精子の質が体外受精や顕微授精の結果におよぼす影響

男性の妊娠させる力に影響を及ぼすもの

2025年01月22日

Andrology. 2024 Sep 5. doi: 10.1111/andr.13754. Online ahead of print.

体外受精や顕微授精での治療結果と精子の質を比較した研究の結果、顕微授精の患者では精子の質の低下とともに出生率が低下し、この影響は女性の年齢が高くなるほど強くなることが示されました。 体外受精患者においては有意な差ではありませんでしたが、顕微授精患者と同様の相関が見られました。

精子DNA断片化率(DFI)とは、DNAの損傷した精子が精液中に存在する割合を示し、精子の質を表す指標として知られています。
DFIは通常の精液検査では調べることができませんが、この割合が高いと受精卵の発育にマイナスの影響を及ぼすことが分かっています。

今回中国の研究グループが行った研究では、2016年から2022年までに体外受精(IVF)や顕微授精(ICSI)を受けた5050組のカップルを対象として、DFIが最終的に出産に至る割合に与える影響を治療方法ごとに調べました。

被験者は、男性のDFIの数値によって4つのグループに分けられ、その後の累積生児出生率との関連を調べました。
なお、累積生児出生率は「最初の採卵後1年以内に行われたすべての胚移植から生じた、生児出生に至る継続的な妊娠」と定義しされました。

研究の結果、全患者、及びIVF患者については、DFIの値の上昇とともに累積生児出生率が低下する傾向がみられましたが、統計的に意味のある差ではありませんでした。
一方ICSIの患者では、DFI値が高くなるにつれ、累積出生率が低下し、さらにこの傾向は女性の年齢が高くなるほど強くなることがわかりました。

研究では、精子DNAの断片化(損傷)は、顕微授精を含む治療によって1年間に生児を得る確率に影響を及ぼすと結論づけています。

コメント

今回の研究の結果、精子DNAの断片化は不妊治療による出生率に影響する可能性があり、顕微授精ではその影響が顕著であったということです。

卵子は女性の年齢とともに老化していく一方で、精子は毎日つくられ続けるため、改善していくことができます。

その中でも、禁欲期間を短くすることは、コストもかからず取り組みやすく、有効な方法と言えます。

禁欲期間を短くすることに加えて、精子の質の改善のために男性が取り組める方法を以下にご紹介します。

・バランスの良い食生活を心がける
 肉食に偏りがちな方は、野菜や果物、魚も意識して摂るようにし、炭水化物は玄米ごやんやライ麦パンなどの、精製度の低いものに替えてみましょう。

・十分な睡眠と適度な運動を
 適度な運動は体の抗酸化力を高め、ホルモンバランスにもよい影響を及ぼしますが、過度な運動はかえって精子の質の低下につながるので注意が必要です。

・適正体重を維持しましょう
 やせすぎ、太りすぎ、どちらもパートナーの妊娠率の低下につながることがわかっています。

・タバコやアルコールはほどほどに
 精子の質を下げる原因となる、酸化ストレスを増やしてしまうほか、アルコールは男性にとって大切なミネラルである亜鉛の吸収を妨げてしまいます。

・育毛剤はひかえましょう
 フィナステリドを主成分とするAGA治療薬には、男性ホルモンの作用を抑えるはたらきがあるため、精子の質の低下につながります。

・高温に注意
 精子をつくる精巣は熱に弱い性質があります。長時間のサウナや入浴、ぴっちりとした下着は避けるようにしましょう。