秋田大学を中心とする研究チームは、生活環境で体内に取り込まれる重金属と女性の妊孕能との関係を調査すべく症例対照研究を実施しました。
秋田大学病院で不妊治療を受けている不妊女性98名と不妊症でない30歳代の女性43名に血液検査を行い、水銀や鉛、カドミウム、ヒ素、マンガン、亜鉛、セレンの血中濃度を比較し、AMH値と重金属濃度の関係を解析しました。
その結果、血中セレン濃度やセレン/水銀モル比(物質量の比)は、不妊症でない女性(200±25μg/L、118.4±70.5)に比べて不妊症女性(それぞれ、189±25μg/L、94.6±44.3)のほうが有意に低いことがわかりました。
また、水銀濃度に影響を及ぼす因子を取り除くためにデータを補正したところ、血中水銀濃度は不妊症群のほうが有意に高いことがわかりました。
ただし、AMH値と血中重金属濃度は関連しませんでした。
このことから、メチル水銀は女性の妊孕能にマイナスの影響を及ぼすこと、そして、セレンはメチル水銀の影響を軽減する作用があることが示唆されました。
コメント
メチル(有機)水銀は魚を食べることで体内に取り込まれていることが知られていますが、日本人は魚からのメチル水銀の摂取量が他の国に比べて多いことが知られています。
メチル水銀は胎盤を介して胎児に移行し、その量が多くなると発達過程にある胎児の中枢神経系に水銀毒性が影響することになるため、厚労省は妊婦のための「注意が必要な魚の種類と量」を設定しています。
メチル水銀が妊娠する力にもマイナスの影響を及ぼす可能性も指摘されている一方で、セレンにはメチル水銀の毒性を軽減する作用があることが動物や試験管内の実験で検証されています。
そこで秋田大学のグループはそのことを確かめるための研究を実施しました。
メチル水銀は生殖機能にマイナスの影響を及ぼすこと、セレンはその影響を軽減する作用があることが示唆される結果となりました。
メチル水銀は主に魚を食べることで体内に取り込みますが、魚は良質のタンパク源であり、オメガ3脂肪酸の供給源でもあり、魚の摂取量と良好なART治療成績が関連するという研究報告もなされています。
そのため、メチル水銀を避けるために魚を食べないことは、かえって、マイナス面のほうが大きくなり、得策とは言えません。そのため厚労省の目安を参考に、魚を食べ、そして、セレンが不足しないようにバランスよく食べることを心がけることがメチル水銀のリスクを回避する最も有効な方法になると思われます。