男性因子ではない顕微授精、475周期を男性パートナーの精子DNA断片化率(SDF)が30%以上(n=433)か、30%未満(n=42)かで2つのグループに分け、調整後の培養成績や治療成績を比較しました。
その結果、受精率には差はありませんでしたが、胚の正常分割速度や3日目良好胚、胚盤胞率、良好胚盤胞率、着床率はSDFが30%未満のグループの方が有意に低く、妊娠率に差は見られませんでしたが流産率はSDFが30%以上のグループの方が有意に高いことがわかりました。
このことから、精液所見が正常であっても、精子DNA断片化率が高くなると培養成績や治療成績にマイナスの影響を及ぼすことが示唆されました。
コメント
これまで、男性に対する不妊検査は、唯一、精子検査のみで、100年間、続けられてきました。この検査で測定されるのは、精液量、精子濃度、精子運動率、正常形態精子率で、もちろん、これらの結果は、男性不妊の治療方針を検討する上で重要ですが、この検査のみでは精子の質、そのものは充分に反映できていない可能性が指摘されてきました。その精子の質をダイレクトに測定するのが精子断片化指数(DFI)検査で、酸化ストレスで精子のDNAが損傷を受けた精子の割合を測定する検査です。
今回の研究は、通常の精液検査で異常がない男性でも、すなわち、精子の数や運動率が基準を満たしていても、精子のDFIが高い場合、すなわち、精子が損傷を受け、精子の質が低下している場合には、胚の成育不良や着床率が低くなったり、流産率が高くなったりすることが明らかにされました。
精子のDNAに損傷があっても、卵子に修復機能が備わっているのですが、女性が高齢になると修復機能が低下することも知られています。
精子のDNA損傷の主な原因は酸化ストレスで、禁煙や節酒はもちろんのこと、禁欲期間を短くしたり、股間に熱がこもらないようなライフスタイルを心掛けたり、抗酸化サプリメントで改善が期待できます。
精子DNA断片化検査は一般的な検査ではありませんので、女性パートナーの年齢が高い場合は、精液検査の結果に問題がなくても、男性が酸化ストレス対策を講じることで治療成績が改善される可能性があります。