まずは、ステップアップに関する考え方を整理してみます。
確かに、40歳を超えると、自然な受精による(自然妊娠や人工授精)妊娠率も、体外受精による妊娠率も同様に低下し、体外受精を受けても、受けなくても、妊娠率に大きな差はないと報告されています。
このことは、高度生殖補助医療をもってしても、年齢による卵子の老化を逆転させることは困難なことをあらわしています。
であれば、卵管造影検査やご主人の精液検査で問題がなければ、体外受精にステップアップする意味はないのかと言うと、そう言い切れるほど単純な問題でもありません。
なぜなら、卵子と精子が確実に出会えていて、受精が成立しているかどうかは確かめようがないからです。
たとえ、卵管造影検査で問題がなくても、ピックアップ機能、すなわち、排卵され、卵巣から飛び出た卵子を、卵管采がキャッチして、卵管内に取り込む機能が、全ての周期で、うまく働いていないこと(ピックアップ障害)があったり、また、たとえ、卵子と精子が出会えていても、卵子を取り囲む膜が分厚くて、精子が卵子の中に進入できないために受精が成立していなかったり、さらには、たとえ、卵子と精子が出会えて、受精が成立していても、卵管内の受精卵を運ぶ働きが低下しているため、受精卵が着床する場所まで移動できないというようなことが、確率的には低いものの、あり得ます。
もしも、これらの問題が存在しているのであれば、体外受精、もしくは、顕微授精でしか妊娠は望めません。
このような問題があるかどうかを通常の検査では見つけることは困難ですから、体外受精や顕微授精の必要性は、不妊期間から判断するしかないのが現実です。
つまり、タイミング法や人工授精を一定の期間や回数を繰り返しても妊娠できなければ、それまでの検査では発見できない不妊原因があると想定して、ステップアップを検討するという考え方です。
ところが、高齢になると、見極める期間を設けることは得策ではありません。
ですから、把握しきれない不妊原因が、たとえ、確率的には低くても、早めにステップアップを検討せざるを得なくなります。
さて、これまでの経緯を拝見しますと、昨年、転院して初めての人工授精で妊娠されたとのこと。
残念なことに流産に終ったとのことですが、このことは、卵子と精子が出会えており、そして、受精障害などがないことを教えてくれています。
これまでの検査で把握しきれない不妊原因が存在する確率は大変低いと考えられますので、このまま人工授精を繰り返すという考え方は決して無理のある考え方ではないと思います。
一方で、お二人のお考えとして、あくまでも自然に近い妊娠のこだわるのか、もしくは、体外受精や顕微授精を受けてでもお子さんを望まれるのか、お二人でよく話しあっておくことも大切だと思います。
結局、このまま人工授精を繰り返していれば妊娠できるのか、もしくは、体外受精や顕微授精にステップアップしたほうが確実性が増すのかどうか、誰にも分からないわけです。
そのことを追求しても答えは出ないのですから、大切なことは、後々、"後悔しない選択"だと思います。
そのことを考慮に入れて、今後の治療を選択されればいかがでしょうか?
うまくいくことをお祈りしています。