アメリカ国立小児保健・人間発達研究所(NICHD)の研究者らは、妊娠前の食事やサプリメントからのビタミンD摂取量と妊娠糖尿病の発症リスクの関連を調べることを目的に、ハーバード大学による大規模コホート研究、The Nurses' Health Study Ⅱ(看護師健康調査Ⅱ)に登録した女性看護師を対象にした前向き研究を実施しました。
NHSⅡに参加した116,430名の女性看護師(24-44歳)に1991年から4年ごとに食物摂取頻度調査票に回答してもらい、食事やサプリメントからの栄養素の摂取状況を調べました。
1991年から2001年の間に21,356名の単胎児を妊娠(6ヶ月以上)した15,225名の女性を対象に妊娠前のビタミンDの摂取量と妊娠糖尿病の発症リスクとの感関連を解析しました。
865症例が妊娠糖尿病と診断されました。
妊娠糖尿病発症に関連する因子を調整した後、妊娠前にビタミンDのサプリメントを摂取していなかった女性に比べて、400IU未満摂取していた女性は20%、400IU以上摂取していた女性は29%、それぞれ、妊娠糖尿病の発症リスクが低いことがわかりました。
その一方で、食事からのビタミンD摂取量や食事とサプリメントを合わせたビタミンDの摂取量とは有意な関連性はみられませんでした。
このことから妊娠前のビタミンDのサプリメント摂取は妊娠後の妊娠糖尿病の発症リスクの低減と有意に関連することが明らかになりました。
コメント
ビタミンDは脂溶性ビタミンの一つで、キノコ類などの植物由来のビタミンD2(エルゴカルシフェロール)と魚介類や卵などの動物由来のビタミンD3(コレカルシフェロール)があります。主にカルシウムとリンの吸収を促進し、骨をつくり、丈夫にすることが知られていますが、近年、細胞の増殖(細胞が増えること)や分化(新たな役割をもつこと)にも深く関わっていることがわかってきたことから、妊娠や出産時のビタミンDの働きについても注目されるようになってきました。
ビタミンDは、その名の通りビタミンとされてはいますが、ビタミンDは日光を浴びることで体内で合成されています。そのため、供給源は「食品摂取」と「体内合成」の2通りあり、食品からの摂取は20%未満とされています。そのため、紫外線にあたらないように対策を講じる女性でビタミンD不足が一般的になっていることが知られています。
ビタミンDはインスリンの分泌やインスリン感受性の調節に重要な役割を担っていることから、今回の研究が行われました。
妊娠糖尿病の患者数は世界的に増加しており、日本でも例外ではありません。妊娠糖尿病は妊娠するまでは健康であった女性が妊娠後に初めて糖の代謝異常が発見される病気です。
妊娠糖尿病学会によりますと、従来の診断基準では、日本での妊娠糖尿病の頻度は2.92%でしたが、2010年7月に大規模な診断基準の変更があったため、妊娠糖尿病の頻度は12.08%と4.1倍に増えたとのこと。妊娠糖尿病のリスク要因の1つに年齢があり、35歳以上になると発症リスクが高くなるとされていますので、現在の晩産化時代には妊娠糖尿病の予防がとても大切になってきています。
そのため、ビタミンDが不足、あるいは、欠乏の女性は妊娠前からサプリメントで補充することがよいかもしれません。