近年、女性の腟や子宮内の細菌環境と妊娠のしやすさの関連について、関心が高まっています。
細菌性腟炎やカンジダ症などの症状を引き起こす病原性微生物の増加は、腟内環境のバランスを崩し、乳酸菌を激減させ、正常な酸性状態を保てない状態になることがわかっています。
腟内の細菌叢(フローラ)が不良と診断された不妊女性の多くは抗生物質による治療を受けることがありますが、抗生物質は長期に実施すると腟内環境を悪化させ、回復を困難とさせてしまうほか、再発も多く、抗生物質に耐性がついてしまう問題も起こっています。
プロバイオティクスは、「適正な量を摂取することにより宿主に有用な作用を発揮する生きた微生物」とされており、不妊女性に対するその有効性を調査すべく、中国の研究者たちによって研究が行われました。
研究の対象となったのは、2019年1月1日から2020年6月1日まで、不妊治療クリニックで腟内細菌叢が不良と診断された不妊症女性患者100名でした。
研究では参加者をランダムにプロバイオティクス群(50名)と対照群(50名)に分けました。そして全参加者に対し抗菌薬(メトロニダゾール・400mg×2/日)を7日間投与、プロバイオティクス群にはその後プロバイオティクス腟剤を10日間投与しました。そして投与前後で腟内の状態や不妊治療成績を比較しました。
・pH
腟内の酸性度/アルカリ度をはかるpHは、試験前はすべての参加者で4.5を超えていましたが、試験後はプロバイオティクス群の82%、対照群の56%の参加者が4.5未満(酸性に傾いた)となり、プロバイオティクスを投与したグループの方が明らかに大きな変化が見られました。
・腟内細菌数
試験前は、腟内細菌数が正常とされた患者は0名でしたが、治療後、プロバイオティクス群の92%、対照群の68%が正常となり、プロバイオティクス群ののほうが有意に高い結果となりました。
・乳酸菌数、H2O2*濃度
治療後のプロバイオティクス群の正常な乳酸菌の数とH2O2濃度はそれぞれ80%と84%であったのに対して、対照群ではそれぞれ18%と62%となり、プロバイオティクス群であきらかに高いことがわかりました。
・治癒率、妊娠率
試験前にすべの参加者で不良とされた腟内細菌叢は、試験後、プロバイオティクス群の96%、対照群の82%で治癒されました。また妊娠率も、プロバイオティクス群は26%、対照群は14%で、プロバイオティクスを摂取したグループの方が高くなりました。
抗菌薬をつかった治療後のプロバイオティクス腟剤の投与は、腟内のpHを下げ、腟内細菌叢のアンバランスを改善し、それによって妊娠率を高めることが示されました。
*H2O2(過酸化水素)は、乳酸菌によって産生されるもので、腟を酸性に保ち、健康な腟内細菌叢の維持を助けるとされています。
コメント
不妊治療において、女性器の細菌環境の不良を指摘された場合、抗菌薬による治療が行われることが多くありますが、この研究では、その後にプロバイオティクスを使用することで、抗菌薬のみの治療よりも明らかな改善が見られ、妊娠率についても高くなったという結果でした。
近年、女性器の細菌環境が妊娠や出産に深くかかわっていることがわかってきています。
この研究で用いられたのはプロバイオティクスの腟剤を使用する方法ですが、生殖器の細菌環境は腸内の細菌環境と密接に関係しています。
お子さんを望む方は、腸内の環境を整えることを意識すると良いかもしれません。