精子の質と受精卵の染色体異常の関係

男性の妊娠させる力に影響を及ぼすもの

2024年10月04日

Reprod Biomed Online 2023; 47: 103366

精子の質が、胚の染色体異常(染色体異数性)の増加リスクに影響する可能性が報告されています。

胚の異数性とは、胚に含まれる染色体の数が正常と異なる状態を指し、流産や先天性異常のリスク上昇と関連することがわかっています。

今回の研究は着床前遺伝学的検査(PGT)を受けた患者の胚について、精子の質が胚の異数性と関連しているかどうかを調べたものです。

中国の研究グループは、2017年3月から2021年3月までに中国の不妊治療クリニックで顕微授精とPGTを受けた426組のカップルを対象に、精子の質とPGTの結果、またその他の治療成績について調査を行いました。

精子の質を評価する指標としてはDFI*が用いられ、参加者はその値によってDFIが30%以下の低DFIグループと、DFIが30%を超える高DFIグループに分けられました。なお、低DFIグループの平均DFIは15.54%、高DFIグループの平均DFIは40.74%でした。

DFI以外のさまざまな因子による影響をできる限り排除して分析を行った結果、高DFIグループは低DFIグループに比べて受精卵の異数性率が有意に高いことが分かりました。

またこの研究において2グループ間の受精率、卵割率、3日目良胚率、胚盤胞率、生化学的妊娠率、臨床的妊娠率、流産率、生児出生率、帝王切開率、早産率、単胎率、低出生体重児率に差はありませんでした。

*精子DNA断片化率:精液中にDNAの損傷した精子が含まれる割合

コメント

精子DNA断片化率(DFI)は精液中に存在するDNAの損傷した精子の割合で、精子の質をはかる指標となり、DFIが高いほど精子の質が低下していると言えます。

今回の研究ではDFIが高くなるほど、胚の染色体異常が増加するという結果でした。

ただし、卵子が女性の年齢とともに老化していく一方で、精子は毎日つくられ続けるため、改善していくことができます。精子の質の改善のために男性が取り組める方法をいくつかご紹介します。

・禁欲期間を短くする
 禁欲期間が長くなると、質の低下した精子が増えることがわかっています。

・バランスの良い食生活を心がける
 肉食に偏りがちな方は、野菜や果物、魚も意識して摂るようにし、炭水化物は玄米ごやんやライ麦パンなどの、精製度の低いものに替えてみましょう。

・十分な睡眠と適度な運動を
 適度な運動は体の抗酸化力を高め、ホルモンバランスにもよい影響を及ぼします。ただし、過度な運動はかえって精子の質の低下につながるので注意が必要です。

・適正体重を維持しましょう
 やせすぎ、太りすぎ、どちらもパートナーの妊娠率の低下につながることがわかっています。

・タバコやアルコールはほどほどに
 精子の質を下げる原因となる酸化ストレスを増やしてしまうほか、アルコールは男性にとって大切なミネラルである亜鉛の吸収を妨げてしまいます。

・育毛剤はひかえましょう
 フィナステリドを主成分とするAGA治療薬には、男性ホルモンの作用を抑えるはたらきがあるため、精子の質の低下につながります。

・高温に注意
 精子をつくる精巣は熱に弱い性質があります。長時間のサウナや入浴、ぴっちりとした下着は避けるようにしましょう。