ロンドン大学やマックス・プランク人口研究所、ヘルシンキ大学の研究者らは、フィンランドで1995年から2000年に生まれた子どもの20%にあたる65,723名を対象に排卵誘発や人工授精、体外受精、顕微授精で生まれた子どもと自然妊娠で生まれた子どもの低出生体重児や早産のリスクを2つの方法で比較しました。
まずは、全体の生殖補助医療による出生児(2,776名)と自然妊娠による出生児(62,947名)を比較したところ、生殖補助医療出生児のほうが自然妊娠出生児に比べて出生時体重が60g軽く、早産のリスクも2.15ポイント高いことがわかりました。
ところが、生殖補助医療出生児のうち1,245名は家庭内に同じ両親から自然妊娠で生まれた兄弟がおり、彼らと出産時リスクを比較したところ、リスクの差が低くなり、出生時体重の差は31g、早産リスクの差は1.56ポイントと有意差がなくなりました。
このことから、生殖補助医療で生まれた子どもの低出生体重児や早産リスクの上昇は、生殖補助医療を受けたこと、そのものによるものではなく、それ以外、たとえば、両親の遺伝的、環境的要因によるものである可能性が高いことがわかりました。
コメント
体外受精をはじめとした不妊治療が普及し、不妊治療を受けて子どもを妊娠、出産することは珍しいことではなくなりました。
それは、生殖補助医療が安全で有効な医療であり、そして、多くのカップルに必要とされていることを物語っています。
ただし、安全性については、不妊治療を受けること、特に、体外受精や顕微授精などの高度生殖補助医療の出生児の長期に渡る心身の健康に対する影響については完全に把握されているわけではありません。
なぜなら、それを確かめるには、ある程度の期間が必要になるからです。
そのため、これまでも、そして、これからも、生殖補助医療の出生児の健康に対する影響について、多くの研究結果が発表されるはずですので、それらを確認していくことが大切です。
今回の研究はそういう意味でとても貴重な報告で、生殖補助医療出生児の低体重出生児や早産のリスク上昇は、治療そのものの影響ではない可能性が高いというものです。
低出生体重児とは、出生時体重が2,500g未満で生まれた赤ちゃんのことで、早産は37週未満で生まれてくることで、どちらも、出生児の短期的、長期的健康に対していろいろなリスクが高まります。
これまで、生殖補助医療出生児は自然妊娠出生児に比べて低出生体重児や早産のリスクが高いことが知られていました。ところが、その原因が、果たして、不妊治療を受けたことによるものなのか、正確に調べることはとても困難でした。なぜなら、それらのリスク要因は、母親の年齢やBMI、栄養状態、妊娠前の生活習慣、遺伝的、環境的な要因、また、多胎かどうかなど、多数存在するからです。
そのため、他の要因について、同じ条件にし、生殖補助医療出生児と自然妊娠出生児のリスクを比べる必要があります。
今回の研究ではフィンランドの出生登録データベースを利用し、同じ両親、すなわち、兄弟間で生殖補助医療出生児と自然妊娠出生児がいるケースで、リスクを比較しました。
その結果、いずれのリスクについても有意な差はなかったことがわかりました。
不妊治療に臨むカップルにとっては安心できる研究報告です。