしても、今回の研究からカップルがビタミンDの濃度を適正化することで早く妊娠に至る傾向があることがわかりました。

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