ハーバード公衆衛生大学院の研究チームは、残留農薬の多い野菜や果物の摂取量と体外受精の治療成績との関連を調べるために、EARTH研究(マサチューセッツ総合病院で不妊治療を受けているカップルを対象に治療成績に影響する要因について調べている現在進行中の研究)に参加している325名の女性を対象にした観察研究を実施しました。
食物摂取頻度調査票を使い、過去1年間の食物の摂取頻度と1回のおよその摂取量を調べました。そして、米国農務省の農薬データプログラムをもとに果物と野菜の残留農薬レベルをスコア(0-6)化し、残留農薬高レベル(スコア4以上)と低〜中レベル(スコア3以下)に分類し、それぞれの摂取量で4つのグループにわけ、その後の541治療周期の治療成績との関連を解析しました。
その結果、残留農薬高レベルの野菜や果物の⒈日の平均摂取量は1.7皿、低レベルの野菜や果物は2.8皿でした。そして、残留農薬高レベルの野菜や果物を多く食べている女性ほど妊娠率や出産率が低く、最も多く食べている女性(1日2.3皿以上)は、最も少ない女性(1日1皿未満)に比べて、妊娠率が18%、出産率が26%低いことがわかりました。残留農薬低レベルの野菜や果物を多く食べる女性ほど治療成績が良好でしたが、有意差のある関連ではありませんでした。
次に、流産のリスクとの関連を調べたところ、残留農薬高レベルの野菜や果物の摂取量が多いほど流産率が有意に高く、残留農薬高レベルの野菜や果物の摂取量が少ない女性から順番に、7%、23%、24%、そして、34%でした。
これらの結果から、残留農薬の多い野菜や果物の摂取量は低い妊娠率や出産率に有意に関連することがわかりました。
コメント
今回のハーバード大学のチームによる研究は、残留農薬の摂取量と高度生殖補助医療の妊娠率や出産率の関連を調べた世界で初めての研究とのことです。
これまでは、動物実験で農薬が生殖能力を低下させることが確かめられていたり、ヒトを対象とした研究では殺虫剤や除草剤の暴露(さらされること)が死産や流産のリスクが高くなることが確かめられていました。ただし、それらの研究は農業に携わる女性や農地の近くに住む女性を対象にしたものでした。
それに対して、今回の研究はマサチューセッツ総合病院で体外受精を受けた女性の日常の食事から摂取する残留農薬の量と治療成績との関連を調べたものです。
残留農薬の状況はアメリカや日本では異なることから、この研究の結果をそのままあてはめるわけにはいきませんが、可能な範囲で野菜や果物の選択や洗浄を心がけたほうがいいのかもしれません。