アメリカ国立小児保健発達研究所の研究チームは、妊娠前の食事やサプリメントからの栄養摂取と自閉症スペクトラム症(ASD)やADHD、知的能力障害などの神経発達障害の発症リスクとの関連を検討すべく、システマティックレビューとメタ解析を実施しました。
ASDとの関連についての20研究、ADHDとの関連についての17の研究を抽出し、レビューした結果、妊娠前の母親の葉酸やマルチビタミンのサプリメント摂取とASD発症リスクの低減との相関関係が見出されました。
また、ASDとの関連についての6つの前向きコホート研究を対象にメタ解析した結果、妊娠前、妊娠中の母親の葉酸やマルチビタミンのサプリメント摂取は自閉症の発症リスクの64%の低下に関連することがわかりました(RR=0.64, 95%CI:0.46, 0.90)。
一方、ADHDの発症リスク、また、葉酸以外の神経発達障害の発症リスクはとの関連については、結論を導くことは出来ませんでした。
コメント
妊娠前の葉酸のサプリメント摂取は、子どもの二分脊椎症や無脳症などの神経管閉鎖障害の発症リスクに有効であることはよく知られていますが、これまでの研究を統合し、解析した結果、自閉症スペクトラム症の発症リスクの低減にも有効である可能性が見出されました。
葉酸はビタミンB群の一つで、DNAの合成や修復に必要とされることから、細胞の正常な分裂、増殖に深く関与している栄養素です。
また、遺伝子の発現を調節するDNAのメチル化に使われるメチル基を提供に関わったり、不育症や早産、低出生体重児のリスクを上昇させるホモシステインの代謝(変換)にも関わっていることが知られています。
つまり、妊娠の成立や継続、そして、健康な子どもの出産にはなくてはならないビタミンなのです。
非妊娠時に最も活発に細胞が分裂し、増殖するのは赤血球で、約20兆個あると言われています。常時、血液をつくり続けなければならないからです。
そのため、葉酸が不足すると赤血球がうまくつくられなくなり、貧血を引き起こします。
一方、受精後は、出産するまで、新しい命の細胞が活発に分裂、増殖し、そこに大量の葉酸が必要とされるようになります。
そこで、体内の葉酸の量が自分で使う分で精一杯であれば、新しい命が必要とする葉酸を供給できません。
これが、葉酸の不足が胚の発育障害や流産、早産、低出生体重児、そして、出生児の先天異常の発症リスクを上昇させることになります。
妊娠、出産時の最重要ビタミンが葉酸であるゆえんです。