北京大学第三病院生殖医療センターの研究者らは、ART治療前のCoQ10の補充が、35歳未満の若年で卵巣機能が低下した女性の卵巣の反応性や胚質への有効性を調査すべく、無作為比較対照試験を実施しました。
35歳未満で、AMH(抗ミュラー管ホルモン)が1.2ng/ml未満、かつ、AFC(胞状卵胞数)が5個未満の卵巣機能が低下した女性186名を、CoQ10をART治療前の60日間(1日に600mg)飲むグループ(CoQ10群、93名)と飲まないでART治療を開始するグループ(対照群、93名)にわけ、GnRHアンタゴニスト法による卵巣刺激後、体外受精(男性不妊の場合は顕微授精)が行われ、卵巣刺激に対する反応性や培養成績、治療成績を比較しました。
CoQ10群のうち17名は途中でCoQ10を飲むのをやめたため、最終的にはCoQ10群が76名、対照群が93名となりました。
その結果、CoQ10群は対照群に比べて卵巣刺激に要した排卵誘発剤(ゴナドトロピン)の量が有意に少なく、ピークのE2値は有意に高く、採卵数や正常受精卵、受精率、良好胚数が有意に多かった(高かった)ことがわかりました。
また、CoQ10群は対照群に比べて移植にふさわしい胚が得られないため胚移植がキャンセルになった患者数は有意に少なく、新鮮胚移植時に余剰になった凍結胚の数は有意に多かったことも明らかになりました。
一方、胚移植あたり及び治療周期あたりの妊娠率や出産率もCoQ10群のほうが高かったものの有意差には至りませんでした。
これらの結果からART治療前の60日間のCoQ10補充は35歳未満の卵巣機能低下女性の卵巣の反応性や胚の質を改善することがわかりましたが、治療成績への有効性はより被験者数の多い比較対照試験を行う必要があると結論づけています。
コメント
CoQ10は脂溶性のビタミン様物質(ビタミンのような働きをしながらも体内でつくられている物質)で、細胞質内のミトコンドリアでエネルギーをつくる最終段階(電子伝達系)で電子の受け渡しに関わり、強い抗酸化作用を有しています。
ミトコンドリアで働く栄養素(補酵素)の代表的な物質で、ミトコンドリアの機能であるエネルギーをつくるのに不可欠で、かつ、細胞を傷つけ、発生源で活性酸素を消去する働きも担っているとても重要な役割を担っています。
一方、女性の35歳以降の妊娠率の急落は、加齢による卵質の低下が原因であると考えられており、実際、染色体異常率の上昇、染色体不分離、ミトコンドリア機能の低下、活性酸素防御機能の低下などが起こると報告されています。
染色体数の異常はどうしようもありませんが、ミトコンドリアでの活性酸素の消去能を高めることで、卵巣機能や卵質の低下を食い止めることができればということで、コエンザイムQ10やL-カルニチン、α-リポ酸などのビタミン様物質、また、レスベラトロールなどのポリフェノールの補充が有効ではないかと考えられています。
今回の北京大学のグループは、35歳未満の卵巣機能低下女性に限って、治療前のCoQ10補充の有効性を検証すべくRCTを実施し、卵巣の反応性や胚の質が改善されることを確かめました。
ただし、妊娠率や出産率もCoQ10を飲んだグループのほうが良好ではありましたが、統計学的な有意差は認められていません。
出産率の向上が最重要ではありますが、ART治療では多くの卵子が採れ、良好な胚を移植するというステップをへることが大切であることを考えるとCoQ10のサプリメント利用は意味のあることかもしれません。