ハロコピオ大学の研究チームは、食事パターンの妊娠しやすさへの影響を調べるために、2013年11月から2016年9月にアテネの不妊クリニックで検査を受け、最初の体外受精に望む非肥満(BMIが30未満)で、41歳以下の女性患者244名を対象に前向き研究を実施しました。
治療開始前に食物摂取頻度質問票を用いて過去半年間の習慣的な食品の摂取頻度と量について回答してもらい、地中海食スコア(0〜55)を算出して、スコアが低いグループ(30以下、79名)、中のグループ(31-35、79名)、高いグループ(36以上、86名)の3つのグループに分け、その後の治療成績との関連を解析しました。尚、地中海食スコアが高いほど地中海食に近い食事パターンであることをあらわしています。
その結果、地中海食スコアと採卵数や受精率、胚質とは関連しませんでした。ところが、地中海食スコアが低いグループの女性は高いグループの女性と比べると妊娠率(29.1% vs 50.0%,P=0.01)、出産率(26.6% vs 48.8%,P=0.01)ともに有意に低いことがわかりました。
また、妊娠率や出産率に影響を及ぼす因子を補正した後でも、スコアの低いグループの女性は高いグループに比べて妊娠率が65%(RR 0.35 95%CI0.16-0.78;P=0.01)、出産率が68%(0.32 95%CI 0.14-0.71;P=0.01)、それぞれ低いことがわかりました。
さらに、女性患者を35歳未満と35歳以上の年齢別にわけてみると、35歳未満では地中海食スコアと妊娠率や出産率は有意に関連しましたが、35歳以上では有意な関連はみられなくなりました。そして、35歳未満の女性患者では地中海食スコアが5ポイント増えるごとに妊娠や出産に至る確率は最高で2.7倍に増加しました。
これらの結果から、非肥満の35歳未満の女性では地中海食スコアが良好な妊娠率や出産率に有意に関連し、体外受精に望む女性は食事パターンを地中海食に近づけることで治療成績によい影響を及ぼす可能性があることがわかりました。
コメント
地中海料理の特徴は以下の通りです。
・野菜、果物の摂取量が多い。
・全粒粉を使っている。
・脂質はオリーブオイルが中心。
・ナッツ類、ベリー類、豆類、イモ類の摂取量が多い。
・魚、鶏、乳製品を少量から中量、赤身肉の摂取は少ない。
・卵は週4回以下。
・少量から中量のワインを食事と一緒に飲む。
食習慣がどのくらい地中海食に近いかを数値化したものが「地中海食スコア」です。スコアが大きいほど地中海食に近いことを意味します。算出方法は、地中海食に関連する11種類の食品の摂取量や摂取頻度を6段階(0-5)で点数化し、それを合計(0-55)します。11種類の食品は以下の通りです。
・多く食べるほどスコアが高くなる食品:無精製穀物(全粒穀物、全粒粉パン、全粒粉パスタ、玄米他)、じゃがいも、果物、野菜、豆類、魚、オリーブオイル
・多く食べるほどスコアが低くなる食品:赤身肉や鶏肉、全脂肪乳製品(チーズ、ヨーグルト、牛乳)、アルコール
要するに、地中海食とは、精製度の低い穀物を主食にして、野菜や果物、豆類、魚を多く、オリーブオイルを使い、肉類が少ないという食べ方ということになります。
今回の研究では地中海食スコアが治療成績に関連したのは35歳未満の女性患者だけで、35歳以上になると有意差はなくなっています。このことから、地中海食の治療成績へのプラスの影響は年齢の影響に勝てなかったということが言えるのかもしれません。
また、筆者らは、地中海食スコアが関連したのは妊娠率や出産率で、採卵数や受精率、胚の質とは関連しなかったことから、地中海食が治療成績のよい影響を及ぼすのは、子宮内膜の着床環境に対してではないかと推測しています。そして、それは、地中海食の抗酸化作用によるものかもしれないとコメントしています。
これまでの研究は地中海食は妊娠後の母子の健康にもよい影響を及ぼす可能性があると報告しています。