慢性疾患予防のために効果的とされる8種類の食事パターンについて、不妊治療成績との関連を調査した研究です。
この研究は、マサチューセッツ総合病院で2007年1月から2019年10月にEARTH研究*1 に登録し、生殖補助医療(ART)及び人工授精を受けた女性患者612名を対象に行われました。
参加者には治療開始前に食事の内容に関するアンケート票を使って食事調査を実施し、その結果から、8種類の食事パターンにそれぞれどれほど当てはまっているかをスコア化することで分析しました。
8つの食事パターンは以下の通りでした。
(1)地中海食(Trichopoulou氏の提唱しているもの)
(2)代替地中海食
(3)地中海食(Panagiotakos氏の提唱しているもの)
(4)健康的食事指数(HEI-2010)
(5)代替健康的食事指数(AHEI-2010)
(6)米国心臓協会(AHA)食事ガイドライン
(7)高血圧予防食(DASH食)
(8)植物ベースの食事
それぞれの食事パターンのスコアによって4つのグループに分け、一番スコアの低いグループを基準とし、ART女性患者450名の768周期、及び人工授精の女性患者302名の804周期の治療成績との比較が行われました。
結果として、すべての食事パターンと妊娠率や生産率との間には明確な関連性は見られませんでしたが、AHA食事ガイドラインのスコアが高いほど、流産率が低くなることが分かりました。
AHA食事パターンのスコアが最も低いグループと高いグループの流産率はそれぞれ0.41と0.28、また臨床流産率*2 は0.30と0.15でした。
流産率に対する影響は、食事ベースの食事を除く、ほかの6つの食事パターンでも同様の傾向があったそうですが、明らかな差ではなかったとのことです。
妊娠前から健康的な食事パターンに近い食生活に注意することで、流産リスク低下によい影響を及ぼす可能性があります。
*1) マサチューセッツ総合病院で不妊治療を受けているカップルを対象に、治療成績に影響する要因について調査が行われている現在進行中の研究
*2) 子宮内に胎嚢が確認された後の流産
コメント
今回の研究で、流産リスクの低下と明らかな関連がみられたのは、狭心症や心筋梗塞などの心血管疾患予防に推奨される、米国心臓協会(AHA)の食事ガイドラインでした。
健康的な食べ方にもいろいろあり、今回、採用された食事パターンとその特徴は以下の通りです。
(+)は積極的に食べることを推奨する食品、(ー)は避けたほうがよい食品、(±)は適切に摂取することが推奨される食品です。
Trichopoulou地中海食
(+)全粒穀物、果物とナッツ、野菜、豆類、魚
(ー)赤身肉や精製肉、内臓肉、 乳製品、脂肪、アルコール
代替地中海食
(+)全粒穀物、果物、野菜、豆類、魚
(ー)赤身肉や精製肉、脂肪
(±)アルコール
Panagiotakos地中海食
(+)全粒穀物、じゃがいも、果物、野菜、豆類、魚、オリーブオイル
(ー)赤身肉や精製肉、鳥肉、全脂肪乳製品
(±)アルコール
健康的食事指数
(+)果物、果物ジュース、野菜、豆類、全粒穀物、乳製品、タンパク質(赤身肉、精製肉、魚介類、大豆食品)、不飽和脂肪酸
(ー)精製穀物、塩分、砂糖、飽和脂肪酸
代替健康的食事指数
(+)果物、野菜、ナッツや豆類、全粒穀物、オメガ3脂肪酸(EPA+DHA)、不飽和脂肪酸
(ー)砂糖入清涼飲料水、赤身肉や精製肉、精製穀物、塩、砂糖、飽和脂肪酸、アルコール、塩分
米国心臓協会(AHA)指数
(+)果物や野菜、全粒穀物、魚介類、ナッツや豆類
(ー)砂糖入清涼飲料水、塩分、精製肉、飽和脂肪酸
高血圧予防食(DASH食)指数
(+)果物、野菜、ナッツや豆類、全粒穀物、低脂肪乳製品
(ー)赤身肉や精製肉、砂糖入清涼飲料水、塩分
植物ベース食
(+) 野菜、果物・果物ジュース、豆類、全粒穀物、じゃがいも、ナッツ類、オリーブオイル
(ー)肉や加工肉製品、飽和脂肪酸、卵、魚介類、乳製品
概ね、似ていることがおわかりいただけると思いますが、その中でも少しずつ異なります。
EARTH研究の被験者は主に白人女性であり、食事には文化や体格が大きく影響することから、この食べ方が日本人女性にもよいかどうかは、正確なことは言えませんが、この食事パターンを参考に、食事全体を考えるのがよいかもしれません。